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come read・・・0001 風の足音

朝の海は思っていたよりも静かだった。波は控えめに足元の岩をなぞり、遠くの空は薄い金色に染まっている。


 山之上夏海(やまのうえ なつみ)は防波堤の上に立っていた。風が制服の裾を揺らし、学校へ行くフリをして、ここまできた。転校してきて数日すでに人間関係に疲れていた夏海だった。


 そんな自分が情けないと思いながらも足は駅とは逆の方角へ向いていたのだ。



その時だった、「おはようさん」背後から聞こえてきた声に夏海は驚いて振り返った。


 一人の老婦人が防波堤の端をゆっくり歩いていた。手には小さな袋を提げている。


 「おはようございます」思わず返した声がかすれた。


 老婦人は何かを見つけて立ち止まり、足元をみつめ、何か拾っては袋に入れる。

ゴミ拾い?にしては、どこか儀式のように丁寧だった。


 [何しているんですか?」

気になって聞いてみると老夫婦は少し微笑んで答えた。

 「落とし物拾い、誰かの大事なものだろうと、思ってね」

そう、言って見せてくれたのは、ボタン、砂をかぶったペン、貝殻が付いた髪留め。どれも日常の小さなかけらだった。


 「あなたの名前は?」

 「・・・夏海、山之上夏海」

 「わたしは、厨帽雪乃、ここの防波堤がすきで、毎朝風と一緒にあるいているの」


 "風と一緒に"、その言葉が胸に残った。


 「また来るといいよ、落し物は人の記憶と似ているから」

そう、言って雪乃は防波堤の先へ歩いて行った。

その足音は風の音にまぎれて消えていった。





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