第七章 解決編(後半)
第七章 転(感情の爆発)
「――ふざけるな!」
古物商が突然立ち上がり、机を叩いた。
「俺がやったっていうのか? 証拠もねぇのに、人を陥れる気か!」
その声は広間に反響し、緊張をさらに高めた。
駐在さんが「落ち着け」と制したが、古物商は耳を貸さず、なおも叫ぶ。
「足跡だの、光だの、曖昧なもんばかりじゃねぇか! そんなもんで俺を罪人扱いできると思うなよ!」
探偵は静かに彼を見つめ、わずかに首を振った。
「曖昧なのは証拠ではなく――あなたの態度です」
古物商の顔に、怒りとも恐怖ともつかぬ影が走る。
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探偵は懐から小さな木箱を取り出した。
「これを見てください」
それは主人が女中に渡そうとしていた贈り物だった。
磨き込まれた小物入れ。蓋の裏には、短い言葉が刻まれていた。
――いつもありがとう。君の働きに感謝している。
女中の目が大きく見開かれた。
「……これは……」
探偵は穏やかに告げる。
「この館の主は、あなたを、大切に思っていたのです」
その瞬間、女中の膝が崩れ落ちた。
「違う……あの方は……私に酷い……仕打ちを……!」
涙が床に滴り落ちる。
声を振り絞りながら、彼女は顔を覆った。
「私は……私が……主を……!」
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古物商はなおも叫ぼうとしたが、駐在さんが一歩踏み出し、その肩をがっしりと掴んだ。
「もうよせ」
低い声が広間に響いた。
女中の嗚咽が静かな空気を満たし、古物商の抵抗は力を失っていった。
誰もが言葉をなくし、ただ探偵の言葉の続きだけを待っていた。
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第七章 結(事件の終幕と余韻)
駐在さんは古物商の肩を押さえたまま、静かに言った。
「ここから先は、私が責任を持って引き取ろう」
古物商は顔を背け、歯を食いしばった。
「……ちっ、くだらねぇ。俺は騙されただけだ……」
その声には、もはや勢いもなく、虚しさだけが残っていた。
女中は床に膝をつき、両手で顔を覆って泣き崩れた。
「主は……私を思っていてくださったのに……。私は……」
嗚咽に言葉が溶け、声は途切れた。
探偵はその傍らに膝をつき、小さな声で言った。
「幻影は消えても、想いは残ります。館の主は最後まで、あなたを信じていたのです」
女中の涙がこぼれ落ちる。
その姿に、広間の誰もが胸を締めつけられた。
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やがて駐在さんが二人を伴って広間を後にし、扉が閉ざされた。
静寂が戻る。
その中で、クマちゃんはそっと探偵の袖を掴み、小さな声で囁いた。
「……怖かったけど、メイドちゃんがいてくれてよかった」
探偵は微笑み、クマちゃんの頭を撫でた。
「大丈夫。幻影は消えても、真実は残ります」
窓の外、吹雪は完全に止んでいた。
朝日が昇り、雪面を黄金色に染めてゆく。
それはもう“血の幻影”ではなく、確かな真実を映す光だった。
(完)
スペシャルサンクス!
クマちゃん&メイドちゃん




