第四章 転落
第四章 転落
吹雪は一層強まり、窓を打つ風が館をきしませていた。
広間の隅で、作家志望の男は相変わらずノートに筆を走らせていた。
「……光……赤……納戸……」
聞き取れるのは、そんな断片的な言葉ばかり。
若者はその姿に身をすくめる。
「な、なんなんだよ……」
古物商は鼻で笑った。
「ほら見ろ、気味が悪いだろ。あれこそ犯人の正体だ!」
誰もが疑いの眼差しを向ける中、探偵は違和感を覚えていた。
(彼は……何かに気づいている?)
その時だった。作家志望が突然立ち上がり、声を張り上げた。
「そうか! 判ったぞ!!」
直後、轟音とともに館が揺れ、窓の外が白光に包まれた。落雷だ。
一瞬の閃光の中、ベランダに駆け出す作家志望の姿がシルエットとなって浮かび上がり――そして、闇に消えた。
悲鳴が広間を揺らした。人々が駆け寄ると、ベランダの下には雪に覆い被さるように倒れた作家志望の身体があった。
駐在が叫ぶ。
「事故だ! ……いや、誰かが突き落としたのかもしれん!」
探偵はすでにテラスに出て、雪面と手すりを調べていた。
「足跡がある……。それも一人分ではありません」
指先でそっと触れると、手すりにはかすかな繊維の付着があった。
「……強い力で押さえつけられた痕跡。事故ではありません」
作家志望の手からこぼれた小さな紙片、探偵はそれを拾い上げた――ぐしゃりと潰され、雨に濡れたノートの一部。文字はかすれて判読できないが、そこに、確かに、何かが書かれていた。
クマちゃんが探偵の腕を摘まむ。
「ねえ、これって……」
探偵は静かに首を振った。
「まだ断片にすぎません。ですが……彼は真相に触れていました」
吹雪はますます激しく、館を外界から切り離していく。
残された人々の心に、さらなる不安と恐怖を植え付けながら――。
(つづく)




