「幻想に逃げていた男の幻想が暴き立てられる話」
少女は素晴らしい。
僕は野原で戯れている少女を見て、心の底からそう思う。
あどけない笑み、華奢な体躯、可憐な風貌、高い声。
3人はかわいらしい天使たちだ。
休暇をとって3人の少女たちをこの別荘へ連れてきてよかったと僕は思う。
僕は彼らの家庭教師で、その縁で3人を招待したんだ。
「先生! 一人で見てないで、こっちきなさいよ!」
長女は少し気が強くておしゃまな女の子。
けど、気立ては優しい子で、僕の腕をひっぱってくれる。
そのとき、ぼふっ、とという音と共に腰元へと衝撃が走った。
「先生、先生はあたしと遊びたいわよね?」
こちらを試すような笑みを浮かべるのは次女だ。
彼女はおてんばで、こちらを振り回すような言動をよくとってくる。
かわいらしい子であった。
「ごほっ、ごほっ、先生ぇ……」
おっと一番気を付けないといけないのは三女だね。
僕の袖を引っ張ってる彼女は病弱なんだ。
そのうえ、自己主張が苦手だから、今も上目遣いで僕を見つつを困ったように言葉を紡げていない。
「ああ、ごめんな。……みんな今日は外で遊ぶのはここまで、そろそろ3人とも家の中に戻ろうね」
『ええー』『けちー』という言葉が飛び交うも、三女が倒れてしまわないように、彼らを家に帰した。
そうだ、薬を用意しておかないと。
――『休 9 日 』
僕が三女を膝の上にのせて、髪をなでていると、チャイムがなった。
野太い声が聞こえる。
少女たちがおびえている、すぐに対処しなければ。
扉を開くと、そこには警官たちがいた。
彼らは令嬢を見せ、僕の家に踏み込もうとしてくる。
「お前には少女誘拐の容疑がかかっている」
身に覚えがない。
僕は急いで扉を閉じ、少女たちを探した。
しかし、彼らはかくれんぼのつもりだろうか、一向に見つからない。
どうして、なぜ、胸の内を焦燥感が焼き焦がす。
僕の少女たち、どこにいる?
彼らを探しているうちに、扉が破られた音がした。
ここに居たら捕まってしまう。
早く、どこかにいかなければ。
僕はとっさに地下室へと逃げ込んだ。
ここなら分厚い鉄の扉があるからそうそう破られまい。
しかし、地下室に逃げ込んだ際にひどい悪臭に僕は顔をしかめた。
なぜだ? どうしてこんなひどい匂いがするんだ……?と顔をしかめ、僕はランプに火をつけた。
そこには3人の死体があった。
あ。
ああ。
あああああ。
そうだ、……そうだ、すべて思い出した。
僕は3人が変わってしまうことに、大人になることに耐えられなくて、ずっと3人が少女でいてほしくて、ここに連れてきて……。
それから、姿かたちが変わらないように処置をしようとしたら死んでしまったんだ……。
僕は3人の死体を眺めている。どんどんと背後で扉がたたかれる音が、どこか遠くに感じるのだった。