始まりは朝焼けの場にて
今日もいつも通り簡単なクエストを攻略して、お金をもらい、宿に戻って風呂も入った俺は、ベットの上に座りながら考え事をしていた。
俺の名前はアルヴィス。17歳になって、周りは結婚やらダンジョン攻略やらやっている中、低難易度クエストを周回してばかりいた。
だがこの前露店で見かけた短剣が欲しい。そろそろ高難易度クエストに挑戦してみたいものだが。
(なんて、俺のレベルじゃ無理か……)
俺一人が高難易度クエストを受けたところで結果は見えている。
精々魔物のおもちゃになっておしまいだ。
「いや、待てよ?」
今まで一人でクエストを受けることしか考えていなかったが、そういえばパーティー募集をすればいいじゃないか。
パーティー募集で強いやつと組めば、俺でも高難易度のクエストをこなせるはずだ。
「そうと決まれば今日は早めに寝て、明日朝早くギルドに張り紙を出しに行くか」
珍しく新しいことに挑戦しようとした俺は、重いアーマーをベットの脇に下ろし、世間がまだお風呂に浸かっている時間に眠りについた。
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早朝、俺はまだ小鳥の囀りも聴こえない、薄暗い時間帯に目が覚めた。
いつもよりかなり早い時間に起きたが、眠りにつく時間も早かったため眠気はそんなにない。
「緊張してきた……」
今日は記念すべき俺が初めて人とパーティーを組んでクエストを受ける日だ。
俺はいつも愛用しているアーマーと短剣をきれいに磨き身に着け、ギルドに向かった。
街に出ると、当然この時間の外に人なんているわけもなく、人影を見かけることはなかった。
たとえ街中であろうとこの時間は治安が悪い。冒険者以外が用もないのに外に出るような真似はしないだろう。
だが、世界に自分一人しかいないと思わせてくれるこの瞬間は案外好きだ。 秋に差し掛かるこの時期は、そよ風も気持ちがいい。
と、そんなことを考えながら10分ほど歩き、俺はギルドの前についていた。
街中で一番大きいその建物は、様々な種族が通れるように扉が大きい。
「初めてのパーティー募集は緊張するな……」
俺はそんな扉を前にして、この時間は中にまだ誰もいないにも関わらず、毎日通っていたはずのギルドの前で深呼吸していた。
ほんとに俺なんかが人とパーティーを組んで迷惑かけずにやっていけるんだろうか……1回限りのパーティー募集だろうと、迷惑はかけられない。
「なにいってんだか……」
俺はここまできてなよなよしてる自分のことを嘲笑い、気持ちを切り替えた。
「いくか!」
呼吸を整えた俺は扉に手をかけ、開けた。だが、中に入ろうとすると、中でうろうろしている人影が1つ見えた。
俺は気のせいかと思ったが、冒険者の勘で気のせいではないと感じ、息を殺し観察していたが、やはり間違いなくあれは人だ。
おかしいな、こんな時間にいつも人はいないはずだ。声をかけてみるか。
「あの……」
「ひゃあ!」
「うわぁ!」
びっくりした。驚く声に反応して俺まで叫んでしまった。まったく、恥ずかしい。
「す、すみません。大きな声を出してしまって……」
奥から聞こえてきたのは女の子の声だった。か弱く、さっきの声とは裏腹にとても小さな声で透き通っていた。
「いや、俺のほうこそ急に声をかけて悪かった」
急に叫ばれたのはびっくりしたが、一人だと思ってたところに急に声をかけられたらびっくりするだろう。
俺は自分に落ち度があると思い、謝った。
微かに窓から入ってくる光で、彼女の姿が見えた。布で作られ、何度も破けたところを縫い直したような上着に、同じようなズボンを履いていた。暗紫色のその髪は光に照らされ、輝いているようにすら見えた。
おそらく冒険者ではない一般人だろう。そんな子がこの時間に一人でいるのはとてつもなく危険だ。
「こんな時間に何してるんだ?」
「ご、ごめんなさい!」
まずいな、怯えている。ただ疑問に思っただけなんだが。聞き方が悪かったか?
「いや、怒るつもりはないよ。ただ、この時間は君みたいな子が一人でいるのは危ないんじゃないか?」
今度はできるだけ優しい声色で、彼女の目線に合わせて、少しだけかがんで聞いた。
「お母さんにもそういったんですけど、クエストを受けてお金を稼いで来いって……」
彼女は俺と目を合わせようとはせず、涙ぐみながら答えてくれた。
なるほど、親に強要されているのか。これはいろいろと問題がありそうだ。
「そうだったのか……家には帰りたくないか?」
俺は目線を変えないまま、少女にさっきのような声色で話しかけた。
だが、少女は依然として目を合わせてくれないまま。
「……帰りたくない」
消えてしまいそうな声で言った。
まあそうだよな。そんなことをしてくる親の元に帰りたいというほうがおかしい。
だけど俺がどうにかできる問題でもない。元々俺はそんなことに首を突っ込む主義じゃないからな。
今日はちょっと調子に乗って高難易度クエスト受けてみるか的なノリで来てしまったが。
「確か、街にはそういう子供を助けてくれる場所があった気がするがそこへは行きたくないのか?」
俺は曖昧な記憶を頼りに、彼女へそう問いかけた。
「行きたくない……あそこはだって……」
彼女は何かを言おうとしたが、途中で口を噤んでしまった。こういう時に深堀するのもよくないか。
「そうだな、俺もちょうどパーティー募集の張り紙を出しに来たところだ。メンバーが来るまではここにいてやる。こんな時間に一人は怖いだろ?」
まだ俺が家を出てから一時間も経っていないぐらいだ。外は明るくない。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
劣悪な環境で育っているにもかかわらず、人に感謝の気持ちを伝えられるなんて、すごくいい子じゃないか。
俺はそんな彼女を見守りながら、パーティー募集の張り紙を書き始めた。
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やっと書き終わった……。
初パーティー募集だからなんて書けばいいかなんてわからなくて、めちゃくちゃ考えてしまった……。
おそらく書き始めてから1時間は立っているだろう。短い文章にこんなにも時間をかけてしまった。
朝早く家を出て正解だったな。
俺が紙を書いている間に、ギルド内はだんだんと人が増えていき、張り紙を出すのにちょうどいい頃合いになっていた。
その間、さっきの少女はずっとギルドの隅っこの椅子に座っていた。何度かギルドの人に声を掛けられていたが、会話をしているのはみていない。
おそらく、返事をしていないのだろう。あんな家庭で育ったのだったら、警戒心が強まるのも無理はない。
そんなことを思いつつ、募集掲示板の前へと歩いていき、張り紙を張った。あとは人が来るまで待つのみだ。
俺もやっと高難易度クエストを受けられると思うと、わくわくしてきたな……。
俺は、ギルド1階を見渡せるようになっている2階へと行き、そこの椅子へ座って待っていた。
だが、パーティー募集に乗っかってくれる人が現れることはなく、ただただ時間だけが過ぎていった。
こんなことなら、いつもみたいに低難易度のクエストを受けとけばよかったな……。
そんな、後悔混じりなため息を吐いていた時。
「私とクエストを受けてくれませんか……!」
やっと仲間が見つかった!と思いながら顔をあげてみると、今朝会話した家庭環境に問題を抱えた少女だった。
待ちに待って見つかった仲間だが、こんな子とクエストなんて受けられない。
いつもの俺が受けてる低難易度のクエストなら問題ないが、今日受けるのはいつもとは違う。危険だ。
「他をあたってくれ、君にこのクエストは荷が重すぎるよ」
俺は座ったまま、少女を見上げる形でそう伝えた。
「嫌です。お金がないとお母さんに怒られるんです……」
このまま成果がないまま帰って、親に怒られるのが怖いのか少女は焦りながら言った。
「それなら、君でも受けられそうなクエストを募集掲示板で探せばいいんじゃないか?」
わざわざ自分に見合わないクエストを受けるよりも、自分に見合ったクエストをコツコツやったほうがいい。
ソースは俺だ。
「私でも受けられるクエストなんて、募集掲示板に貼ってありません……1人で行ったほうが報酬を独り占めできますから……」
そうなのか。今まで一人でクエストを受けてきたせいで、そんなこと知らなかった。
確かに、低難易度のクエストをわざわざ募集してまで行くやつはいないか。
「だから、私をクエストへ連れて行ってください。」
少女は頭を下げながら俺にそういった。
「だめだ、何度も言うが君にはまだ難しすぎるよ」
こういう時はきっぱりと断らなきゃだめだ。このまま受けたら彼女も俺も危険だ。
「私、またお母さんに怒られたくないんです」
そんなこと言われたってなぁ……。
「あなたしかいないんです。あなたがいいんです!」
……まずいな、こんなことを言われたら心が動いてしまう。
きっぱり断らなきゃだめだといったばかりなのに。
「だから、お願いします!」
彼女は、再度頭を下げて言ってきた。
彼女の声はギルドの1階まで届いていて、1階と2階の奴らの視線が痛い。
「…………わかった」
俺はそんな状況に耐えられなくて、彼女の要望を受け入れてしまった。
だって仕方ないじゃないか。俺だって、元々彼女の手助けをしたいとは思ってたけど、ほかの所をあたってくれたほうが危険が少ないと思ったんだ。
そんなときにあんなことを言われたら……
「い、いいんですか!?」
彼女は期待に満ち溢れた表情で、驚きながら言った。
だが、彼女が来るからには、何かしら条件を付けたほうがいいだろう。
お互いのために。
「ああ。だけど、条件がある」
「なんですか……?」
「まず、君が来るなら、クエストの難易度を少し下げたほうがいい」
俺の目的から少し離れるが、レベルを1つや2つ下げたところで俺が欲しい短剣を買えるだけのお金は貰えるだろう。
「…………分かりました」
彼女は少し不満そうに答えた。仕方のないことなんだけどな。
自分が使えないと思われたのが嫌だったか。
「そして、薬草や、料理に使えそうな素材はできるだけ見つけたら全部回収してくれ」
これをしてくれると俺がとてつもなく助かる。
普段なら金を払って雇うような役割だが、いつも誰も雇わず自分ですべて回収していたのはかなり面倒くさかったからな。
地味に金かかるんだよ、あれ。
「いいですけど、私何が食べられて何がダメなのかがわからないです」
「普段食卓に出てくるようなものでいいんだ。あと、わからなかったら俺に声をかけてくれ」
「私、硬いパンとかしか食べたことないのでわからないです」
まずい、彼女の家庭環境が複雑なことを忘れていた。気まずい。
「そ、そうか……悪かった……」
「いえ、気にしないでください」
気を使わせてしまったみたいでさらに申し訳ない気持ちになったぞ……。
「…………じゃあ最後に、これは言わずもがなだが、俺のそばから離れるなよ」
「もちろんです。ありがとうございます!」
「お、おう。いい子だ」
人から1日に2回もありがとうを聞けるなんて。
少しきもい感じになってしまったが、彼女からしたら俺は頼れるお兄さんに映ってるだろうから良しとしよう。
「じゃあ俺は募集張り紙を剥がしに行ってくるから。準備しとけよ。終わったら、町の北門で待っててくれ」
「はい!」
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「準備できました!」
「さっきと何か変わったか?」
募集張り紙を剝がした後、北門で待機していると、10分ほどで彼女の姿が見えた。
だが、さっきと見た目が何も変わっていない。何を準備してたんだろうか……。
「やる気が違いますよ!」
「そ、そうか……」
彼女は自分の胸に手を置きながら、自信満々に言った。
この子、こんなキャラだったか……朝はおとなしかったんだが。
久しぶりに人とまともに喋って楽しいんだろうか。まあ、それは俺も同じだが。
そうして、俺たちは今回のクエスト、アラスの木の根っこを集めに、森へ向かっていた。
簡単そうなクエストに聞こえるが、アラスの木はかなり根っこが深いところにあり、取りづらいのだ。
今から行く森は、あくまでそこまで難易度が高いわけでもないので、ある程度道が整備されていた。人が良く通るのだ。
まあ、いつも俺が受けてるクエストよりかは少し危ないところだが。
「……あの、これからクエストを受けるわけですし、名前を聞いてもいいですか?」
歩きながら、彼女がそんなことを聞いてきた。
そういえば、名前を言っていなかったな。一人でクエストを受けすぎてそんなこと忘れていた。
「ああ、俺のことはアルヴィスと呼んでくれ」
「アルヴィスさんですか。わかりました!」
「アルヴィスでいいさ」
ずっと一人でいたから人に名前を呼ばれるのなんていつぶりだろうか。
一気に中が深まった気がするな。
「君の名前も聞いていいかい?」
俺の名前を教えたのだったら、彼女の名前を聞くのも間違っていないだろう。
「名前を付けてもらわなかったので、昔好きだったものからとった名前ですが、シェラルテです。」
シェラルテか。確か、花の名前だったはずだ。
「いい名前じゃないか。花が好きなのか?」
「花が好きというよりかは、シェラルテが好きなんです。あの、暗紫色の花を見ていると、切ない気持ちになって」
「そうか。俺も何度か見たことがあるが、シェラルテの花はかなり好きだ」
本当のことだ。シェラルテの花は見ていて気分が落ち着く。
花に普段興味がない俺でも、あれは結構お気に入りだった。
「っと、着いたな」
そんな話をしていたら、クエストの場所へ着いていた。
よし、アラスの木を探そう。
「アラスの木の根っこを持ち帰るんですよね?アラスの木ってどんな感じなんですか?」
「そうだな、木と呼ばれてはいるものの、かなり小さい。俺の背丈ぐらいしかなくて、木の部分はオレンジっぽいな。あとは葉っぱが四角いんだ。」
「なるほど、結構わかりやすいですね。」
アラスの木はその特徴的な見た目から、かなり見つかりやすい。だが、気力増強効果のある根っこにしか需要がないため、その取りづらさから、みんなクエストを受けるのを嫌がる。
「じゃあ、俺に声が届く範囲でアラスの木を探してくれ。俺も探してくる」
「わかりました!」
そういって、シェラルテは少しだけ俺から離れた場所でアラスの木を探しに行った。
きっとシェラルテが見つけてくれるだろうから、俺は薬草とかでも集めとくか。
周りには薬草がいくつか生えていて、食用のキノコも生えていた。
だが、こんなに生えているとはラッキーだな。
俺がいくつか必要なものを集めていると、あるものがあった。
「これは……1つだけ持ち帰っとくか。」
そういえば、シェラルテからの声がないな。ちょっと見に行ってみるか。
「シェラルテ!どこにいる!」
「……………………」
シェラルテからの返事がない。まずいな、何かあったか?
「シェラルテー!」
「……………………」
返事が返ってこない。何かあったのだろう。
だが、シェラルテの位置がわからない。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
呼吸が荒くなる。焦っているのか。
冷静になれ。
シェラルテには声が届く範囲に居ろといった。そう遠くには行ってないはずだ。
(…………あれは……アラスの木か?)
こんな近くにアラスの木が有ったなんて……。
それならシェラルテは見つけた瞬間に俺を呼んだはずだ。なのに俺のことを呼ばなかったってことは……。
(このアラスの木よりも前のところで何かあったってことか)
なら、探す範囲は限られる。
あのアラスの木から入口まではそこまで遠くない。ってことは、アラスの木から入口までを探せばいいってことだ。
俺は全速力でシェラルテを探した。
そして、シェラルテを見つけるのにそう時間はかからなかった。
「シェラルテ……大丈夫か……」
俺は息が乱れたまま、掠れた声でシェラルテにそう言った。
シェラルテは、入り口から5分ほどのところで倒れていた。
だが、血や、ケガは見つからない。おそらく、睡眠系が得意な魔物に眠らされたのだろう。
俺は周りにまだそいつがいるか探すが、見当たらない。まあ、魔物がいないのならそのままシェラルテを背負って帰ればいいだけだ。
俺はそうしてシェラルテを背負おうとすると、か細い声でシェラルテが言った。
「下……土の……下……」
土の……下?
「うわぁ!な、なんだ……!?」
シェラルテがそういうと同時に、雪崩のような音と共に、小さいキノコが大量に生えてきた。
なるほど、シェラルテはこいつらから出る睡眠薬と同じ成分の胞子で眠らされたってことか。
おそらくこいつらは、俺のいつも行く森にいる奴らと一緒の個体のはずだ。こいつらは厄介な敵だが、対処法を知っていたらなんてことはない。
1度胞子を吐くと、少しの間は地面の中に潜らない。まあ正しくは潜れない、か。
筋肉を強張らせて胞子を出すから、出してからすぐは固まったままになる。
まあ、五分ほどすればまた潜っていくが。
そして、本来こいつらは、眠らせたやつを地面に引きずり込むが、大きな音がするとすぐに地面に戻る。
おそらくシェラルテを呼ぶ俺の声で潜ったまま、出てこなかったんだろう。
「こいつらなら大丈夫だ。安心しろシェラルテ」
俺はそう言いながら、胞子を出して無防備になったキノコたちを、1本1本切り始めた。
吸わなきゃいいだけだから、息を止めとけばいい。苦しくなったら胞子の範囲外にでて息を吸うだけだ。
そうして、すべてのキノコを採った俺は、全部バッグに入れた。
「シェラルテ、大丈夫か?」
「…………大丈夫だけど……眠たい……」
「それなら大丈夫そうだな」
命に別状はなさそうだ。アラスの木の根っこはもう取れないな。
あの深さは1人じゃ危険だ。今日は、キノコを売ってお金にしよう。
沢山採ったからいい値段にはなるはずだ。
だが危なかった。いつも行く森なら何人か周りにいるから安全だが、今日のところは人があまりいない。
一人できていたら、アラスの木を探すのに夢中になって簡単に眠らされていただろう。
やはりパーティーは大事だな。
そうして、俺はシェラルテを背負ったまま町へ戻った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
町へ帰り、キノコの換金も終わらせ、クエスト失敗も伝えてきた。
あとはシェラルテをどうするか、だ。
彼女は家へは帰りたくないと言っていた。聞いただけだが、さすがにあの劣悪な環境にシェラルテを返すわけにはいかない。
俺はギルドの前にあるベンチで、シェラルテに声をかけた。
「そろそろ起きろ、日も暮れてきたぞ」
「……んん……なに」
シェラルテは目をこすりながら、眠そうに言った。
「なに、じゃない。お前これからどうするんだ?もう夜になるぞ」
「家には帰りたくない」
まあそりゃそうだろう。わかっていた。
「そうか、なら俺についてくるか?」
俺だって、森から町へ帰る途中に、いろいろ考えたさ。
だけど、シェラルテにとって今1番いい選択肢はこれなはずだ。
「え、いいの?」
「まあ、帰る場所もないだろうしな」
「……うれしい」
よかった。ここでアルヴィスとは一緒に暮らすつもりなんていないとか言われたら死んでたところだ。
ああ、あと1つ忘れていたな。
「シェラルテ、これ受け取ってくれ。」
「え、これって……シェラルテの花……?」
「そうだ、森の中で見つけたから持って帰ってきたんだ。好きなんだろ?」
「大好きだよ!ありがとう……!」
シェラルテは、笑いながらそう言った。
こんなかわいい子に、笑顔で感謝されたらくるものがある。
「今日はクエスト失敗しちゃったけど、途中で採ったキノコを売ったらなかなかいいお金になったぞ」
なんならクエストクリア報酬の2倍ぐらいあることは黙っておこう。なにかねだられたら断りづらいからな。
「お腹すいただろ?ご飯でも食べに行こうか」
「……いいの?私、行ってみたいお店があったんだ」
「そうか、案内してくれ。御馳走しようじゃないか」
俺は少しドヤ顔を決めながらシェラルテにそういった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この後シェラルテが連れて行ってくれたお店は、少しばかり値段が張るところだった。そして、短剣を買うためのお金が無くなって、宿の部屋で少しばかり言い合いになったが、シェラルテと食べるご飯はいつもよりも数倍おいしく感じられたから良しとしよう。