番外編短編・兄の話
頂き女子に騙された。金額としては一千万円。コツコツ貯金していたものだが、全部消えた。四十手前のアラフォー男にとってはキツい。
頂き女子はネットでも有名なインフルエンサーだったらしく、信者を何人も抱えていた。俺の詐欺事件もなぜか犯人が擁護されていた。ネットで俺は誹謗中傷の的だ。ネットだけならまだマシだが、実家やご近所さん、職場にも中傷が相次ぎ疲弊していた。記者からも追われ、俺って加害者だったのだろうかと思いつめてしまう日々。
そんな折、妹の歩美と会った。
実家ではなく、その近所のカフェに呼び出されたわけだが、何だろう。
そういえば妹は昔からお花畑で勉強嫌い、イケメンが大好きで、金遣いも荒かった。アイドルのコンサート代やグッズに何万も使っていたが、金が無くなると「お兄ちゃん、一生のお願い」と泣きついてきた。
はっきり言って馬鹿な妹だが、家の中ででは甘やかされていたし、俺も妹に頼られると強く言えない。情け無い。こういうところが頂き女子に騙されたんだと思うが……。
「お兄ちゃん、一生のお願い」
「そう言うと思ったよ。いくら必要なんだよ。十万ぐらいか?」
妹の目が泳ぐ。
「さ、三百万必要なの。実は……」
妹には婚約者がいるらしい。その婚約者の事業の為、どうしても必要な金額らしい。
妹の話を聞く限り、どう見ても結婚詐欺。妹はイケメンすぎる彼とか言っていたが、女に金の無心をする男って……。
しかし妹を責められない。自分だって騙されたから。騙されている時は、何というか思考を相手にハイジャックされ、まともな判断ができなかった。
冷静に考えれば変な所はいくつもあったが、恋した相手を疑いたくない。信じたい。たぶん、そんな気持ちを利用されたのだろう。
騙されている妹も安易に責められない。その立場に立たないと理解できない事もある。もし、俺も騙されていなかったら、妹を責めてしまった事だろう。
「わかった。お金を用意するのは大変だから、少し時間をくれないか?」
「本当? お兄ちゃん、ありがとう!」
その妹の笑顔は、頂き女子そっくりだった。妹が俺を騙しに来ている事は完全に見抜いていた。
「ああ、可愛い妹の一生のお願いだからな。よし、お兄ちゃんとしては何とかしよう」
口ではそう言っていたが、頭では全く別の事を考えていた。まずは俺の詐欺事件でお世話になった担当刑事に連絡し、妹の事も調べて貰うよう頼もう。
もちろん、お金は払わない。今回の「一生のお願い」は聞かなくても良いだろう。聞かない方が本人の為だ。時には甘やかさない事も愛。これは身内にしか出来ない行動だろう。友達や知り合いレベルだったら、そんな悪役は引き受けたくないはず。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
笑顔の妹を見ながら、俺は複雑だ。たぶん、この笑顔を見られるのは最後。もしかしたら妹も俺と同じように誹謗中傷に苦しめられるかもしれないが、仕方ない。
「うん、待ってろ。すぐに用意するからな」
心を鬼にして、嘘を吐く。
頂き女子にも同じようにすれば良かったのかもしれない。ちゃんと学校行けとか、資格の勉強しろとか厳しい事言えれば良かった気もするが、もう後の祭りだ。
今はただ静かに現実を受け止めるしか無さそうだった。