第七話 それでも私は幸せです
「え!? そんな婚約者にお金あげてるってどういう事? っていうか本当に結婚するの? 実家に行った? 指輪は? 新居は? 具体的に話は進んでいるの?」
現状を友達の朋美に報告した。
ずっと朋美には会っていなかったので、近所のカフェでお茶をしながら報告。なぜか分からないけれど、朋美は慌てていた。
「あのさ、本当にその男、結婚する意思はあるの? 言葉では何とでも言えるけど、行動ではどう? 具体的にちゃんと約束守ってる?」
朋美に言われた事は耳が痛い。確かにワク様は口先だけで約束は何一つ守ってはいなかったが。
「でもワク様、今回の疫病騒ぎで大きな賞を受賞するし。すごいでしょ?」
「いや、そういう世間体じゃなくて、歩美自身に何の約束を守ってるのかっていう話なんだけど……」
朋美はだんだんと私と話すのが嫌になってきたみたい。これ以上ワク様について何も言ってこなかった。
「ま、私はこれで幸せだから。イケメンのワク様と一緒にいるだけで、ステータス欲も満たされるし、自慢できるし。思いやりある常識人って言われるし」
「そう……」
「うん、本当に私は幸せ」
「だったら良いんじゃない? 会社のお金、バレないように頑張って」
なぜか朋美の声は、突き放したように聞こえたが、気のせいか。もしかしたら私がハイスペと結婚できて嫉妬しているのかもしれない。
「うん、頑張るよ」
私はそう呟き、朋美と別れた後は銀行に向かった。もちろん、ワク様にお金をあげる為。今はこんな風に彼にお金を与える事が楽しくて仕方がない。
お金をあげた後のワク様の笑顔を想像するだけで胸がトクゥンと踊る。中毒になっているかも知れないが、ワク様は最初に約束してくれた。
「この疫病から必ず君を守るから」
そうだ。彼が嘘をつくはずがない。
◇◇◇
カフェには一人残された朋美がいた。さっきまでは友達の歩美と話していたが、その表情は曇っていた。
正直、朋美はドン引き。典型的な結婚詐欺だった。普通、婚約相手から何回も何回も金を取らない。誠実な男は行動で示す。結果を見せる。約束を守る。例えば婚姻届けを一緒に出したり、式場を予約したり……。
「といっても、あの状況で私が何を言っても聞かないだろうな。人は真実を知ったら怒り狂うからね。耳の痛い事を言ってあげた方が良いかも知れないけど、私は歩美の親でもないしな……。夢を壊してあげないのも『思いやり』だよね?」
朋美はため息をついていた。