第四話 ミスしちゃった……でもそんなお前が可愛いんだよ
ワク様は何でも完璧に出来るイケメンだった。家事ももちろん、仕事もあっという間に見つけてきた。ワク様らしく、ワクチン接種のバイトだったらしいが、時給もかなり良いようで、何枚もの札束を見せてきた。
「へえ、ワク様、すごいね。それに引き換え、私なんて……」
そんなワク様が素晴らしいと思う一方、私は落ち込み、部屋の隅で体育座りをしていた。
今日は仕事で大きなミスをしてしまい、上司からパワハラ三昧だった。無能、ろくでなしの脳内お花畑、情弱、テレビ脳とも罵倒され、私の自己肯定感はゼロを通り越し、マイナスの領域にあった。
「こんなお花畑でユルフワな私なんて……」
「そんな事言うなよ。むしろ、そんなお前が可愛いんだよ」
思わず泣いてしまうと、ワク様に涙を拭ってくれた。温かい指先に、私は余計に涙が出そう。
「よし、この札束で飯でも食いにいくか。飲食店のクーポンも大量にあるしな」
「いいの?」
「ああ」
しかもワク様にお姫様抱っこをされてしまい、私は逆らえない。ワク様にお姫様抱っこをされながら、近所の飲食店街へ。
「わあ、あの人、イケメンにお姫様抱っこされてる」
「素敵、羨ましいわ」
「あのイケメン、とっても社会的なステータスがありそうね」
道行く人から、そんな声も聞こえ、私はとても恥ずかしい。確かにワク様はイケメンだけど……。
とはいえ、実際、ワク様はとんでもないイケメンだ。顔が良い。何でも出来るハイスペ。ワク様と一緒にいるだけで私の自己肯定感は爆上がり。マイナスにまで落ちていた自己肯定感は、ワク様と一緒にいるだけであっという間に回復してしまった。
「お客様、あなたはとっても思いやりがあるんですね」
ワク様と一緒に入ったレストランで、なぜか店員にそう言われた。理由は全く分からないが、「思いやりがある」なんて気分がいい。地味で冴えない私だけれども、影で見てくれている人は必ずいる。
「そうだよ、歩美。俺は歩美の良いところを全部知っているつもりだよ……。そんなお前が可愛いんだよ」
ワク様に熱く見つめられ、甘え声で囁かれた。本当に昇天してしまいそう。こんな私に何て素敵な彼氏がいるのだろうか……。
「ちょっと待った!」
しかし、私達の間に知らない男が現れた。
ワク様と違い、背が低く、前髪も長い男。清潔感はないが、バンドでベースでもやっていそうなタイプ。一言で表現すればサブカル系の男だった。野生味のある不精髭は、全くタイプじゃない。ある種の女性には強烈に刺さりそうな雰囲気。
「お前、目を覚ませ。騙されてるぞ。こいつと一緒にいるとな、人体マグネットになり、5Gに繋がり、トランスヒューマンになってムーンショットされ、ディープステートの餌食になるんだよ」
「は?」
男の言う事は意味不明だった。
「人体マグネットって……。そんな非科学的でバカな話はないでしょう。デマを言わないで!」
「そうだぞ! 店員さーん! 迷惑行為をしている男がいる! 今すぐつまみ出してください!」
ワク様がそう言うと、男は本当に店員達からつまみ出されていたが。
ワク様はいつになく怖い顔だった。
「ワク様、あの人は一体誰なの?」
「我々のアンチだよ。反ワクチンという」
「え……」
その存在は知っていたが、まさかさっきの男が?
「哀れな男だよ。俺がいないと存在意義を失う。頭の中は陰謀論とデマで構成されている」
「可哀想に……」
「まあ、我々には関係ない事よ」
ワク様は再び私の頭をポンポンと叩いていた。