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第二話 なぜか知らないけれど、冴えない私がワク様に出会ってすぐに溺愛されています

 そう、きっと幻だ。あんなイケメンが突然目の前に現れるなんて現実じゃない。


 副反応が思ったよりきつく、きっと頭がバカになっていたんだ。もっとも私はFラン卒で、元々頭は良くないが。


「おはよう」

「え、ワク様……?」


 目覚めると、隣でワク様が眠っていた。これは添い寝というもの!? 


 ワク様からはアルコール消毒液のような良い香りもし、至近距離で見つめられると、うっとりしてしまうのだが。


「副反応は良くなったかい? 心配したんだよ、本当に」


 しかもワク様は甘い声を発すると、私の頭をポンポンと叩いた。


「い、いえ! 副反応は良くなったわ」


 私は顔を真っ赤にしながら、首を振っていた。この状況は恥ずかしくて仕方ないが、逆らえない。抗えない。冷静に考えればワク様には不法侵入されているわけだが、イケメンだから許す。たぶん、きっと私の幻だと思うが、こんな美味しい夢はない。だったら、存分にこの夢を楽しもうと決めた。


 それに幻の割にはワク様は体温もあり、肌もリアル。吐息も生々しくて色っぽい……。この色気に勝てそうにない。


「ねえ、ワク様。おはよう。とりあえず起きてご飯食べない?」

「いいね。俺が作るよ」

「えっ」


 トクンと胸が高鳴る。なんとワク様は料理も上手だった。エプロンをつけると冷蔵庫にあるもので、さっとスクランブルエッグ、野菜スープ、ヨーグルトスムージーを作り上げてしまった。


「食えよ。俺様が作ったブレックファストだ」

「わあ、素敵! いただきます!」


 どれも美味しい朝食だった。しかも隣にはイケメンのワク様がいる。別に朝食の味自体は大した事ないのに、とても美味しい。イケメンとご飯を食べると味も変わるのか。新発見だった。道理でブラック企業のハゲ上司を見ながら食べる弁当が不味いわけだ。


「美味しいか?」


 ワク様はハチミツよりも甘い声をだす。しかも、また頭をポンポンと叩く。何この天国。もう昇天しそう。


 なぜか知らないけれど、冴えない私がワク様に出会ってすぐに溺愛されています。


 そんなライトノベルのタイトルみたいな言葉が頭の中で踊る。まさかライトノベルのような事が現実化するなんて。玄関開けたら五分で溺愛。うん、最高だ。


「ところで歩美。俺はワクチンの擬人化という存在だ。行くところがない」

「そうなの?」

「ああ、どうするべきか」


 ワク様の綺麗な口元から苦渋が漏れる。母性本能がキュンと刺激された。完璧でイケメンに見えるワク様の弱いところ。それは私にしか知らない所?


「しかも俺、一部の人間にすごく嫌われていて。反ワクチンという愚かな人間もいるんだ」

「まあ、まあ!」

「追われているかもしれない。もしかしたら殺されるかも」

「まあ、そんな! だったら私の家で一緒に暮らしましょう。それがいいわ!」

「ありがとう、歩美」


 またワク様に頭をポンポンされた。


「好きだよ、歩美。君は可愛いね。愛してる。この疫病からも必ず俺が守ってみせる」


 ワク様の甘い声を聞きながら、肩の力が抜けていた。隣にいるワク様にさらに近づき、手も握る。


「ええ、ワク様。私もあなたが好きよ」


 ソーシャルディスタンスなどすっかり忘れていた。そうワク様が居れば大丈夫。私は必ずワク様に守られるはず。

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