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54 新時代の幕開け

 新しい議会制度を正式に発足させるための式典の日がやってきた。アルバナの歴史において、これほどまでに多くの人々が期待と不安を胸に抱いた日はなかっただろう。長きに渡る貴族による支配が終わりを告げ、国民の手による政治が始まる。それは希望の光であると同時に、未知への不安でもあった。


 宮殿前の広場には、早朝から多くの人々が詰めかけていた。老若男女、身分も職業も様々な市民たちが、冷たい風の中で肩を寄せ合いながら、新しい時代の到来を見守っていた。商人、農夫、職人、そしてかつては貴族に仕えていた者たち。彼らの表情は一様ではなく、期待に目を輝かせている者もいれば、不安げに眉をひそめている者もいた。宮殿のバルコニーには、翔とフリーデリケが並んで立っていた。その背後には、アルバナの国旗が力強く風に揺れている。翔は、広場を見下ろしながら、この世界に来てからの日々を振り返っていた。最初は戸惑いばかりだった異世界。言葉も文化も違うこの場所で、彼はフリーデリケと出会い、共にこの変革のために奔走してきた。彼は、もはやこの世界を自分の居場所だと感じていた。元の世界に戻るという考えは、もはや彼の心に存在しなかった。彼はこの世界で、フリーデリケと、この国の人々と共に生きていくことを選んだのだ。


 式典は、街の教会から響き渡る鐘の音で始まった。厳かな鐘の響きが広場全体に鳴り響き、人々のざわめきを静めた。壇上に立ったのはフリーデリケだった。彼女はゆっくりと視線を群衆に向け、温かい微笑みを浮かべた。その眼差しは、力強く、そして優しかった。


「国民の皆さん。」


 彼女の声は、明瞭で力強かった。特別な魔術が施されたスピーカーを通して広場全体に響き渡り、人々は自然と耳を傾けた。風の音さえも止まったかのように、静寂が広場を包んだ。


「今日、私たちはアルバナの歴史における新たな章の幕開けを迎えます。この国の歴史は、苦難と変革の歴史でした。過去の統治は、一部の特権階級に富が集中し、大多数の国民が貧困と抑圧に苦しむという不均衡を生み出しました。土地は貴族に独占され、農民は収穫のほとんどを奪われ、都市では職人たちが重税に苦しみました。しかし、私たちは長い年月をかけて、この不条理に抗い、自由と平等を求めて戦ってきました。そして今日、私たちはその闘いの実りを手にしようとしています。」


 群衆から小さなざわめきが起こった。それは、共感と期待の入り混じったざわめきだった。フリーデリケは言葉を続けた。


「新しい議会では、身分や出自に関わらず、すべての成人が平等に選挙権を持ち、自らの代表を選ぶことができます。彼らは皆さんの声に耳を傾け、皆さんのために法を制定します。これからは、貴族の意向ではなく、国民の意思が政治を動かすのです。具体的には、まず教育改革に取り組みます。すべての子どもたちが、その才能と可能性を最大限に伸ばせるよう、無償の義務教育制度を導入します。都市部だけでなく、地方の小さな村にも学校を建設し、教師を派遣します。次に、医療制度の改革を行います。病気になっても治療を受けられない、そんな悲しい状況をなくします。国民皆保険制度を確立し、誰もが安心して医療を受けられる社会を実現します。そして、経済政策においては、中小企業や個人事業主への支援を拡充し、新たな産業の創出を促進します。これにより、雇用を創出し、国民全体の生活水準の向上を目指します。」


 具体的な政策に言及したことで、群衆の間に大きなどよめきが広がった。希望に満ちた表情で頷く者、隣人と熱心に議論を交わす者、涙を拭う老人の姿も見られた。子供を抱きしめる母親は、未来への希望を子供に語り聞かせているようだった。翔は隣で、彼女の言葉に耳を傾けながら、広場の様子を冷静に見つめていた。彼の役目は、この変革のきっかけを作ることだった。そして、彼はこれからも、この国の人々と共に生きていく。フリーデリケの言葉は、人々の心に深く響き、希望の灯を灯していた。翔は、その灯を守り続けることを心に誓った。議会に参加する形ではなく、教育や技術の分野で、この国に貢献していく道を探していくのだろう。


 フリーデリケは、群衆の熱気に満ちた表情を見渡し、力強く言葉を続けた。

「この新しい制度が成功するかどうかは、私たち一人一人の行動にかかっています。過去の過ちを繰り返さないために、私たちは互いを信じ、支え合い、対話を重ねていかなければなりません。批判を恐れず、意見を交わし、より良い社会を築き上げていくのです。そして、私たちの子供たちが、この国に生まれたことを誇りに思えるような、そんな未来を築くために、今日をその第一歩としましょう!」


 フリーデリケが最後の言葉を述べ終えたとき、広場には地鳴りのような拍手と歓声の嵐が巻き起こった。翔は、その光景を静かに見ながら、心の中で呟いた。

「これで終わりではない。本当に難しいのはこれからだ。だが、君たちなら、きっとできる。そして、僕も、この国と共に生きる。」


 式典の最後には、新しく選出された議員たちが壇上に登り、一人一人が自己紹介と決意を述べた。フリーデリケは、彼らの言葉を温かい眼差しで見守っていた。彼女は、貴族という立場でありながら、この新しい民主的な政治体制を支え、見守っていくことを決意していた。議会には参加しない。これからは、国民が選んだ代表たちが、この国を導いていくのだ。フリーデリケは、翔に視線を向け、心の中で語りかけた。「あなたは、この国にとって、かけがえのない存在よ。本当は、これからも政治の世界で、私たちを支えてほしいと思っていた。でも、あなたの道は、あなたが決めること。私は、あなたの決断を尊重するわ。そして、あなたがどこにいようと、この国を想い、支えてくれていることを知っている。」


 夜、宮殿のバルコニーから街を見下ろすと、あちこちに灯された明かりが、まるで星空を映し出したかのように美しく輝いていた。翔とフリーデリケは肩を並べて立ち、その光景を静かに見つめていた。しかし、広場の一角では、数人の男たちが集まって何かを話し込んでいるのが見えた。彼らの表情は険しく、言葉遣いも荒々しい。翔は、その様子を見逃さなかった。新しい制度に反対する者たちの動きは、すでに始まっているのだ。だが、翔は議会に参加するのではなく、別の形でこの国を支えることを考えていた。彼の持つ知識や技術は、この国の発展に必ず役に立つはずだ。教育の分野で貢献することもできるかもしれない。


「これからが本当の戦いだな。」翔がぽつりと言った。


 フリーデリケは静かに頷いた。

「ええ。でも、彼らなら、きっと乗り越えられるわ。私はそう信じている。そして、あなたもいる。」彼女は、翔の方を向き、優しく微笑んだ。その瞳には、翔への信頼と、彼の意思を尊重する静かな決意が宿っていた。


 翔は、フリーデリケの言葉に力強く頷き返した。

「ああ、僕はここにいる。これからも、ずっと。この国と共に。」

 彼は、空を見上げた。遠くの空には、微かに光る星が見えた。それは、かつて彼が故郷を思った星とは違う。今、彼が見ているのは、この世界の、アルバナの未来を照らす光だった。彼は、この国で、フリーデリケと、この国の人々と共に、未来を築いていくことを決意していた。議会という舞台ではなく、別の形で、この国に貢献していくことを。

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