21 敗者の挽歌
ルドルフ伯爵は暗い表情で、使者が持ってきた降伏の条件を読んでいた。その手紙には、王国軍からの明確な要求が記されていた。自害を条件に降伏すれば、民衆や兵士たちの命は保証されるという内容だった。しかし、息子ルイスを殺された伯爵にとって、この提案は受け入れがたいものだった。
彼は椅子に深く腰掛け、窓の外に見える包囲された要塞をじっと見つめた。
「ルイス…息子よ、私はお前を守ることができなかった…」
彼の低い声が、部屋の静寂に溶け込んだ。
その声には、かつての威厳はすでに薄れ、老いた父親の弱さが滲み出ていた。彼は反乱を起こした結果、自分が孤立し、援軍が来ることはないと悟りながらも、心のどこかで奇跡を期待していた。しかし、家臣の言葉はその幻想を完全に打ち砕いた。
「伯爵様…」忠実な家臣は、慎重に再び口を開いた。
「他の貴族たちも、援軍を送る余裕がないのです。王国軍は王の勅命を受け、彼らに従わない者は反乱軍と見なされます。賛同者は、恐らく現れないでしょう…」
ルドルフは目を閉じ、深い息を吐いた。
「そうか…私が反乱を起こした時点で、彼らは私を見捨てたのだな…」
彼は現実を直視するしかなかった。長年築き上げてきた権力と影響力は、反旗を翻した瞬間に霧散してしまった。
「伯爵様…」家臣はさらに続けた。
「ここは誇りある自決を選ばれるのが賢明かと存じます。民衆の中にも餓死者が出始めております。戦いを続けることは、彼らにさらなる苦しみをもたらすだけです。ご自身もこのままでは無意味に苦しむことになりかねません…」
ルドルフは苦悩の表情を浮かべ、拳を強く握った。
「私が誇りを捨てて自決すれば、すべてが終わるというのか…」
「その通りです、伯爵様。誇りを保ちながら、苦しむことなく静かに逝ける方法を準備いたしました。毒です。これをお使いになれば、眠るように亡くなられるでしょう」
ルドルフはその言葉に、一瞬、納得したかのように頷いた。椅子に腰掛けたまま、彼は静かに考えを巡らせた。
「そうか…それが最良の選択なのかもしれないな…」彼は自分に言い聞かせるように呟いた。
家臣は毒が入った小瓶を差し出し、ルドルフはそれを手に取った。しかし、その瞬間、彼の手が震え始めた。視線が再び窓の外の景色に戻り、彼の表情が急に歪んだ。
「いや…」ルドルフは突然小瓶を握りしめ、顔を歪めて叫んだ。
「私は死にたくない!王に和平を求めよう!財産の半分を差し出しても構わない、命だけは助けてほしい!」
家臣たちは驚き、動揺した様子で視線を交わした。彼らもまた、伯爵の決意が揺らいだことに戸惑いを隠せなかった。
「伯爵様…しかし、今さら和平を求めても、彼らが受け入れる可能性は低いかと…」
一人の家臣が説得を試みたが、ルドルフはその言葉を遮り、再び激しく抵抗し始めた。
「いいや!何としてでも生き延びる!私にはまだ力があるのだ!」
彼は力なく椅子に崩れ落ちながらも、必死に生への執着を見せた。
家臣たちは目を伏せ、互いに短い視線を交わした。彼らにとって、ルドルフ伯爵が自ら選択しない限り、この戦いは無意味に長引くだけだった。
「申し訳ございません、伯爵様…」
家臣の一人が静かに呟くと、数人の部下が一斉にルドルフに飛びかかり、彼の腕を押さえつけた。伯爵は必死に抵抗しようとしたが、歳を取った体はもはや力を失っていた。無理やり口を開かれ、毒を飲まされると、彼は呆然としながらも次第に力が抜けていった。
「ルイス…お前を殺した奴ら…王もフリーデリケも…絶対に許さない…いつか奴らを…地獄で引きずり込んでやる…」
その恨みのこもった最後の言葉を残し、ルドルフ伯爵は苦しみと怒りを抱えながら静かに息を引き取った。部屋には重い沈黙が訪れ、家臣たちは複雑な感情を胸に、彼の無念を見届けた。
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