19 砲火の下、混乱と飢えの中で
混乱の中、一人の女性が、手元の古びたノートにペンを走らせていた。周囲では逃げ惑う人々の叫び声や、遠くで響く砲撃音が鳴り響く。しかし、彼女は冷静さを保とうと必死だった。その日記には、絶望と恐怖、そして何とか生き延びようとする心の葛藤が綴られていた。
〇月□日
朝、いつも通り市場に向かおうとしたが、なんだか様子がおかしい。店の前には長蛇の列ができていて、人々の顔には不安が浮かんでいた。何が起きているのか分からず、私も列に並んだ。だが、いざ自分の番になると、売り物の食料はもう残っていないと言われた。食料が足りない。そんなこと、あり得るのだろうか?市場の活気が失われ、人々のざわめきが静かに広がっていくのを感じた。
〇月△日
食料の値段が一晩で倍になった。昨日はまだあったものが、今日はほとんど売られていない。噂では、よそから来た商人が食料を買い占めているらしい。何も知らずにいた私たちが、ただただ愚かに思えた。隣人のグレタさんも同じことを言っていた。彼女の家には小さな子供がいるのに、もうパンすら買えないと言って涙を浮かべていた。
〇月×日
今日も市場に行ったが、状況は変わらなかった。誰もが焦っている。何日も何も食べるものが手に入らないなんて、考えもしなかった事態だ。町の人々は、皆恐怖と怒りを募らせ、顔を引きつらせている。食料を手に入れられる者と、手に入れられない者。そんな不公平が、私たちの間にくっきりと線を引いているようだった。
〇月▽日
今朝、突然の砲撃音で目を覚ました。家を飛び出すと、町中が混乱の渦に飲み込まれていた。人々は荷物をまとめ、子供たちを抱きかかえて、どこへ逃げればいいのか分からないまま、ただ走り回っていた。叫び声と泣き声が入り混じり、通りはまるで地獄のようだった。
「要塞へ逃げ込め!」と誰かが叫んでいるのが聞こえた。私は、何とか冷静さを保とうとしたが、心臓が激しく鼓動しているのが自分でも分かる。何を持っていけばいいのか、何を捨てなければならないのか、そんなことを考える余裕もない。ただ、家を出て、群衆の中に紛れ込んでいた。
要塞にたどり着くと、そこにも混乱が待っていた。入口では兵士たちが怒鳴りながら、順番に民衆を入れていたが、押し寄せる人数が多すぎて秩序はすでに崩壊していた。誰もが我先にと押し合い、怒号が飛び交っている。子供たちは怯え、大人たちも焦燥に駆られていた。目の前では老人が押し倒され、誰も助けようとしない。私もただ無力感に襲われるばかりだった。
やっとのことで要塞に入ったが、中は決して安全な場所ではなかった。食べ物を手に入れられなかった者たちが、お互いを罵り、殴り合う。要塞の中は、次第に地獄と化していった。隣の家のエリーゼさんは、持っていたパンを奪われ、泣きながら私に「どうしてこんなことになったのか」と問いかけてきたが、私にも答えはない。
「食料がない!もっと早く逃げていれば…」
誰かが叫んでいた。食料はもう尽きていると噂されていたが、それが本当だとこの瞬間に確信した。兵士たちは必死に私たちを守ってくれているが、彼らも疲れ切っている。誰もが飢えているのだ。
砲撃の音は続いている。要塞がどこまで持ちこたえるのか分からない。それでも、私たちには他に逃げ場がない。これが終わるのは、いつなのだろうか。
〇月××日
今日は朝から不穏な空気が漂っていた。要塞に逃げ込んでから、もう何日経っただろうか。最初はみんな、敵が攻めてきてもこの城壁があれば大丈夫だと思っていた。私も、安心していた。だが、今はその気持ちが薄れている。
朝の食事は、ほとんど水だけのスープだった。具が入っていたのは、ほんの少し前のことのように思えるけれど、それがまるで何ヶ月も前の話のようだ。私たち家族は、昨日よりも少ないパンを分け合って食べた。
「お母さん、お腹すいた。」
娘の言葉が胸に刺さる。私は笑って「もう少しの辛抱よ」と言ったけれど、その笑顔すら偽りだ。正直、これからどうなるのか全くわからない。誰もが不安そうにしていて、何か悪いことが起きているように感じる。
〇月×▽日
今日は、食料がますます少なくなっているという噂が広がった。伯爵様の兵士が少しずつ備蓄を売り払っていたという話を聞いたけれど、それが本当かどうかなんてわからない。でも、周りのみんなは怯えている。
外で話し合っている男たちはみんな怒っていた。「戦争に巻き込まれるなんて、俺たちには関係ないはずだ」とか、「自分たちの命はどうでもいいってことか」とか。そんな話ばかりが聞こえてくる。
正直、私はそれ以上のことを考えたくない。ただ、娘に何か食べさせられるうちに、何とかしたい。それだけだ。
〇月×△日
今日もスープはまるで水のようだった。底に少しだけ浮かぶ野菜の欠片は、栄養というよりも、かろうじて「食事」という名を保つための飾りに過ぎない。娘が、「こんなに薄いなら、お腹いっぱいになるわけないよ」と、涙をこらえながらつぶやいた。私は娘を抱きしめたが、その細くなった肩の感触に、自分の無力さを突きつけられるばかりだった。この手で、娘に何もしてやれない。彼女の細い肩に触れるたび、自分の情けなさに打ちひしがれる。
要塞の中は、次第に空気が重くなっている。皆が無言で、ただ目を伏せているだけだった。兵士たちも、もう士気が上がらないのだろう。「脱走者が出た」という噂が、すでに何度も耳に入ってきた。いつもなら、そんなことは許されないはずだ。しかし、今は彼らも家族のことを考えているに違いない。どれだけ国や領主に忠誠を誓っていても、空腹と絶望には抗えない。
どれほど長くこの状況が続くのだろうか。私たちは、飢えで死ぬ運命にあるのだろうか。死の恐怖が胸の奥からじわじわと広がり、心を凍らせる。
〇月×□日
今朝、娘は泣かなくなった。もう飢えに慣れてしまったのだろうか。それとも、体力が限界に近づいているのかもしれない。私は娘を抱きしめながら、自分の無力さを痛感するばかりだ。
お腹の空腹感が、常に私の体を蝕んでいる。食べ物のことばかり考えてしまう。夢の中ですら、豊かな食卓の幻が私を嘲笑っているようだ。そして、目覚めた時に待っているのは、冷え切った薄いスープだけ。疲労も限界に近い。体は軽くなったが、動かすたびに節々が痛む。
私たちがこの要塞に逃げ込んだ時、希望を持っていた。けれど今、その希望は日々消えつつある。食べるものもない、希望もない。何もない。
娘の寝顔を見つめながら、私はただ祈るしかできなかった。彼女のために、少しでも早くこの状況が終わってほしいと。
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