10 不正の証拠と裁きの時
夜の王宮から離れた場所にある軍需倉庫。周囲は静まり返り、わずかな風が木々を揺らすだけの冷たい空気が漂う。翔とフリーデリケは、警備が手薄になる深夜を狙い、王宮から馬車で現地に向かった。フリーデリケは薄い黒いマントを纏い、翔も目立たぬように服装を整え、周囲に気を配りながら倉庫に近づく。
「ここが倉庫か…。」翔が低く囁いた。
「ええ、物資はここに保管されているはずです。」フリーデリケが目を光らせながら、扉の周辺を確認する。
二人は静かに扉に近づき、事前に入手した合鍵で倉庫の扉を開ける。重たい扉が鈍い音を立てながら開くと、内部には大量の木箱や袋が無造作に積まれているのが見えた。倉庫内の空気はひんやりとして、物資のにおいが漂う。
翔とフリーデリケは手分けして、帳簿に記載されている物資と実際に倉庫にある物資を照合する。フリーデリケは帳簿を広げ、翔が一つ一つの箱を確認していくが、すぐに違和感に気づく。
「フリーデ、こっちを見てくれ。帳簿には大量の食糧があるはずなのに、この場所にはまったく残っていない。」翔が静かに声をかけ、空になった木箱を示す。
フリーデリケは帳簿と見比べ、「本当ですね。確かに記載されているはずの物資がありません。しかも、いくつかの箱には印がついていないものもあります。」眉をひそめながら、彼女は倉庫の奥に目をやった。
「もう少し調べてみましょう。」翔はさらに奥へと進む。暗闇に包まれた倉庫の中を、懐中ランプで照らしながら進んでいくと、倉庫の裏手に向かう小さな扉を見つける。そこはまるで何かを隠すように閉ざされていた。
「この扉の向こうに何かあるはずだ。」翔が言い、フリーデリケも頷く。
小さな扉を開けると、そこには隠された通路が続いていた。二人は慎重に進み、外へと繋がる出口を発見。そこには車輪の跡や、何かが地面に引きずられたような痕が残っていた。
「これは…。物資がここから密かに運び出された痕跡です。」フリーデリケは目を鋭くし、翔も地面を見つめる。「これで確信した。この物資は横流しされている。」翔は静かに言ったが、言葉には確信がこもっていた。
翌朝、翔とフリーデリケは急いで王宮へと向かい、ルイス大尉を正式に召還する準備を整えた。フリーデリケは王宮の財務部門に連絡し、秘密裏に調査を進めるための協力を求めた。調査が漏れることを恐れ、対応は慎重に進められた。
「彼が来るまでに、私たちの準備は整えておかなければならない。」翔は冷静な表情でフリーデリケに話しかけた。
ええ、彼を問い詰めるための証拠が必要です。まだ、完全に確定したわけではありませんから。」
彼らは倉庫で押さえた不正な物資の流れと、帳簿上の不自然な完璧さを示す記録を整理し、ルイス大尉に対する質問を入念に準備した。
王宮の会議室に、ついにルイス大尉が現れた。彼は堂々とした態度で、少しの緊張も見せない。しかし、翔とフリーデリケはその背後に潜む何かを感じ取っていた。
「フリーデ様、翔様。私が召喚されるとは驚きです。何か重要なことがあったのでしょうか?」
フリーデリケは彼の表情を注意深く観察しながら答えた。「ルイス大尉、今回、物資の管理に関して調査を行っています。いくつかの書類に不自然な点があり、その確認のためにお呼びしました。」
ルイス大尉は一瞬、表情を硬くしたが、すぐに平静を装った。「もちろんです。何でもお答えいたします。」
翔は冷静に、物資の帳簿を机の上に置き、ルイス大尉に見せた。「この書類ですが、あなたの管理している第2大隊の物資管理記録です。戦争が続く中で、これほどまでに完璧な記録は珍しい。どうやってこれを実現したのか、お聞かせいただけますか?」
ルイス大尉は軽く肩をすくめながら答えた。
「単純に、私の部下がきちんと仕事をしているからです。混乱が避けられない戦時中でも、管理は怠らないように指導しています。」
フリーデリケが追い打ちをかける。「ですが、物資の数が帳簿と一致しないという報告が複数寄せられています。実際に、現地の倉庫で調査を行った結果、消えた物資がありました。それについて、何かご存知ですか?」
ルイス大尉の顔色が変わった。わずかながら冷や汗がにじみ始めたが、彼はすぐに言い逃れをしようとした。
「それは何かの手違いでしょう。私の部下が間違って報告をしている可能性があります。私自身はそのような不正には関与しておりません。」
翔はさらに厳しく問い詰めた。「現地の倉庫で、物資が横流しされている現場を押さえました。そこに関与しているのが、あなたの部隊の兵士だと証言も得ています。このことについて、何か説明していただけますか?」
ルイス大尉は完全に追い詰められたことを悟り、震えながら椅子に沈み込んだ。
数時間にわたる詰問の末、ついにルイス大尉は物資横流しの実態を告白した。
物資の不正流用が明らかになり、翔とフリーデリケは軍の規律に基づき、厳しい処罰を求めることになった。
フリーデリケが静かに言葉を発した。「…軍規に従えば、横流しの罪は銃殺刑です。これは避けられません。」
翔は思わず言葉を失った。「銃殺刑…そこまではしなくてもいいんじゃないか?」
しかしフリーデリケは彼を見つめて、ゆっくりと首を横に振った。「規律を守らなければ、この国は崩壊します。例外はありません。」
その場にいた少尉の顔色も青ざめていた。「本当に…銃殺刑にするのですか?」彼の声は震えていた。
翔は迷いを感じながらも、フリーデリケの決断に納得するしかなかった。「これは…軍の規律のためか…。」
ルイス大尉は絶望的な表情で声を絞り出した。「父上に取り合ってくれ…お願いだ…!」 彼の顔は蒼白で、冷や汗が滲んでいる。「父上なら、なんとかしてくれるはずだ…私はただ、彼のために…!」
彼の声は誰にも届かなかった。父のいない場で、その願いは虚しく響くだけだった。
憲兵が静かに近づき、彼の腕をつかむ。ルイスは抵抗しようとしたが、無力なまま引きずられていった。「お願いだ…父上…!」
その日のうちに、刑が執行された。翔は立ち会い、目の前でルイス大尉が命を失う瞬間を見届けた。心の中に深い衝撃が走り、戦争の現実を直視することとなった。
お読みいただきありがとうございます! ブックマークや下の☆☆☆☆☆の評価にて応援していただけますと励みになります! どうぞ、よろしくお願いいたします。




