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第6話 第七王子は駆けつける

簡単に人物紹介。ルイーゼ…五大精霊と契約した公爵令嬢。 第一王子…ルイーゼとの婚約を破棄。別の公爵家の令嬢ドロッセルがお気に入り。 ドロッセル…ルイーゼに呪いをかけられたと称して臥せっているらしい。 ホッファー…魔術学教師。 レベッカ…ホッファーの娘。鳥や獣を操る「テイム」が得意。 カイル…第七王子。第一王子の意向でルイーゼと婚約させられた。以前からルイーゼを慕っている様子。

 拘束こそされていないが、今の私は囚人そのものだ。前後を衛兵に挟まれ、王城の大広間に連れ出された私――フローレンシア公爵令嬢ルイーゼは。


「お部屋では快適に過ごせましたかな、ルイーゼ嬢」

 誰もいない王座の横に立って、第一王子が呼びかける。ざまを見ろ、とでも言いたげな笑みを浮かべて。

「世話係のメイドは勤勉でしたわ。私が部屋に軟禁された理由は納得いきませんが」

 後ろの方で、「おお」「うむ」「ああ」などと声が聞こえる。いくつかは同意の声、いくつかは、罪人にさせられる者への同情の声だろうか。

「『納得いきませんが!』」

 馬鹿にした口調で王子は真似をしたが、その後が続かない。何も思いつかないがとにかくすぐに言い返すことを優先したようだ。


 ――愚者の中では知恵が回る部類ですわね、第一王子殿下。

 婚約した幼い日には多少なりともあった、第一王子への尊敬の念は雲散霧消している。もっとも、その尊敬の理由は「王の跡継ぎという重責を負っておられる」という一点に尽きた。外見や性格に対して、恋愛小説のように「好き」「ずっと一緒にいたい」といった感情を持ったことはない。

 理由はやはり、婚約したばかりの頃に開かれたお茶会だ。

 当時十三歳だった第一王子は、メイドの持ってきたお茶の味が気に入らないと言ってその場にこぼしてみせ、そのメイドの外見や生まれまで悪く言った。「おやめください」と言った私は、当時十歳。第一王子は憎々しげに睨みつけてきて、私は幼心に(この人のお仕事もお立場もご立派だけど、好きではない)と思った。

 

 十七歳の現在まで、第一王子を好きだと思ったことは一度もない。それでも罪の意識は感じない。第一王子と公爵家の娘、政略のために婚約した者同士。あちらにも、私を好きだと思う義務はないのだ。


 私が黙っているのを確認して安心したのか、第一王子は王座の隣の椅子に腰かけた。第一王子の定位置だ。その後ろには衛兵が七、八人控えている。

「王と王妃がお出ましになるまでもない。元は婚約者であった私が申し開きを聞いてやる。せめてもの恩情と思え」


 後ろにいる衛兵から「そうだ、そうだ」と声が上がる。

《お前らが今ヤジを飛ばしてるのは、公爵令嬢ルイーゼ、五大精霊と契約した魔術学徒だぜ。分かってんのかコラ……と言ってやりたいところだ》

 水の精霊が心の中に呼びかけてくる。

 (金を受け取っていますわね、あの衛兵たち)

 私が心の声で伝えると、水の精霊は《第一王子とドロッセル嬢、どっちからだろうな。両方かもしれねえな》と返してきた。

(かもしれませんわね)

 さすが、最初に契約した精霊だけあって気が合う。


「公爵令嬢ルイーゼ! そなたは、ノクニス家令嬢ドロッセルに呪詛をかけた!」

 衛兵たちの声に元気づけられたのか、第一王子が私を指さして叫ぶ。

「そのようなことは、いたしておりません。天と地と五大精霊に誓って」

「学園での嫌がらせでは飽き足らず、魔術を呪詛に使うとは許されぬ醜さ!」

 ほう、「醜さ」。水晶の化身と呼ばれる私にそう言ったか。

「第一王子。この間あなた様から嫌がらせの嫌疑をかけられた際、ルイーゼ嬢はおっしゃいました。ドロッセル嬢と同席したことは皆無であったと。当職はそのように記憶しております」

 早口かつ大声で言いながら、ホッファー先生が進み出た。隣にはレベッカもいる。

レベッカはこちらに目配せして、うなずいてみせた。私は嬉しいと思いつつも、先生たちが衛兵に襲われないか、不利な立場にならないか心配になる。

《あまり心配しなさんな、木の精霊が守ってやってるぜ》

 水の精霊はそう言ってくれるのだけれど。


「ホッファー先生のおっしゃる通りです、第一王子」

 続いて進み出たのは、父と母だった。

「私ども夫婦は、魔術に必要な書物や薬草をルイーゼに買い与えております。きちんと内容を報告させ、それらの品々に呪詛に関わる物がないことも確かめております」

 ――お父様、お母様。

 心配で、ありがたくて、自分が悪いわけでもないのに申し訳なくて、私は何も言えなかった。二人とも顔が青ざめているのに、身だしなみをいつも通りに整えて、背筋を伸ばして。

「あなたたちの娘で、良かった……」

 口をついて出た言葉は本心だ。そしてその言葉は、第一王子の癇に障った。

「黙れ! 私からの愛が離れるからといって、ドロッセル嬢を苦しめた悪女が!」

 ――誰の愛ですって?

 怒りと呆れが交互に湧く。何か言い返すべきか、と思った時、光が射し込んだ。大広間のドアが開いたのだ。

「誰が悪女なのですか? 兄上」

 従者を左右にともなって歩いてきたのは、漆黒の鎧に身を包んだ黒髪の少年だった。顔つきは十六、七歳だが、均整の取れた長身は武人そのものだ。

 少年の手にした書面には見覚えがある。婚約の誓約書だ。私のサインがある。

「この通り、私こと第七王子カイルはルイーゼ嬢の婚約者です。『悪女』とはどういうことなのか、ご説明いただきたい」

 ――カイル王子? この人が?

 従者の一人の肩には、カラスが一羽止まっている。飛び立ったそのカラスは、レベッカの手に舞い降りた。

 ――レベッカ。あなた、テイムでカラスを操って……?

 レベッカがこちらを向いて微笑んだ。泣くのはまだ早い、とでも言うように。


お昼に更新できました。ここで引っ張るんかい、と自分でも思いつつ。

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