第4話 金属の精霊は影武者になりたいようです。例の令嬢はやっぱり何か企んでいました。
人物紹介、人外が増えてきました。
ルイーゼ…公爵令嬢。五大精霊と契約し、従えている。第一王子から婚約を破棄され、辺境の第七王子と婚約させられた。第七王子が承諾したのは国政を思ってのことだろう、と思っている。銀髪碧眼。
水の精霊…ルイーゼと最初に契約した精霊。喧嘩っ早い。
木の精霊…ルイーゼの学友、レベッカと一緒に王都でひとまずお留守番。
レベッカ…ルイーゼの学友。ストロベリーブロンドに水色の瞳。純朴。得意な魔術は鳥や獣を操る「テイム」。
ホッファー…レベッカの父で、学園の魔術学教師。
ドロッセル…別の公爵家の令嬢。ルイーゼに嫌がらせをされたと第一王子に吹き込んだ。
「オレも連れていきなよ、我が君」
ルイーゼの肩のあたりで、黄金色の光がまたたいた。
振り返れば、自分自身が立っていた。ドレスもアクセサリーも、今着けているものと寸分違わず同じものだ。
「び、びっくりしたあ!」
涙が吹き飛ぶ勢いで、レベッカが声を上げる。
「その声、金属の精霊さまですね。今日はどうなさったんです? ルイーゼさんの姿をそっくり真似るなんて」
頬をハンカチで拭きながら、レベッカは尋ねた。ホッファーは「興味深い」と何やら手帳にメモをしている。
「金属とは自在に形を変えるのが本性さ、レベッカ嬢。辺境への嫁入りが決まってからオレは、我が君ルイーゼの姿を真似ようと練習を重ねていた。ま、数日間で済んだけどね」
ルイーゼの姿で、金属の精霊はウインクしてみせた。
「辺境には我が君ルイーゼの命を狙う輩もいるかもしれない。だからオレが姿を真似て、影武者を務めようってわけさ」
「まあ……頼もしい!」
レベッカに褒められて、金属の精霊は「照れるじゃないか」とろけるように微笑んだ。もちろん、ルイーゼの顔で。
――頼もしいけど、口調が別人すぎて新手の悪夢みたいですわね……。
ルイーゼは、態度もそっくり真似られるよう練習してもらおうと決心した。
「大変です、大変です、ルイーゼお嬢様!」
慌てふためいた様子で、執事がティールームに駆け込んできた。
「何ですか。来客中ですよ」
「は、しかし……! ルイーゼお嬢様がドロッセル嬢に呪いをかけたと、ドロッセル嬢とそのご両親が言っているらしいのです!」
呪い? 魔術学徒である私が、呪いをかけた?
真っ当な魔術学徒ならば、呪いは絶対の禁忌だ。呪いを解除するために呪いを研究する魔術学徒もいるが、それは相当な経験を積んだ者や、素質ある一部の者に限られる。
「ひどい侮辱ですわ! ルイーゼさんの日々のご研究を見ていれば、呪いになど関わっていないと分かろうものを!」
レベッカが、人が変わったように叫んだ。ホッファーも表情が険しい。
「執事殿。ドロッセル嬢は今どちらに?」
ホッファーの問いに、執事が青い顔で応える。
「ノクニス公爵家の自室で伏せっておられるそうです。衛兵を連れた第一王子が付きっきりだそうで……」
ルイーゼに呪いをかけられたと称して伏せっているドロッセル嬢。付き添う第一王子と、王家の衛兵。
悪い予感しかしない。ルイーゼの姿になったままの金属の精霊が「影武者、今からでもやろうか?」と呑気に言った。
昼の更新分が長めだったので、夕方の更新分は短めです。呪詛と王朝は相性がよろしい。