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第九十話 南部に目をつけられたようです

横田城 阿曽沼孫四郎


「どうした孫四郎、そのように息を上げてくるとは」


「評定中恐れ入ります。至急、お耳に入れたい議が」


 何事かと皆がこちらをみる。俺の表情からただ事ではないというのは伝わっているようだ。


「申せ」


「はっ。左近から報せで南部が当家に攻め入るという噂が立っているようでございます」


 皆瞠目する。


「皆落ち着け。孫四郎、もう少し詳しい事はわかるか」


「はっ。どうやら南部領は今年も不作だったようで、近年富んできた当家の噂を聞いたようでございます」


 死刑宣告を受けたようなどんよりとした空気が評定に満ちる。こちらが用意できる兵はせいぜい二、三百人程度、対する南部はその気になれば千人以上動員が可能である。史実では大槌城を攻めた際の南部の動員兵数が出羽に出兵しながら七百人こちらに差し向けられるだけの余裕があるのだ。本気で来られたら一溜まりも無い。


「ただ、噂の域を出ておりません。裏取りのため左近には優先して南部の情報を集めるよう指示しております」


「わかった。さてようやく大槌が落ち着いて気仙あたりを削り取れるやもと思いきや、随分な難題が降ってわいたわけだ。そなたら何か意見はあるか」


 従属するくらいなら釧路あたりに逃げ込むか。とりあえず万一もあるので孫八郎にあとで文をやろう。駅を整備して早馬を使えるようになりたいな。


「闘わずして降りるのは有り得ませぬな」


 というのは附馬牛の火渡中務だ。


「左様。我が方も東禅寺に願って南部の動きを調べてみようかと存じます」


 今度は臨済宗東禅寺がある大萩円源。まあ東禅寺も左近の手のものが多いからこちらと余り変わらぬ情報になるだろうな。


「よし何があっても良いように支度をせよ」


「兄上、少し良いか?」


 鱒沢の叔父上が口を挟む。


「守親か。なんだ?」


「葛西様に援軍を頼んでみては如何でしょうか?」


「ふむ、しかし葛西は千葉らの対応があるから余り動けんだろう。しかし援軍を頼むのは良いな。守親、そなた寺池館に行って来い」


 叔父上がぽかんとする。


「な、俺が行くのか?」


「言い出しっぺはそなただろう?」


「ぐっ、わかった。言ってくる」


「それと儀道、そなたは斯波様に援軍を依頼できないか使いに行ってくれ」


「承知」


 宇夫方の叔父上はあっさりと了承する。まあ紫波はすぐそこだからな。鱒沢の叔父上も大原殿の大原城までなら一日二日の距離だが、寺池は少し遠いな。



早池峰山の某所 左近


「それがてつはうというものか?」


「爆ぜるとは聞いているが、そんなもので火をつけられるのか?」


 爆ぜるのも見たことが無いようなのでまず小さなてつはうを一つ火を点ける。しばらくするとパンッ!と音がして爆ぜる。


「おお、これがてつはうか!これは確かにおどろくの。しかし小さいからか威力は大したことはないな」


 若様がいうには釘など混ぜると爆ぜたときに飛び散って効果が得られやすいと。爆ぜるのは見せたので今度はてつはうをばらして粉を積み上げる。これに火を付けると、シュボッ!と小気味よい音をたてて火柱が立つ。あっという間に消えると煙が辺りに充満する。


「なんと、斯様に燃えるのか。すごいのぅ。煙が多いのが難点じゃが、ほかに欠点はあるのか?あと持ち運ぶときに爆ぜて我らが死ぬというのは無いのだろうな?」


 なんだったか湿気ると燃えないとか言っていたな。あと単純に叩いたりしても爆ぜないとか。木の枝から縄でつるした石をてつはうに落とすが爆ぜない。水に濡らしてから火をつけても爆ぜない。乾かせばまた燃えるようになる。


「ふむ。なるほどこれなら運ぶのも容易いな。濡れると使えぬのは困りものだが。ではばれぬよう分担して三戸に運び入れるとしよう。そなたは噂を調べるのであろう?そちらは任せるぞ」


 そう言うと風呂敷に油紙で巻いた火薬とてつはうを包んで背負い込み、あっという間に山中へ散り散りに入っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 南部なら3000くらいは出せるんじゃね?
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