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第六十五話 焼き餅に砂糖醤油は最高だと思います

日影の登り窯 阿曽沼孫四郎


 登り窯は三日間の試験では特に崩れることなく焼けたらしい。火が消えてから丸二日経ち、すっかり窯の中が冷えたようなので中身を取り出す。


「なんだ、俺の湯飲みに穴が開いて居るぞ」


「若様、それは土の中に空気が残って居ったんでしょうな。練り方が足りなかったのでしょう」


 むぅ、そうか。清之の茶碗は言うだけ有って穴もひびもない。


「あう、私の湯飲みも割れてしまいました」


 雪が哀しそうにつぶやく。清之が優しく頭を撫でながら。


「雪のものはすこし乾かし方が足りなかったのであろうな」


 乾燥期間はどれくらい必要なんだろうか?そのあたりも追々……む。あの器はなかなかだな。


「これは誰のものだ?」


「へっ、へい。あっしでございやす」


「俺は器に詳しくないが、なかなかのものだと思う。名をなんという?」


「へい、川向に住んでおりやす右近と申します」


「叔父上、右近にこの窯を任せようと思いますが、よろしいでしょうか?」


「ふむ、まあ俺より巧いから仕方あるまい」


 そういう叔父上の作品は、何かよくわからない形をしている。


「叔父上の作品もなかなかな趣に感じられますね」


「ははは。そうだろう」


 まんざらでは無い表情をする。しかし俺は抽象的な作品を理解できるほどの芸術的な感性を持ち合わせていない。


「しかし叔父上には政もございます故、窯にかかりきりになられても困りまする」


「そうだな。たまに作らせて貰うくらいにしようか」


 それでいいとおもう。皆も力の限り頷いて居るしな。


「では右近よ、そなたを窯元に任ずる。なに失敗しても良いのでなるべく効率よく、或いはより価値のある器を作れ。働きによってはこの箕介のように禄を弾む」


「ははぁ」


 上手くいけばこれも稼ぎの柱になるかもしれん。


「そういえば後段のものは焼けていないものがあったな」


「火が届いて居らぬのかも知れません」


「穴窯では途中で薪を投げ込む穴があるとも聞きますぞ」


「清之、なぜ先に教えてくれなかった」


「ははっ、すっかり忘れておりました」


 面目ないといった風に清之が頭を掻く。


「まぁこのあたりも含めて右近に任せよう」


 ある程度上手くいったら煉瓦製造を始めたいものだな。



 宇夫方の叔父上が旅立ったりなど忙しかったため伸びに伸びた鏡開きが今日になった。既に睦月も二十日を過ぎている。


人の頭よりも大きな鏡餅を切っていく。切られた餅は家臣や民に下賜される。余った分は自分たちで食べるわけだが。


「雪、醤油取って」


「はいどーぞ若様」


 刷毛で出来たばかりの醤油を塗ってひっくり返す。醤油が焦げる香ばしい匂いが部屋に、そして邸に充満する。


「そのまま食っても旨いが、やはり醤油塗ったものはひと味違うな」


「まあ文字通りひと味足してるからね」


 子供二人できゃいきゃい餅を焼いていると、匂いにつられたのか大人達が寄ってきた。


「あらあらまあまあ。こんな食べ方があるなんて、なぜ母に教えてくれぬのか……はぁ。」


 くぅ、母上、す、すさまじい圧だ。


「おお若様、随分旨そうな匂いがしていると思うたら、雪と一緒に何を?」


 清之がお春さんと一緒に顔を出す。


「あ、母様!若様とお餅を焼いていたんです!」


「あらぁ美味しそうね。ね、雪、なんで母に教えてくれなかったの?」


 お春さんも笑顔だが圧がすさまじい。


「出来たばかりのしょ、醤油をつけてみたらどうなるかなと試したのでございまして、け、決して母上や父上に隠れてと言うことではございませぬ」


「あらぁ。そう?じゃあ孫四郎や、母達のために餅を焼いてくれぬか?」


「もちろん、雪も若様のお手伝いするのよぉ?」


 父上と清之も引いている。助けは貰えぬようだ。かくして雪と二人、手分けして餅を焼く鏡開きとなった。

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