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第六十三話 守儀、足利学校に往く

 皆の酔いも覚めた睦月四日、新年最初の評定が執り行われる。


「みな酔いはすっかりとれたか?」


 父上に釣られて皆を見回せば、皆真面目な顔をしている。


「皆改めて、今年もよろしく頼む。」


 ははぁっ!と皆の声が聞こえる。


「ではまず、昨年の経過から報告をしてくれ。」


 昨年度の収穫量が報告される。

 米で三千石、大麦が二千石、小麦二千石、大豆二百石、蕎麦百五十石などなど。税としては米が三割とやすくする代わりに、他のものも十分の一税として徴収している。

 人口は旧大槌領の戸籍が得られていないが、人口は概ね二千八百人といったところであった。


「米や麦には余裕があるの。」


「しかしいつ飢饉が来るとも限らんぞ兄上。」


「うむ。守綱の言う通りよ。古くなり食えなくなった米や麦は孫四郎が使いたいとのことだが良いかな?」


 食えなくなった米や麦など何に使うのかとみながやがやしているが、特に異論は無いようだ。


「次に、今はこの横田城のある松崎で新しい農具を試しておったが、今年より順次各村に一つずつ配る様にする。」


 おおおっ。みな口には出していなかったが作業効率の上がる農具を心待ちにしていたようだ。


「なお引き続き、新しい農具の試し使いはこの松崎で行う。」


 これは弥太郎の目の届く範囲でとなるので仕方ない。


「そして松崎よ馬の飼育はどうか?」


「ははっ、今のところ大きな問題はございませぬが。ただ」


「如何した?」


「一度に多数を飼っております故、糞の処理に困っております」


 ほう、もうそんなに馬糞が増えたか。


「うむむ。馬糞か如何したものか」


「恐れながら父上」


「孫四郎、何か妙案はあるか?」


「はっ。折角の馬糞、巧く扱えば良い肥になるかと存じます。一所に集めて肥を作るなどしては如何でしょうか」


「ふむ……たしかに糞は良い肥になる。ではそなたに任せようかの」


 特に異論を差し挟むものもいない。まあ馬糞を扱いたいものもそうおらんだろう。硝石作りが始められそうだな。


「最後に守儀めを足利学校に送る」


 評定の間が一変、騒がしくなる。まずは単純に戦力が減少することに対しての懸念、ついで父上も仰っておられたが宇夫方の叔父上は大人しく勉強するというのがどうやら苦手らしい。ということでその方面での疑念がつよいようだ。


「守儀、そなた正気か?」


「なんだぁ守綱兄、疑うのか?」


「そなた書は苦手であったろう」


「まぁそうだが、神童殿がこの遠野を良くしようとしてくれているってんだ。神童殿の弟か妹かはしらぬが、生まれてくる子や民のために医を志したとておかしくはなかろう」


「むぅ、まあそうだが、足利学校は儒学や易学を修める場、医術もえられるのか?」


 そう、それはそう。足利学校は医師養成機関ではなかったはず。


「ふむ、足利学校はたしかに儒学や易学が主であるが、兵学や医学なども学べるぞ」


 いろんな知識を持った者が集まるので中には医術や兵学に優れたものもいて学べるのだという。


「おお、足利学校は医学の学校ではなかったのか!」


「守儀……そなたなんだと思っておったのだ」


「医学学びたいって言って守親兄が行けっつったからてっきり医術の学校かとおもったぞ」


「はぁ……。まあよい折角行くのだ無駄にせぬようしっかり学んでこい」


「合点承知!」



松の内も開けた睦月十五日。


「では兄上、行ってくるぞ」


「うむ。達者でな」


「義姉上によろしくな」


 足利学校は僧籍でないと入れぬということで、すっきり剃髪した宇夫方の叔父上を見送る。その足取りは実に誇らしげであった。


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