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第五十六話 仙人峠を越える

釜石 阿曽沼孫四郎


 狐崎の邸にもどり二日ばかり逗留する。本当は石塚峠まで行きたかったのだが、病み上がりだということで止められた。


 こちらでも鮑やナメタガレイの味噌煮などをいただく。やっぱ美味い。肉も好きだが魚も旨いよな。内陸まで魚を運ぶとすれば干物か、いっそ燻製にするというのも手か。あとはかまぼことかもかな。


 干物をいくらかもらい、釜石を後にする。帰りは甲子川に沿って登っていく。洞泉を過ぎると一気に谷が険しくなり、目の前には壁のように立ちはだかる仙人峠が迫る。


「ここを登るのか?」


「そうです。この仙人峠はきつい坂になっており、足を滑らせて仏になるものも少なくありませぬ」


 こんなところに鉄道や高速道路を通したのか。恐るべし前世の建築技術。


「神童殿、そなたはそのまま白星に乗っておれ」


 もちろんです。こんな峠道を俺の足で歩いたら死んでしまう。


 大橋からきつい斜面に入りつづら折りの狭い山道を進んでいく。ここに鉄道を引くとなればラックレール、あるいはケーブルカーかロープウェイで輸送するしかないが厳しいな。仙人峠越えの鉄道は現時点では放棄だ。


 現代の釜石線が通る上有住あたりは本吉氏の領内だから、今のままだと同じ路線ルートってのは難しそうだ。


そうこう考えているうちに少し平らな場所に出る。


「ここが峠ですか?」


「いや……はぁ、ちがう……ふぅ」


 流石の守儀叔父上も息が上がっている。白星に餌と水を与え少し休む。少し息を整えるとまた山道を行く。険しい山道をしばらくいくと小さな祠が見える。


「やれやれようやく峠だな……はぁ」


 得道によるといつの頃かはわからないがこの峠には仙人が住み着いていると言われ、仙人峠と呼ばれるようになったらしい。祠に手を合わせ横田城までの安全を祈念する。笛吹峠と同じようにここにも人をおいたほうがいいな。あとで左近に相談しよう。


 下りもなかなかな急坂だ。落ち葉がつもり滑りやすいので気をつけて降りていく。暫く降りていくとようやく川が見えてくる。


「やれやれ、あとはこの早瀬川に沿って降りていけばよい」


 ここで再度休憩を取り川に沿って歩いていく。


「うむ、だいぶ麦が出てきたようだな」


「麦を粉にすれば良いというのは慧眼にございました」


「うむ。戻ったらまた饂飩を作ってみるか。出汁用に昆布ももらったしな」


 日もくれた頃に横田城に到着する。


「よく戻ったな。道中無事だったか?」


「ははっ。釜石で熱を出してしまいましたが、無事帰ってまいりました」


 熱を出したことに父上が反応する。


「なに!?大槌に盛られたのではなかろうな!」


「得道に毒味させましたが、やつはなんともございませんでした」


「なれば疲れか」


「兄上、俺がついていながら面目ない」


「熱が出るのは童故仕方ないでしょう。こうして無事帰ってきたのだからまずはよしとしては如何でしょうか。」


 母上が取り成してくれたおかげで、父上も落ち着いたようだ。


「ところで、孫四郎、大槌や釜石はどうでしたか?」


「はっ。峠道はくたびれますが、海の幸は大変美味かったです」


 父上も母上も羨ましそうな表情している。


「道を整備し、手早くこちらまで運ぶことができるようになれば父上、母上にもご賞味いただけるかと存じます」


「兄上、義姉上、乾物であればもらってきておるので明日の夕餉で出すから期待しておれ」


 お、二人の表情が明るくなった。


「詳しい話はまた明日にされては如何でしょうか。若様もそろそろお休みになられたほうが良いでしょうし」


 清之の言葉でこの場は散会となった。

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