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第五十四話 大槌視察3

大槌城 阿曽沼孫四郎


 翌朝、大槌の村のものが集められる。一体何事かとがやがやしている。


「若様のおなぁりぃ!」


 どんどん!


「この度大槌の地を預かることとなった阿曽沼左馬頭守親が名代の阿曽沼孫四郎だ。」


 こんな童が名代か、などと聞こえる。


「静かにせよ!」


 得道がたしなめる。しばしして静まったところで話し出す。


「まず、先日労咳で死んだ弥吉とやらに詳しいものはおるか?」


 おう、お前しっとるか?知らね。など聞こえたりもしかしてあいつか?あーあいつかあ。などなど。


「赤浜の治郎兵衛と申します。弥吉とやらはうちの集落の外れで年老いた母親と暮らしておりました」


「ほぅ。咳止めの薬をそこの得道から渡されたときいたが」


「一時ではございましたが咳が止まり、随分楽になったようでございます」


「そうか。母親はどうして居るのだ?」


「はぁ。いまはまだ我らの手伝いに来てくれてますんで、ほそぼそと食えております」


 とりあえず食えてはいるようで胸をなで下ろす。余裕ができれば救貧院も要検討だな。いまはその話に来たのではないが。


「者共、その咳止めの薬を拵えたのがこの孫四郎様だ」


 孫八郎が皆に告げる。流石に村の者たちは驚いたようだ。


「そなたらが驚くのも無理はない。この俺も驚いたからな」


 まあこんな童が薬を作り出せるとは誰も思わんだろう。しかたがない。


「弥吉とやらのことはよくわかった。して本題であるが、そなたらの中で船大工はおらぬか?」


 五人が前に出てくる。


「へぇ、わしらが船大工しております。わしは棟梁の吾郎と申します」


「そなたら、どれくらいの大きさの船まで作れるか?」


 はてこれまでで一番大船はなんだったか?と話し合う。


「いままでで一番大きな船は長さ五間(約9m)のものです」


「帆掛け船は造れるか?」


「造ったことはございません」


 漁船も沿海漁業の櫂漕ぎ船が多いもんな。


「造れるか?」


「やってみねばわかりませぬ。そもそも帆がありません」


 帆か。この時代は筵帆だったな。とりあえずはそれでいいとして、帆布用に木綿より丈夫な麻を増産するか。


「それでは帆を作るところから始めるか。麻を織って大きな布をいくつか作ってくれ」


「その大きな布で帆を作るのですか?」


「そうだ。それと三角の帆も作って欲しい」


 みな頭にはてなマークがついているな。揚力で遠洋航海なら横帆の方が効率いいけど、沿海航海だと風向きに合わせやすい縦帆メインのバミューダスループタイプで統一するのもいいかもしれん。いずれ遠洋航海するようになったら四角帆と三角帆をたくさん使った大型船も作ろうか。


 それよりも羅針盤と四分儀、航海図の作成のほうが重要だな。今度熱出たら神様にお願いしてみるか。



 翌朝釜石に向けて出立する。


「孫四郎様、お達者で。年始には挨拶に伺います。」


「うむ。息災にな。また旨い魚を食いに来る。」


 釜石に向かい、一旦鵜住居まで来た道を戻る。鵜住居から恋ノ峠を越える。この峠はいつの頃からかは不明だが、想い人同士が出会ったからとか大津波がこの峠を越えたからとか言われるがはっきりしない。


 峠を越えると両石りょういしという小さな集落に出る。数軒のあばら家と小舟が上げられた浜が見える。


「なんとも寂しいところだな」


「入り江になっておりますゆえ、船着き場には悪うございません」


 避難港にもなるか。ほかに帆立貝や牡蠣、わかめの養殖ができれば良いな。海沿いの切り立った崖道を抜ければ水海みずうみに出る。こちらは少し谷底平野で平地がある。水海川を渡り、尾根道に入る。鳥谷坂を越えると釜石湾が見えるが、海風が凍みて寒い。ふぅふぅ、少し疲れたな。


「神童殿大丈夫か?」


「ちと疲れました」


「登って降りての繰り返しだったからな。しかたないな。ほれ山を降りたところに城が見える。あそこが狐崎城だろう」


 もう少しか。ならもうちょっと頑張って起きていよう……。


「わ、若様!」


「む、いかん。疲れのせいかひどい熱だ。清之、白星、急ぎ狐崎城に向かう。」


 言うや宇夫方守儀が孫四郎を抱え、白星に飛び乗る。いつもなら白星も暴れるが、このときばかりは守儀に従い、狐崎の館に駆け込んだ。

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