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第五十話 大槌からの使者

横田城 阿曽沼孫四郎


 長月がおわり神無月となる。大麦の収穫が終わり、これから秋蕎麦の収穫になる。


「なかなか大槌は攻めてこないな」


「一体どうしたのでしょうか?」


「お館様!向こうから来ぬなら、こちらから攻めかけては如何でしょうか?」


「そうするか。よし十日後に皆横田城に具足を付けて参集せよ。雪が降る前に大槌を落とすぞ!」


 オオオオオオオオ!と怒声が飛び、みな急ぎ戦支度に戻ろうとしたその時である。駆け足で馬が入ってくる。


「お館様にご報告ゥ!」


「如何した!?」


「大鎚めが笛吹峠に迫っております!」


 おお!ついにか!など言いながら皆の目に殺気がこもる。


「で、敵はどれほどの軍勢か?」


「そ、それが、直垂のものが二十人ほどで登ってきておりました」


「はぁ?」


 父上のみならず皆が素頓狂な声を上げる。俺も含めた皆、大槌が攻め寄るものとばかり思っていたのに具足も付けずに峠越えとは一体何を考えておるのだ?


「それで大槌孫三郎はおるのか?」


「一人烏帽子に掛緒をしたものが居りましたのでそれがおそらく」


「むむぅ。守儀よ、そなたは和睦の使いだったときのために饗応の準備を。孫四郎は城に残れ。清之、何かあれば孫四郎を守れ。守綱は足軽を二十人ほど集めて対応できるようにせよ。他のものは儂について来い」


 矢継ぎ早に父上が指示を飛ばす。


「父上!どちらに行かれるのですか!」


「知れたこと。相手が具足も付けずに来るのだ。こちらが出迎えんわけにはいくまいて」


「兄上!危険だぞ」


「だからといって引きこもっておっては舐められるだろう。良いな。では皆そのように!」


「はっ!」


 当主として命令されれば、拒むこともできぬ。父上が無事帰ってきてくれるよう祈ることしかできぬ。



大槌城 大槌孫三郎


「今年は暑い夏だったおかげで米の出来は良いな」


「はっ!とはいえ皆が冬を越せるほどの量でもありませぬ」


「そうだな」


 最近は落ち着いているが南部から流れてくるものが少なくない。田畑にできる土地に乏しい大槌や釜石では流れ者を食わせるだけの生産力は無いので、毎年少なくない数の凍死や餓死がでる。


 この大槌だけでやっていくのは限界である。大身に身を任せるのも悪くは無いが、その場合領地安堵されるかもわからん。遠野であればやや大きい程度で安堵される可能性が高い。何よりあの燻した肉が美味かったからな。あれを食えるなら臣従するのもやぶさかでは……いやいや違う違う。あくまで領民を飢えさせないために臣従するのだ。


「よし狐崎、準備は良いか」


「はっ」


「では明日、日の上がらぬうちに城を出るぞ」


「承知しました」


「これで遠野の美味い飯・・・…ではない領民が飢えなくなるなら安いものよ」


 儂は直垂を着、他の者は素襖を着て遠野に向かう。笛吹峠にさしかかったところで人影が見えたのでおそらくは遠野の手のものが気付いたのであろう。


「さて、遠野はどう出てくるかの?」


「戦装束では無いので相手がまともなら手は出してこぬかと」


 峠の小屋でやたらとでかい婆さんから水を分けて貰い、大休憩をすませ峠を下る。開けた場所にでるや、そろそろ刈り入れが始まりそうなそば畑が広がっている。


「蕎麦か」


「我らが領では色々植えられるほどの土地がありませんから、うらやましいですな」


 ふと前方を見ると数十人の騎馬武者が速歩で迫る。相手も大半は甲冑を着ていないのでいきなり斬りかかられることは無さそうだ。


「我こそは大槌孫三郎なり。馬上の方よ名前を伺って良いか」


「儂はこの遠野の主、阿曽沼左馬頭守親である。見たところ戦に来たようには見えぬが、何用で来られた」


 なんと当主自ら来るとはな。


「此度、我が大槌はそなたら阿曽沼に臣従しに仕った!」


 儂の言葉に面食らったような顔になる。


「な、なに……。本気で言っているのか?」


「もちろんよ」


「……承知した。では孫三郎殿、こちらの馬を使え。我が城まで連れて行こう。その方は急ぎ城に伝えよ。饗応せよとな」


「ははっ!」


 若い武士が馬を駆けて行く。どうやらこの場では斬りかかられずにすみそうじゃな。

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