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第四十六話 四条様はまっていた

京 葛屋


「ふぅーやれやれ、やっと着いたわ。ホンマ陸奥は遠くてかなわんわ」


「お帰りなさいませ旦那様」


「留守の間何か変わりは無かったか?」


「先日四条様がお越しにならはりまして、戻ったら報せて欲しいゆうてはりました」


「さよか。ほしたらおまいさん、四条様にお知らせしてきてくれんか」


 丁稚が飛び出していく。四条様の返事が来るまでしばらく荷物整理と、帳簿の確認をさせてもらおか。


 荷の整理もそこそこなさなかに丁稚が息せき切って帰ってくる。偉い慌ててるけどどないしたんや。


「ええ!四条様が今から来はるって?しゃーない。いそいで準備せぇ」


 ほんま気まぐれなお人やなぁ。まあ都合つけるよりは楽やしええか。そんなこと思て支度始めたところで四条様が来はったわ。早すぎやねん。


「四条様、ようこそお越し頂きました。さ、こちらへどうぞ」


 四条様を上の間にお通しし、お茶と菓子をだす。


「すまんの。急に来てしもて。あんたさんが戻るのを今か今かとまっとったんや」


「なにか、急ぎのことでも?」


「ちゃうちゃう。あんたさんの話しが聞きとうてな。で、陸奥の話しを聞かせてたもれ」


 なんやそないなことかいな。それならそんなに急いで来ることもあらへんやろうに。


「ほう。それで遠野では今は野垂れ死にはおらんと申すか」


「はい。以前訪ねた際にはまだ何人か行き倒れを見かけましたが、此度の商いでは遠野の領内で行き倒れを見ておりませぬ」


 遠野をでればそこかしこに白骨死体が転がっとったし、このそこら中に骸が転がっとる京なんかは比べ物にならん様相でしたな。


「紙作りも順調なようで、四条様にこの紙を献上したいと言っておりました」


 桐箱を差し出すと四条様がまんざらでも無い表情で受け取り、開ける。


「ほぅ。これはえらい見事な檀紙やな」


「まゆみの紙というのだそうです」


「ほぉう。かつて平泉はんが作ってはった紙になぞらえたんやな」


 流石はお公家様、よう知ってはるわ。しかし平泉ゆうたら鎌倉の将軍に滅ぼされたところやな。さわり心地もええ紙ですさかいな、しゃあないけどめっちゃ触ってはるな。


「肌触りも文句ない。こらありがたい、大事に使わせて貰うわ。せやせや、あての文にたいしてなんかゆっとらんかったか?」


「はっ。四条様と同祖と聞いて皆様大変おどろいてはりました」


「せやろせやろ」


 遠野から渡された文を目を通しはると、少し難しい顔しはったわ。


「むぅ。現状ではとてもあてらを迎える余裕は無いとな」


「致し方ありません。富めるようになったのはここ二年ほどですので」


「そう言われればせやったな。何々続きがあるのか」


 難しい顔が少し緩んだか思ったらまた少し難しい顔しはったわ。


「なんや今年の秋には大槌とか言う地を攻め落として港を作る故、そしたら迎えると。そのためにも後ろ盾になってほしいとな。そんで、なんや天竺で阿片とか言われとる強壮薬を贈ります?」


 そこで遠野阿曽沼の三つ巴紋が入った漆箱を四条様にお渡しする。


「ほう、これはなかなか綺麗な漆箱じゃの。で、この中にその一粒金丹とか言う薬が入っておるのか」


 箱を開けると十個の印籠が詰められている。こちらにも三つ巴紋が入れられている。さらに印籠を開け油紙に包まれた一粒金丹を取り出す。


「この丸薬がそのような強壮薬なんか?」


「そのようでございます。ただ余り使うと廃人になってしまうこともあるとか」


「そんなんただの毒やん」


「ですが、労咳の止まらん咳を止めたというてました」


「ほんまかいな。まぁええわ、こんど坂浄雲殿に聞いてみるわ。次に陸奥行くときは教えてな。また文かかなあかんさかい」


 ほな邪魔したでーと言いながら店を出て行く。しかしまあ船云々いうてはったしなぁ、こら船持ってるとこも縁つくっとかなあきまへんな。まあ今日はもう疲れたし明日考えることにしよ。

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