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第三十三話 労咳の者で効果確認

大槌城 大槌孫八郎


 大槌城に帰り着き、玄蕃とともに父上へ報告に赴く。


「ご苦労だったな。遠野は如何であったか?」


「大変良いところでありました」


「ほう。詳しく」


「まず遠野の郷には一面の花畑があり大変美しゅうございました」


「花とな?花では腹は膨れぬぞ」


 父上は怪訝そうにこちらに問いかける。


「は。しかれど心は満たされると言うておりました」


 父上が怪訝な顔がよりひどくなる。


「遠野ではそれほどまでに花が咲き乱れておるのですか?」


 母上が父上を遮って話をする。母上は花畑が気になるのか。花では腹は膨れんがまあそういうものなのかもしれんな。


「心を満たす……この乱世にあって珍しい殿方ですね」


「いうて五つの童だぞ」


「あら、いくつであろうと殿方は殿方では?」


「まぁ、それはそうだが」


 遠野より預かった土産物に渋面の父上が手を伸ばす。


「してこれが遠野の土産か。中身は聞いておるか?」


「はっ。大きな桐箱は中身は存じません。漆塗りの小箱は天竺の薬が入っているそうです」


「天竺だと?」


「なんでも滋養に良く、止まらぬ咳や苦痛を和らげてくれるとのことです。ただ過ぎるとかえって毒になるので気をつけよとのことです」


 父上は大変困ったような顔をしている。毒にもなり得るといって薬を渡してこられてたのだからな。道中捨てることも考えたが、贈り物をぞんざいに扱うわけにも行かずとりあえず大槌まで持ち帰ってしまった。


「しかし天竺の薬か。見るだけ見てみるか」


 漆塗りの小箱を開けると三つ巴の紋が入った印籠が十個入っている。印籠には油紙にくるまれた丸薬が数個入れられている。


「見た目や匂いは特にどうということはないな」


「見た目だけではわかりますまい」

 評定衆の一人が声を上げる。


「咳が止まると言っておったな。労咳(結核)の者を連れて参れ。そやつに飲ませてみよう。また今後の事も話したい」



 一刻ほどして、労咳(結核)で痩せこけた者が連れてこられる。


「ごほごほっ。申し訳ございません。お呼びにより参上いたしました。ごほほっ!」


「そなた、名は?」


「はっ。ごふっ!弥吉と申します。ごほっ」


「酷い咳じゃのう。天竺の咳止めの薬が手に入ったのだが、のんでみんか?」


 まさに青天の霹靂といった表情をする。


「そ、そのような貴重な薬、わ、私などにはもったいのうございます。ごほっごほっ」


「よいよい。折角手に入ったがどれほど効くのかわからなくての。試しに飲んでくれんかの?」


 声は優しいが表情はまるで般若の様な父上に、弥吉は恐る恐る油紙に手を伸ばし内服する。評定衆の皆も弥吉をにらみつけ、とても断れる雰囲気では無い。


「どうか?」


「ごほごほ。ま、まだ飲んだばかりですのでわかりません。ごほほ」


「ふむ。しばらく見ていようかの」


 半刻ほどすると咳が止まる。


「お、おお! おおお! 咳が! 咳が止まりました! 心なしか息苦しさも和らいだような気がします! 殿様ありがとうございます!」


「おお。本当に咳が止まるのだな」


「す、すごい……」


 思わず感嘆してしまったが、周りも同じ思いである。こうも咳を止められるとは。まさに天竺の薬と言うだけある。


「むぅ。治ったわけではないのだろうが、折角だ。もう一つ持っていけ」


「はっ! はは! 殿様誠にありがとうございます!」


 弥吉は額から血がにじむほど地面にこすりつけ、よろよろと帰って行く。弥吉が門から出るや皆で顔を向かい合わせる。


「むぅ。誠にすごい薬だな」


「はっ。天竺の薬とは聞いておりましたがここまで効くとは思っておりませんでした」


「阿曽沼の神童はまさに神仏の使いかも知れませぬ」


「ん?神仏の使い?玄蕃よどういうことか?」


 帰り際に阿曽沼左馬頭守親より聞かされた内容を話す。


「すると、夢枕に立った神仏が知恵を授けておると?」


「信じられないことではございますが」


 評定の間がどよめきに包まれる。


「しかしこの薬の効能を見ては、強ち否定もできぬ」


 印籠を見、ため息交じりに父上が言う。


「父上、今秋の阿曽沼攻めは如何いたしますか?」


「斯様なものを見せつけられてはな……。かつて岳波や唐鋤崎と一緒に立った時と同じようにすれば勝てるやも知れんが。皆はどう思う?」


 評定の間に集まっていた者に父上から問いかけられる。神仏の使いと聞いては皆腰が引けているようだが、はっきりとそのことを言える者は居なかった。


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