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第三十話 大槌孫八郎の来訪 弐

横田城 阿曽沼孫四郎


 朝の型稽古を終えもち稗たっぷりの飯にベーコンと味噌汁を合わせる。ベーコンは弥太郎がヒトが入れるサイズの燻製炉を作っていたので、食べきれなかった獲物をとりあえず塩漬けにして燻しただけだが割と旨い。


「この燻した肉は旨いですな!」


「うむ、うまい。しかしな今は塩漬け肉だが南蛮で採れる胡椒なる実の粉をつけるとより旨くなるそうだ」


 ごくり、と清之が喉を鳴らす。


「より美味くなるのですか?」


「そうらしい」


「若様! 早う南蛮に行きたいものですな!」


 釜石も獲れていないのになんとも気の早いやつだ。まあやる気が上がることは良い。


「ところで、清之は大槌の嫡男殿はみたのか?」


「ええ。ケシ畑で惚けているところを見ました」


「ははは。このみちのくであのような花畑は珍しかろうな」


 清之が大きくうなずく。


「しかし若様、あのような可憐な花から本当に薬が採れるというのですか?」


「そうだ。すでに幾ばくか作らせておる。まあ失敗したとて少なからず心が満たされるであろう」


 花で腹は満たされぬが、荒んだ心を埋めるくらいはしてくれるからな。そう悪いものでもない。ケシの花は1日で枯れてしまうのだが、このあと握りこぶし大まで実が成長する。実は実で旨いし、油も採れる。実や油には阿片の成分は無いので中毒になることも無いはずだ。

 芥子の花をうまく扱い採れたものに混ぜ物をして弘前藩では一粒金丹として稼いでいたらしい。


 ということでケシ畑へ視察に行く。大槌の倅もいるようだしな。


「清之、あそこにいる二人は大槌の者ではないか?」


「おそらくはそうでしょう。どうなさいますか?」


「声をかけてみる」


「危のうございますぞ」


「わざわざ敵地で刀傷沙汰を起こす者もあるまい。そなたもおるから問題なかろう」


 清之は軽く頭を抱えるが、俺が言っても聞かないのを知っているので渋々付いてくる。


「そなたら見かけん顔だな。どこから来られた?」


「俺は大槌孫三郎が嫡男孫八郎だ。隣のものが狐崎玄蕃。そなたらの敵だな」


 む、堂々と敵と名乗るとは、莫迦なのかそれともよほど肝が据わっているのか。


「小生は阿曽沼佐馬頭が嫡男、阿曽沼孫四郎と申す。隣のものは傅役の浜田三河守だ」


 清之は会釈するのみで話をする気はないどころか、腰に手をやりいつでも切り掛かれるような体勢だ。一方、大槌孫八郎はまさか阿曽沼の嫡男が出てくるとは思わなかったようで面食らったような表情をする。


「これは、若様でございましたか。神童と聞き及んでおります」


「なに、皆が勝手にそう言っておるだけだ。大したことはしておらぬ」


「いえいえ何でも麦踏み大会なる祭りを催されたとか」


「あれは大いに盛り上がったのだ!次の機会には大槌殿や狐崎殿も参加なさっては如何かな?」


清之と狐崎が瞠目する。一方で孫八郎は柔やかな顔で応える。


「ふふふ、それも良いですなぁ。玄蕃よそなたも出てみぬか?」


「そ、某は大槌の者でございますれば、お戯れがすぎまする」


「ふはは冗談だ」


 狐崎玄蕃とやらが少しぶすっとする。


「それはそうと孫八郎殿、玄蕃殿、我が父阿曽沼佐馬頭にお会いせぬか。せっかくお越しになっているのに歓待もせぬとなれば武家の恥。良いか清之?」


「はっ。問題ないでしょう」


 清之が挑発的な表情で大槌の二人をみやる。孫八郎は少し怯んだ顔つきだが、狐崎玄蕃はやんのか?コラといった表情だ。ここが戦場であればすでに切り結んでいるだろうな。


「孫八郎様、せっかくのお誘いでございます。ここは歓待を受けるべきかと」


「そ、そうか。そなたがそういうのであればそうしよう」

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