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第百八十六話 商人は大事な情報源

高水寺城 千春殿


「孫三郎や、調子はどうですか」


 殿が身罷られてからというもの、嫡男である孫三郞は文において頭角を現して来ている。まだ六歳だと言うのにすでに読み書きは大人と同じようにできる。勿論、書物や所作などの知識はとんと足りぬが、これからが楽しみだわ。しかし気になるのはこのところこっそり商人とおぼしき怪しげな男を近くに置き何か話をしているよう。


 ふとしたときに話を振ってみると、これからの戦は銭が物を言うので銭儲けをせねばならぬとか言っております。いつのうちにか洗濯板なるものを指物屋に作らせ、売ろうと画策しているようです。


「俺が必ずやこの斯波を栄えさせてみせましょう」


 などと実に頼もしいこと。しかしあまり銭儲けのことばかりでは卑しいのでほどほどにするよう申しつけます。阿曽沼の嫡男は神童と言われて居るようだが、わらわの嫡男も神童です。であれば阿曽沼には勿論負けません。九戸の者たちを討ち、もしかしたらこの陸奥に覇を唱えてくれるかもしれません。



鍋倉城 阿曽沼孫四郎


「ほぅ、斯波の嫡男が面白いものを作ったと」


 葛屋から手渡されたのは洗濯板だ。


「これを売って銭を稼ぐというのだな」


「そのようです」


「儲かると思うか?」


「どうでしょうか」


 おそらく斯波の嫡男は転生者だろう。洗濯板は確かに売れるだろう、しかし大消費地から遠いこの陸奥で作っても割に合わんのではないかな。


「おそらくは初回は売れるでしょう。しかし二回目からはもう売れないでしょうな」


 そうだろう。物珍しさで売れるのは一度きり。ここから大消費地である畿内まで一ヶ月、往復で二ヶ月だ。輸送にかかる費用が馬鹿にならないのと、往復の期間で畿内の指物屋が量産するだろうから、儲からないだろうな。


「ふむ。しかしこれは便利な物だ。木工部に命じて同じ物を作らせよう」


 洗濯板なんてすっかり忘れていた。便利な物ではあるのでありがたく複製させてもらおう。最近稼働したばかりの工廠で早速量産させ、価格破壊しよう。


「ねえ若様、次は何を作ってくるかしら?」


「んーそうだな……千歯扱きか唐箕あたり、いやその前にオセロとか椎茸かもしれない」


 千歯扱きは一足飛びに足踏み脱穀機になったし、唐箕はすでにある。が、他領の生産効率が上がっても困るので領外には出していない。椎茸を見つけることができれば作るんじゃないかな。オセロはこれも輸送費考えるとろくに儲からんだろうけどつくるだろうか。


「あー……定番ね」


「何も考えずテンプレ通りにやるならそうだろうな」


「それとテンプレ通りなら正条植えに耕地の整理ね。そのうち若様を追い越すかもよ?」


 俺と雪の話にぽかんとしていた葛屋だが、俺を追い越すかもしれないと言う雪の言葉に驚く。


「若様が追い抜かれるというのですか?」


「そういうこともあるかもしれん」


 俺は前世の知識チートとみんなの助けでこうやっているわけだからな。おかげで早くも高炉建設なんかに取りかかることができた。俺一人だったらここまでになっていないだろう。そんなんだから相手が俺より優秀なら追い抜かれることもあるだろう。


「そういうことで葛屋、そなたは斯波で新しい物が出てきたら買ってきてくれ。多少高く買ってきてもよい。……そうだな、何なら御用商人になってもよいぞ。くくく」


「わ、若様お戯れを……」


 葛屋が汗をかくが、別に冗談ではない。千歯扱きなどの農具は他領に流されては困る。それと財政面がこちらに筒抜けになるのも大変よいしな。


「そうだ、斯波の嫡男に接するときは葛屋ではなく篠屋とでも名乗っておけ。そなたの任務は重要ぞ」


「はっ!ははっ!」


 写真なんてない時代だから名前が違えばしばらくは身バレせずにいけるだろう。


「それと左近」


「はっ」


 相変わらずどこから現れたのかわからん。


「斯波の嫡男の動きを見張れ。あいつも草をほしがるだろうから、保安局の人間を何人か送り込め」


「御意に」


 相手の諜報機関にこちらの間者を送り込んでおけば情報も筒抜けだ。


「斯波の家臣にもそれとなく離間するよう働きかけてくれ」


「ははっ」


 ライバル関係になった方が展開としては面白いかもしれないが、俺には面白くない。早いうちに孤立させて、あわよくば取り込めればいいな。

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