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転生を望んだら戦国時代の遠野に来ました  作者: 海胆の人
文亀4年/永正元年(1504年)
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第百六十七話 和賀定正の投降

安俵城 阿曽沼守親


「は?なんといった?」


 評定の間では報告に来た足軽に武将たちが、何いってんだ手前ぇと言わんばかりの顔で問いかける。


「和賀定正が兵を率いて降ってきただと? 莫迦な、攻めてきたのではないのか?」


 猿ヶ石川沿いを和賀定正が率いる二百の将兵が進んできたので、すわ戦か!と足軽共が騒ぎ始めた所に矢文が打ち込まれた。矢文にはこちらに降る旨が書かれていたので報せにきたのだという。


「兄上、流石に罠だと思うのだが」


「守儀、そなたもそう思うか、実はな俺もだ」


 守儀と守綱が揃って罠ではないかと疑っている。


「そ、そうですぞ!まさか二百もの兵が戦いもせずに降るなど!」


 廻りの武将らも異口同音に賛同する。


「……まあそうだわな。しかし降ると言っておるのだ、和賀定正と付き人だけ招き入れて真意を聞こう」


 やや不満げなものも散見されるが、理屈としては通っているので渋々従う。来内茂左衛門が出迎えに赴くこととなった。甲冑は着ているものの、武器は持たずに門前へ和賀定正がやってくる。


「某が案内役を仰せつかっております来内茂左衛門でございます」


「出迎え感謝致す。某が和賀関口小五郎定正でござる」


 下馬した和賀定正が名乗る。持ち物を改め、武器を持っていないことを確認した上で一の郭へと案内される。


「よう来られた。儂が阿曽沼左馬頭守親じゃ」


「和賀関口小五郎定正でございます」


 二人の視線がかちあい、雰囲気にのまれた周囲の武将が押し黙る。


「この文にはその方が我らに降ると書かれておるが、真か?」


「はっ!相違ございません」


 和賀定正がはっきりと回答する。


「ところでな、まさかなんの見返りもなく当家へ降りるというわけでもなかろう?」


「当家の恥ではございますが、当主の左近将監定行が次兄である和賀成鳥小四郎定久の手により幽閉されてしまいました」


「つまり和賀の当主を救う助けが欲しいと」


「左様でございます」


 和賀定正の返答に皆困ったような顔をする。


「それでは和賀の当主を救った後はまた敵対するのか?」


 守親がした当然の疑問に皆相槌をうつ。


「兄上がどう考えるかはわかりませぬが、某はそのまま左馬頭様にこの生命をお預け致す所存です」


 守親と定正の視線が交錯する。しばらくして守親が小さく息を吐く。


「よかろう。嘘を申しておるようには見えん」

 

 守親の言葉に定正がはっきりと安堵する。


「兄上、これで此度の戦は終いか?」


「うむ。明日には遠野から輜重が届く故、それと共に帰城する」



 昼頃、遠野から輜重部隊がやってくる。馬の背には俵が、荷車には板が積まれている。そしてその先頭には芦毛の馬に子供が乗っている。


「孫四郎来たか」


「父上此度の戦、お疲れ様でございました。早速城の補修と長屋の建築に取り掛かります。俺が嫡男の阿曽沼孫四郎だ。そなたが小原藤二郎で……父上、其の者は?」


 孫四郎が馬を降りて挨拶をする。もちろんすぐ脇で清之と毒沢彦次郎丸がいつでも刀を抜けるよう、柄に手をおいている。


「はっ。小原藤二郎行秀でございます」


「そなたが嫡男か。俺は和賀関口小五郎定正だ。これから阿曽沼に厄介になる」


 互いに挨拶が終わったところで小原藤二郎が問いかける。


「孫四郎様、城の補修と長屋ですか?それに俵は一体……」


「うむ。本当はもう少し堅牢な造りにしたいのだが、まずはこの冬を越さねばならぬでな。開いた孔を塞いで、燃えた町家をとりあえず長屋にして、雪が溶けたら本格的に改修する。俵は少ないがこの冬の糧食の足しにするよう持ってきた、米や麦などだ」


 あれよあれよとお救小屋が立ち、民草に粥が施される。凶作に加え戦で食料が一部燃えてしまったためあっという間に人だかりになる。


「残りは安俵、そなたに預ける故、民草に食わせてやってくれ」


 小原藤二郎と和賀定正が驚嘆の表情を見せる。


「なぜ民草にそこまで?」


 和賀定正が問いかける。


「民を大事にしたからこそ先の戦で我らが勝ったので御座います。民こそが我らの力の源、なればこそですよ」


 

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