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転生を望んだら戦国時代の遠野に来ました  作者: 海胆の人
文亀4年/永正元年(1504年)
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第百六十六話 筒井内膳駆ける

二子城 和賀定久


「なんだと!すでに安俵城が落ちていただと!」


 筒井内膳が和賀定久に安俵城がすでに陥落し、現在臥牛で陣を張っていることを報告する。あまりに早い落城に和賀定久は驚きと、怒りで思わず声を上げる。


「はっ。どうやら先の戦で使った大きな音のする武具によって城が破壊されたらしく……」


 ぎりりっと音が聞こえるような形相をするが何回か大きく息を吐き、表情をもどす。


「それで定正は俺の指示を待っているということか」


「左様でございます。それとお館様のご様子を伺ってくるように申し遣っております」


 そう言うと定久は相好を崩す。


「兄上は極楽寺で養生していただいておる。少し気が触れておられたのでな、御仏の力を借りて落ち着いていただいておるところじゃ」


 定久の話し方や表情から、筒井内膳は現状を概ね把握する。


「……左様でございますか」


「うむ。煤孫も今のところ落ち着いておるしな。定正には戻ってくるよう伝えてくれ」


 筒井内膳は退室したその脚で極楽寺に向かうことを考えたが、すでにとっぷり日が暮れている。空いている長屋に潜り込み、甲冑を脱ぐのも忘れ泥のように眠ると、夜が明ける前に馬にまたがり速歩で極楽寺へと向かう。


「これは筒井内膳様ではありませぬか。どうなされたのでしょうか?」


 空が明るくなる頃に極楽寺に到着すると、門前に出ていた住職が筒井内膳に挨拶をする。周囲には数人の兵が立っており、出入りを見張っている。


「これはご住職、ご無沙汰しております。お館様がこちらで養生なさっていると聞きました故、ご様子を伺いに参上しました」


 馬から降りた筒井内膳の言葉に住職は黙って先を歩く。兵たちも筒井内膳であることを聞いたがために道を開ける。そのまま寺の中を横切り蔵にはいる。


「この座敷蔵におられます。拙僧はしばらく掃き掃除をしておりますので、御用があればお呼びください」


 そう言って箒をもった住職は離れていく。

 蔵に入り、鍵のかかった扉の前で筒井内膳が名乗り、和賀定行の名を呼ぶ。しばらくすると奥の方からドタドタと足音が聞こえ、分厚い栗の板でできた扉を壊さんばかりの音がなる。


「筒井内膳か! 定久が謀反しおった!」


 筒井内膳は戦支度のために定行が騒いだところを見ていなかったので、その言葉をそのまま信じてしまう。


「なんと! しかしここで下手に動くわけには参りませぬ。準備を整えてお助けに参上いたします故、不自由をおかけしますが今しばらくお待ちくだされ」


「……相分かった。そなたに任せよう」


 その後しばらく現在の状況の説明などをする。

 筒井内膳は住職に礼を述べ、暗くなり始めた道を駆けようとしたが、危険であると止められ、一晩宿を借りることとなり、着けたままになっていた甲冑を脱いで住職と対面を取る。


「お館様は定久様が謀反を起こしたと、一方で定久様はお館様のお気が触れたと申しておりました。某はお館様の気が触れたというところは見ておりません。ご住職からみてお館様は気が触れているように見えたでしょうか」


 住職がふぅっと息を吐く。


「確かに来られたときはお怒りのご様子でした。今も怒りはおありのようですが……、それは戦に負けたこと、家中をまとめきれていないことへの焦りの発露のように思いましたな」


「なるほど……、武辺者の某にはその様な機微を感じ取るのは難しゅうございますな」


 今度は筒井内膳がふぅと嘆息する。


「ご住職、世話になりました。お館様をお頼み申す」


 夜が明けるやいなや定正の待つ願行寺へと駈歩で向かう。



「定正様、筒井内膳が戻ってまいりました」


 願行寺の講堂に筒井内膳が連れられてくる。


「只今戻りました」


「よう戻った。で、城はどうであった?」


 出された白湯で喉を潤し、筒井内膳が答える。


「はっ。お館様は気が触れたということで、定久様により極楽寺に押し込められております」


「むっ。定行兄上は養生されているのでは?」


 和賀定正は眉間にシワを寄せながら先を促す。


「それがどうやら定久様が当主を名乗っておられます」


 定久が当主を簒奪したことを理解し、定正は深い溜息をつく。


「この様なときになんという……。して定行兄上はご無事か?」


「はい。御正室と行義様ともども極楽寺に押し込められておりますが、ご健勝です」


 無事だと言うことを聞き、胸を撫で下ろす。


「定正様、如何なさいますか?」


「兄上を救わねばならぬが、そうなれば定久兄上と戦になる。しかし我らにはこの二百の兵しかない。とても宗家には敵わぬ」


 願行寺にある兵は和賀家の中では一部にすぎない。その気になれば数倍の兵が動員可能であるので、宗主を奪い返しに行くというのはできない。


「では二子城に帰城ですね」


「いや、今度は俺が狙われかねん。定行兄上をお救いせねばならぬし……ここは遠野にでも行くか」


 まさかの提案に皆腰を浮かす。


「独立は無理だ。稗貫に降る気もさらさらない。しかし阿曽沼であればあの訳のわからん武具で寡兵であっても戦に勝てそうではないか」


 新しい武具を使ってみたいと顔に書いてあるのをみて、武将らはこれはもう説得が無理だろうと悟り肩を落とす。


「なに、和賀に戻りたいものは止めん。俺についてくるものだけ着いてこい」


 とはいうものの戦続きで生活が苦しくなっていたこともあり、生活環境が良いと聞く遠野へ逃れる選択をしたものがほとんどであった。


「そういえば小島崎修理からの報せがない。今なにをしているんだろうな」

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