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転生を望んだら戦国時代の遠野に来ました  作者: 海胆の人
文亀4年/永正元年(1504年)
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第百六十三話 偽りの投降のはずが……

安俵城


 明け方ころ、一人の兵が城に入ってくる。


「殿に申し上げます!敵の増援、和賀定正が率いる隊は臥牛ふしうしに本陣を敷いた模様です」


 斥候にでた兵が状況を報告する。


「臥牛か」


「兄上どうする?下手に花巻に向かうと横っ腹を突かれるぞ」


「守儀の言うとおりだ。それにそろそろ雪が舞い出す。このあたりで兵を帰してやらねば」


 守儀と守綱が意見具申する。どうしたものかと守親が考えていると、駒木豊前が駆け込んでくる。


「殿!和賀の小島崎修理というものが、我らに降って来ております!」


 陣内の武将らが顔を見合わせる。


「戦ってもないのに降ってきたと?」


「はぁ、そのようで。」


「どうする兄上?」


「兄上、追い返せばよかろう」


「まずは話を聞いてからだ。おい、連れて参れ」


 しばらくすると館に武将と郎党が入ってくる。もちろん部屋に入る前に刀などの武器ははずさせている。


「よう参られた。我らの砲撃で穴が開いてしまったが、ゆるりとなされよ。儂が阿曽沼左馬頭守親だ」


 守親の言葉を聞きつつ、部屋の惨状をちらりとみる。


「小島崎修理孝信でございます。お目通り頂きまして感謝申し上げます」


「小島崎とやら、そなた我らに降ってきたというのは本当か?」


「ははっ。あまりに鮮やかな城攻めの手腕に感服いたしました。それ以上に日の出の勢いである阿曽沼に降ることこそ最善と判断しました次第です」


 守親はしばらく考えていたが。


「ま、よかろう」


「「兄上!」」


 守綱も守儀もさすがに罠だろうと思い、思わず声を上げ、腰を浮かす。


「守儀!」


「な、なんだ兄上」


「腹が減った。飯を作ってこい。こやつの分もな。毒は入れるなよ」


 そのとき腹の虫が部屋に鳴り響く。


「わかったよ……。毒なんて俺の趣味じゃないから、はじめから使わん」


 しぶしぶ守儀が炊事場へと出て行き、しばらくして守儀が食事を運んでくる。


「こ、これは!」


「もしや!」


 小原と小鳥崎は出された食事に目を輝かせる。


「うむ。干し鮭だ」


 分厚く切られた干し鮭に山盛りの白飯、それと青菜の浮かんだ味噌汁が出される。


「これは、降りてよかったかもしれんな……」


 間者として阿曽沼に降った小島崎ではあるが、早くも主家への忠誠心が揺らぐ。


「さすがに普段は米だけの飯はできんが、せっかくだ。米は姫飯(現代の炊いたご飯と大体同じもの)にしておる」


 山盛りになった白飯と焼き鮭を前に小原らは思わず喉を鳴らす。


「さて飯にしよう」


 小原と小島崎は無言で黙々とそれでいて噛みしめるように食べていく。


「どうだ、この米は旨いだろう」


「はっ。全く……我らの米とは違いますな」


「うむ。我が領でのみ作られている。寒さにも強い」


 寒さに強いという言葉に二人して目を開く。


「今年も山背が吹いて他の米が普段の二割ほどしか穫れなかったのに対し、こいつは半分ほどもなってくれたのだ」


 そんな奇跡のような米があるとは露ほどにも思っていなかった二人は、この米があれば自分たちの腹は勿論、民草が餓えることもなくなるのでは無いかと考える。


「さらに寒さに強い米を作るとか言っておったな」


「寒さに強い米を作るのですか?」


「我が嫡男、孫四郎が言っておったが、今年の冷害でもとりわけ実のなりが良いものを選抜して、さらに冷たい沢の水で夏も育てるとか」


「随分と興味深いことをなされているのですな」


 小島崎修理が興味を持つ。


「興味があるなら孫四郎に紹介してやろうか」


 その言葉を聞いた小島崎修理は平伏し、残った米を口に含む。


「この美味い米を腹一杯に食える日が楽しみでございます」

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