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転生を望んだら戦国時代の遠野に来ました  作者: 海胆の人
転生~文亀元年(1501年)
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第十六話 国家を作るのは鉄と血と銭です

浜田邸 阿曽沼孫四郎


「ぐぅ……」


「若様まだ手習いの時間は終わっとりませんぞ」


 言葉とともに拳骨を食らって目が覚める。


「うぐっ!」


「では、『春秋』をつづけますぞ」


 春秋、すなわち孔子が書いたとされる歴史書で周王朝の分裂から斉の分裂までの期間を記載したものであり、この書名から「春秋時代」と呼ばれるようになる。

 周王朝は第13代の王である平王が、悪政を敷いていた父親である幽王に対して諸侯の力を借り討伐する。この際に洛陽を建設。以後をそれ以前と区別するために便宜上東周と呼ばれることとなる。このときから春秋時代となる。すでに力は衰えていたが依然として権威を維持していた。しかし平王の子、桓王の代になると平王を助けた鄭の武公の子、荘公を疎ましく思い討伐するも敗北し、権威が地に堕ち各国が独自の統治を始めるようになる。鄭自体は小さな国であるためこれも没落し、変わって斉が頭角を現すようになるが、楚に圧迫された小国を助け兵を出すも大敗し衰退する。次に晋の文公が楚を撃退し覇者となる。この晋が内部分裂し、趙・魏・韓の三国に冊封され春秋時代がおわる。こののち周王朝の権威が完全に形骸化し、戦国策に書かれる戦国時代となっていく。

 この周王朝の後半は凋落する組織の典型といったところだろうか。楚に圧迫される小国を助けるのが周であったならば中国の歴史も変わったものになっていたかもしれないな。そして最後は異民族とも言われる秦に討たれるわけだが、これも自分たちの為に兵を出してくれた諸侯が伸張するのを恐れ、最期まで足を引っ張って滅びるなんてところは実に愚かしい。


「爺」


「若様どうなされた?」


「今の幕府はこの周王朝に似てないか?」


「わ、若様!滅多なことを申されてはなりません!」


「しかし、享徳と応仁の大戦で幕府の権威は随分と堕ちてしまったではないか。嘉吉の乱のように大樹といえど討たれることもあれば、政争に敗れて下向したりなどとても大樹とは言えぬであろう」


「確かに若様の仰りようも否定はできませぬが、それでも依然として足利の名は強うございます。このそばの大崎も斯波も我らでは相手にもなりませぬ。」


 この狭い盆地しか無い遠野阿曽沼に対し、大崎平野や北上盆地を有する大崎氏や斯波氏はやはりかなりの大身である。現状まともに戦って勝てる相手ではない。


「はてさて当家は秦か楚か。はたまたそこまで到ることの出来ぬ有象無象で終わるだろうか」


「それは若様の双肩にかかっておるでしょうな」


 この弱小の遠野が相手を圧倒するには産業革命を起こさないといけないな。産業革命はそれ以前と比べ圧倒的なエネルギー消費と鉄鋼消費、それはすなわち産業構造が農業主体から工業主体に変わるという出来事である。


 戦争に於いては鉄の投射量が格段に増え、圧倒的な火力で敵を倒すことができるのだ。史実ではこの生産力と火力で数に劣る英国が世界帝国となる。国家は鉄と血でできており、戦争はどれだけ鉄と血を送り込めるかで決まるという事だ。


 産業革命のためにはできれば中央集権体制の構築が望ましい。集中的に資本投資を行い、マーケットを発展させ、いずれ来る欧米列強との衝突に必ずや勝たなければならない。



「ねえ若様、あんまり急進的にやっても周りが付いて来れないんじゃ無い?」


「どういうこと?」


 書の時間が終わったときに雪に相談してみると割とつれない回答だ。


「建武の新政ってあったでしょ?」


「後醍醐天皇が直接統治しようとしたアレか」


「そうあれ。あれは武家に対しては所領問題を解決できなくて反目されたのね」


「ふむふむ」


「当時、今もそうだけど所領が給料である時代に給料払えませんって言ったらどうなるかしら?」


「そりゃあ怒るよ」


「公家に対しても小うるさい摂関家を排除しようとした訳ね」


「そうなのか」


「後醍醐天皇は中央集権体制の構築をしたかった様に見えるけど、一気に推し進めようとしたから皆が付いて来られずに、体制を構築する準備段階で躓いてしまったのね」


 明治政府は中央集権体制の構築に成功したじゃないかと聞けば、


「あれは江戸時代に参勤交代のために街道整備していたし、海運業も盛んになってたからね。ある程度交通インフラが構築できて迅速に動けたと言うことと、貨幣経済に移行していたからだと思うの」


 江戸幕府による参勤交代による街道整備と文化的均一化、戊辰戦争で利息すら払えないほどの財政赤字、借金と引き換えに版籍奉還と廃藩置県が成立した面もあるんじゃないかとのこと。


「リケジョなのに詳しいね」


「日本史は昔から好きだったのよ。でも歴史学ではお金にならないからその次に興味のあった食品加工に進学したの。」


 加えて明治三年に徴兵規則で一万石あたり5人の徴兵と明治四年に編成された御親兵(近衛師団の前身)の武力があったのも明治政府の成功の一面じゃないかとのことだ。それでも西南戦争までの10年ぐらいは士族の反乱が絶えなかったし、そんな簡単じゃ無いよと。


 社会のシステムを変えるってのは難しい。鉄と血だけではなく、銭とコンクリートも必要かな。

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