表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生を望んだら戦国時代の遠野に来ました  作者: 海胆の人
文亀4年/永正元年(1504年)
120/189

第百十九話 縦帆

三陸沖 葛屋


 二十石積みくらいではほとんど何もつめへんけど無い袖は振れません。とりあえず石巻を目指し、天気の良い日を狙って南下していく。水先人は大槌の漁師だとか。


「こんな大きな船が使えるとはなぁ。孫八郎様、様々だ。がはは」


 これで大船やと……。普段どんな船で漁に出てるのか聞けば大木をくりぬいた船だとかでそんな大きな木がまだある事に驚くのと、そんな小さな船で良く漁にでられるもんやと感心する。

 それなりにこの船の扱いに慣れてるのかすいすい進んでいく。


「こらえらい速いわ」


「あたりめぇだろ。山も谷もねえんだぞ」


 それもあるが、向かい風やというのにぐんぐん進んでいきよる。


「帆掛け船って風上にもすすめるんやな」


「あ?これは孫八郎様がお考えになった仕掛けよ。よくわからんがこの帆の向きをかえれば向かい風でも進んでいけるんだわ」


 はあ、ようわからんけどそういう仕掛けがあるっちゅうことか。これなら風待ちせんでええから商売がはかどりそうやな。場合によってはこの船自体売るのもありやな。しかしこれとは比較にならんほど大きなあの船を使わせて欲しいなぁ。船縁高いから荷下ろしに難渋しそうやけど。


「ところでその板つけた縄を海に流してるんはなにしとるん?」


「おおこれか、これはこの砂が下の升に落ちきるまでにどれだけ流れるかをみるやつだ」


「そんなんしてなにになるん?」


「船の速さがわかるんだよ」


 はぁなるほどなあ。一言に舟使う言うてもいろいろやらなあかんことがあるんやな。風向きが良かったようでたったの二日で石巻の湊についてもたわ。



「おい旦那、見かけねぇな、どっから来た」


「大槌や」


「あ?大槌の奴がそんな上方のような話し方する分けねぇだろ」


「ああ、正しくは京の商人やったんやけど焼き討ちされて、商売先の遠野に逃げ延びたんですわ」


「はぁなるほどねぇ。京ってのも大変なんだな。そうそう、俺は市七。そこの店で手代をしてる」


「ほぉ。しかし手代がこないな場所で怠けてええんか?」


「ははは、こりゃあ手厳しい。ところでうちの店で取引いたしませんか?」


 若い手代のくせに良い目つきしよるな。今後うちに引き抜くのも考えてもええかもしれん。


「せやな。伝手もありゃせんし、ここで会ったのも何かの縁やろ。折角やし案内してもらおか」


 市七とやらがにんまりして歩いていく。船頭に少し待ってて貰うように話しし、後を追う。紙を売り、米と反物を買っていく。まあ京ほどええもんは無いけど、櫛や簪、反物など蝦夷地交易に使えそうな物も仕入れていく。しかし蝦夷ではどういうもんが好まれるんやろか。あーこんなんやったら北国船の商人ともっと話ししとれば良かったわ。


 積み込みを待つ間に海の神様を祀る塩竈神社にお参りしておく。御榊料みさかきりょうを納め、航海の安全を祈り、すこし話しをする。


「そういえば石巻とかいう地をしってはりますか?」


「知っておりますが。それがどうかしましたか?」


「いやどういうところかと思いましてな」


「どういうところもなにも、数年ごとに水が越すような場所ですよ」


 水が越すたびに川の流れが変わる暴れ川のせいということと、良い水が出ないので住むには適さない場所という。そんな土地だが遠野とちがってずっと平野やからなあ。うまいこと川を治めたら化けそうなもんやな。といってもそれは今後若様が考えればええことやから、なるように任せましょ。


「それより遠野といいましたら、最近随分と賑わってきたようですな」


「殿様がかなり頑張ってるようですわ」


 この辺りまで遠野の話が出てくるんか。まあ野垂れ死にがほとんどのうなったし、えらいこっちゃで。


「ほな、これからもご贔屓に」


「こちらこそ、また何か良いものが手に入ったらよろしく頼むよ」


 帰りは潮の流れに逆らうのでやや時間がかかるも四日で大槌に戻る。いやそれにしてもずいぶんと楽な商いやわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ