第十二話 製紙始めました
水無月となり、箕介から藁紙の製造にめどが立ったとの報告を受け、視察に赴く。
「ではこれより紙作りを始めます」
じょきじょきとわらを刻んでいく。
大きな土鍋に湯を沸かし、刻んだわらを茹でていく。再度沸騰したら草木灰をいれ、沸騰しない程度で一刻ほど煮る。しっかり柔らかくなったら、さらに細かく刻んでいく。ミキサーがあれば便利そうだ。ある程度細かくなったら型枠で漉いていく。型から取りだしおもりで絞り、天日で干して、乾けば完成。
「手間はかかるが、紙を漉くだけならそんなに難しくなさそうだな」
「売り物としてはあまり価値は出ませぬが……」
「なに文字は書けるのだから当家で記帳に使ってみようぞ。質の良い物は外に売ることにしよう」
立派なわら半紙だ。ちょっとゴワゴワしているけど……懐かしい肌触りだ。乾燥時にローラーで圧延すればもう少しなめらかになるかな?あと漂白すればそれなりにきれいな紙になりそうだ。塩素漂白はさらし粉がないのでできないから、硫黄で漂白できるかな。硫酸欲しい。
「もう少し薄くて丈夫な紙になればな」
「糊剤が必要ですので、使えそうな物を探してみようと思います」
「うむ。此度の成果は父上に諮るゆえ、褒美は大したものは出せんが、何とかしよう」
「ありがとうございます」
「そういえば、ウツギが山に生えていたのだが、あれの皮から糊がとれるとかどこかで読んだな」
「おお! では早速!」
「まてまて、そんなに急がずとも良い。まずは父上に報告してくるから待っていろ」
横田城に戻り、できたわら半紙を父上に見せる。
「わらで作った紙がこれか」
「はい。当家で使う分には問題がないかと存じます」
「うむ。よくやった。紙漉きの箕介とやらはいまどこに?」
「はっ。紙漉き小屋にございます」
「すまぬが箕介を連れてきてくれぬか」
俺も少し休むよう言われたので、自室へと引き上げる。
◇
横田城 浜田三河守清之
殿が難しい表情でこちらに声をかける。若様はしばし自室で休んでいるよう殿からの仰せだ。
「この技術は門外不出にできると思うか?」
「材料も作業も難しくありませんので、いずれ漏れるかと」
「であろうな。漏れるだけならまだ良い。それよりもここで紙が作れることがわかると、周辺が攻めてくるやもしれん」
「でありましょうな。斯波や南部に支援を依頼してもあれらに食われるだけにございます」
「うむ。孫四郎はまごうこと無く神童であろうが、まだ四歳。己の行動でどのような結果が為るかはまだわかっておらん」
「……そのあたりもいずれお教えいたしたく」
「頼むぞ浜田三河守。何があろうと守ってやってくれ」
「御意に」
殿の指示が無くとも若様をお守りすることは当然ではあるけど、改めて心に刻んでおこう。