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転生を望んだら戦国時代の遠野に来ました  作者: 海胆の人
文亀4年/永正元年(1504年)
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第百八話 葛屋一家の遠野入り

五輪峠 葛屋


「はぁっ、ふぅ、皆、もう少しで遠野や」


 美濃で皆と合流してはや一月あまり、まだまだ雪の残る、現代で五輪峠と呼ばれる江刺から遠野に抜ける峠を登っていく。

 すると峠のすぐ脇に小さな小屋がポツンと建っている。


「こんな小屋、前来たときには無かったような」


「旦那様、小屋で水を分けてもらえないでしょうか」


「せやな。ちと行ってくれるか」


 丁稚が一人、小屋にいき戸を叩く。少しするとガタガタと音を立てて中から口を布で覆った男が出てくる。丁稚が状況を説明するとこちらを一瞥し、竹筒をうけとり一旦小屋に引き込む。

 少しすると竹筒をもって出て来たのを丁稚が受け取りこちらへ戻ってくる。


「あの男はなにか言っておったか?」


「いえ、一言も口を聞きませんでした」


「口が聞けぬもの…か?」


 そういえば遠野のどこかに山男がおるちゅう話を聞いとったなぁ。その類やろか。


「それはそうとお前さんご苦労さんやったな。まずお前さんからのみ」


 恐縮しながら丁稚が口をつける。どうやら毒は入ってないようやな。


「ほしたらあとは順番に飲もか」


 みんな一口程度だが水を飲んで人心地つく。少し休んだところで残り短い行程を急ぐこととする。


「お前さんら、この先は阿曽沼領やからな。遠野の町までもう少しやさかい気張りや!」


 皆疲れた体を起こし重い足を引きずり峠を下っていく。しばらく沢に沿って下っていくと川が合流する辺りに小さなお宮があるのでそこで火を炊いて夜を過ごす。


「おまいさん、こんな陸奥に栄えたところはほんまにあるん?」


「まあ都に比べれば寂しいもんやけど、来る度に人が増えとるわ」


「ほんまかいな。それにしても想像だにせんような田舎やねぇ」


「せやから言うたやろ、めっちゃ田舎やって」


「まあええわ。あのまま都におっても殺されるか人さらいにあうかやったし、東国でも外つ国でもどこでも行ったります。糞坊主共がぁ!今に見ときぃや!」


 おおこわ。こうなったかみさんは手ぇつけられへん。触らぬ神に祟りなしやで。


「あんたも!阿曽沼の殿さんの手伝いしっかりして、はよ都の連中に思い知らせられるようにしなはれや!」


「わ、わかっとるって」


 つい昨日までこの世の終わりのような顔しとったくせに、遠野に入ったとたんにこれや。まああんまり気落ちしとるのを見たいとも思わんから元気な方がええけどな。


「あしたも早いんや。さっさと寝とき」


 丁稚に火の番させて菰にくるまる。春先というのにみちのくの夜はえらい寒いわぁ。



 日も登るか登らないかという瑠璃色の刻、丁稚に叩き起こされる。


「なんや一体……ってなんやー!?」


 一発で目が覚めたわ。むしろ夢であってほしいくらいや。ひぃ、ふぅ、みぃ……十五人の足軽が儂らを囲んどる。ひえぇ遠野は山賊の類はおらんきいとったけど、やっぱおるんやなぁ。もはやここまでかと覚悟を決めたところで馬に乗った侍が出てくる。


「そなたら、何者か?っと葛屋とやらではないか。そなたら女子供も連れてなにしに来た」


「確か小友喜一郎様でございましたか」


「如何にも」


「ご無沙汰しております実はですね」


 いつもどおり商いのため遠野に向かったら都の店を焼き討ちされ、家族ともども逃れてきたことを掻い摘んで説明する。


「左様か、それは大変だったな。しかし一体何人おるのだ?」


「全部で五十人でございます」


 もっとおったんやけど、道すがらくたびれて脱落したものなどが半分くらいにまでなってしもた。そんなこと言ってもしゃあないけどな。そんな徒然無いことを考えていると、小友様がそばの足軽に耳打ちし、足軽がかけていく。


「もちろん、商いの品も持ってきております」


「……商人とはたくましいものだな」


 苦笑しながら小友様は道を開け、我々を通す。しかしあの足軽共は随分統制が取れた動きをしておったな。小友峠を抜け綾織に入る。昨年見た登り窯の煙が今回は二つに増えている。


「窯が増えてるな」


「遠野に焼き物なんてあったんですか」


「去年から取り組んでおったようだが、丹波立杭のような景色やな」


 かみさんが感心したように惚ける。

 今は長い窯が使われているようで周りの雪溶けて陽炎のようや。まとまった数できたら扱わせてもらいたいの。

 それと遠目でもわかるけど、山が一つすっかりはげ山になっとる。石でも積んでるのかやたら白いしなんやあれ。


「なんやえらい様変わりしよったなぁ。お前達急ぐで」


 なかば小走りになりながら程洞と彫られた石碑までいくと、大々的に山を切り崩し、川沿いの低地を盛り土し、土塁は石で覆われている。


「石で覆われた城は見たことあらしません」


 皆してぼけっと眺めていると丁度若様がおなりになったわ。


「葛屋よ久しいな。賊に焼かれたと聞いたが息災な様で安堵したぞ」


「はっ、若様。お陰様で無事に着くことができました。ところでこれは新しい城でございますか?」


「うむ。試験的に石積みにしてみたのよ。土塁のように雨で崩れんから、作るのには手間がかかるが一度作れば長い間保つのだ。それよりそなたら長旅疲れたであろう、今日はゆっくり休んで、明朝横田城に出仕せよ」


 そういえばもうすっかりくたびれたわ。お言葉に甘えて今日は休ませてもらお。


「田助は元気やろかな」


 葛屋遠野支店に皆してはいり、短かった田助の自由でのびのびした期間が終わりを告げる。一応しばらくこの遠野でやっていたので番頭のまま、葛屋の指導下に置かれることとなった。

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