出向
昭和11年 内務省警保局
内務省内の廊下を一人の警察官がため息をこぼしながら歩いていた
「はぁー、新年早々出向かー、な、特別捜査課、通称特捜か、特高に似てるな」
愚痴をこぼしながら歩いていると新たな上司の待つ部屋前についた
「ここか」
と、小声で呟きドアをノックした
「長谷幸吉巡査入ります」
すると少しして
「入れ」
と、向こう側から聞こえ幸吉は中に入ると中には特別捜査課長である背広姿で中年くらいの男が座っていた
長谷は敬礼し
「本日より特別捜査課に出向により配属になりました長谷幸吉巡査です」
課長は座ったまま
「私が特別捜査課長の横井鳴彦だ」
横井は椅子にもたれかかり
「長谷巡査、さっそくだが特別捜査課の主任務について詳しく話そう、特別捜査課の主任務は我が国で暗躍するスパイの確保、機密情報の漏洩防止及び監視、それと陸海軍内部での不穏な動きがないかの諜報活動だ」
幸吉は疑問を投げかける
「ですが、最後のおっしゃられた任務は憲兵隊の管轄では?」
小さいため息をつき
「憲兵隊は信用できん、それと特に陸軍と警察、内務省はゴーストップ以来犬猿の仲だ、互いに情報を探りあってる」
「一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
幸吉は最初から聞こうと思っていた疑問を質問する
「なんだ言ってみろ」
「特高との関係はどうなのでしょうか」
「我々は裏の秘密警察だ、元憲兵の貴様に分かりやすく言えば特務機関だ、特高が表の秘密警察だとすれば我々は裏の秘密警察だ、特高が表だって動くことで影である我々は動き易くなる」
「もう一つよろしくでしょうか」
「言ってみろ」
「今回の私の出向、課長よりご指名があったとのことですが何故、自分なのでしょうか?」
横井は薄ら笑みを浮かべ
「それは貴様が随分興味深い経歴を持っているからだ」
横井は書類を手に取り
「長谷幸吉元陸軍憲兵伍長、陸軍を退職後は警察教習所に入校、在学中の成績は上の中、任官後はすぐに上司の推薦もあって警視庁特別警備隊に編入しさらにその中で警官突撃隊に抜擢される、これほどの経歴を持つ者はそう居ない」
そう言うと横井は引き出しから身分証を取り出す
「今後内務省を出入りする際はこの身分証を使用してもらう」
「失礼します」
幸吉は身分証を手に取る
身分証には所属は警保局ではなく衛生局と記載してあった
「それが今後内務省を出入りする際に使用する身分証だ、身バレを防ぐ為に所属は変えてある」
「分かりました」
「後、次から特別捜査課に出入りする時は制服の着用は厳禁だ、いいな」
「は、」
「一通り伝える事は伝えた下がれ」
幸吉は敬礼し退室した