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狐火鉢  作者: 柊 椿
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見鬼の子

見鬼


霊的な存在を感じとって見ることができたり、霊界の様子を見れたりする能力。


私の左目で見える世界にはこの世界とは別の世界も見える。

ただ正確には私の目では無い。


私が幼い頃に母から渡されたこの眼球により私の左目は光を手に入れた。

それと同時に闇も手に入れたのだ。


私は生まれた時から左目の眼球が無かった。

本来在るべき眼球は無く、瞼を開くと肉の壁に囲まれた空間だけがあった。

幼い頃はよく瞼の中に指を入れ母に怒られていた。


保育園へは眼帯を付けて行っていたが、この時が目が無いのが異常であると気付いた初めての体験だったのだろう。

子供というのは残酷だ。気になる事は聞き、覗き、触る。他人と違えばそれは格好の標的なのだろう。

私は当然のようにイジメの対象になった。


泣いている私に母はいつも謝っていた。

ごめんね。ごめんね・・・と。


左目が無い事よりも憐れむような目で私を見る母の姿が嫌だった。


私がこの目を手に入れたのは7歳の時だった。


母に連れられある寂れた神社に連れていかれた。

母は何か液体に浸かった小瓶から眼球を取り出した。

これで見えるようになるからね。

怯える私を抱きしめながら母は私の瞼の中へそれを入れた。

吸い込まれるように入ってくるそれに対し7歳の私は母の胸の中で泣く以外の事が出来なかった。

しばらく泣いているといつもと違う違和感に気付いた。

当然左瞼の中に得体の知れない眼球を入れられたので違和感があって当然だが、視界が違うのだ。

視界が広い。いつもは右目だけの視界であった為、視界の中に左肘などは映らない。

私は驚きで泣きやみ、母を見つめた。

母も私を見つめている。

「どう?見える?」


私は無言で頷いた。


7歳の私でもこの状況が異常であるのは理解していた。だが母の笑顔が見れただけでその異様な状況にフタをしたのだ。


私と母はそれから色んな所へ行った。

私の学校や母の仕事も休んで日本全国色々な所へ行った。

母と一緒に居られるのが嬉しかった。

母が笑顔なのが嬉しかった。


だがそれは突然現れた。

私と母を引き裂く存在。


「須藤 美香さんだね?署までご同行願います。」


刑事が私達の前に現れた。


母は私にごめんねと言い私を抱きしめた。


母は父を殺していた。

この旅行は逃亡だったのだ。

母は父を殺し、目をくり抜いたのだ。

その目はきっと私の左の瞼の中にある眼球なのだろう。

私は孤独になった。父は母に殺され、母は刑務所に入った。

父方の親戚も母方の親戚も私を引き取る事を拒否した。殺人鬼の娘、それだけならまだ引き取ってくれる人も居たかもしれない。

問題はこの目だ。今まで無かった目が父を殺され眼球を奪われた後に娘に目が付いたのだ。科学的に不可能であっても状況がその異様さをものがたっている。

私は大きな病院に入院させられた。

この目を調べるためだ。

結果はすぐにでた。精巧に造られた義眼。

ガラス玉であると。

だが私のこの左目は見えている。

皆が見えている景色も、そして見えていない物も。

初めてそれに気付いたのはこの病院だった。

病室の中を滑るように歩く黒い靄のようなもの。壁をすり抜け先生を追いかけている。

それが皆には見えていないのだと気付き、それがこの世のものでは無いのだと認識した。

左目を手で隠すとそれは見えなくなるのだからこの左目で見えているのだろう。



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