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狐火鉢  作者: 柊 椿
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異次元(1)

「異次元、パラレルワールド、異世界、色々と呼び方はありますが、私達のいるこの世界もその中の1つなんです。」

そう語り始めた女は俺の師匠であり、この神社の神主だ。


この業界ではある程度の知名度を誇っているようで月に何度かこのように相談者がここへやってくる。


霊媒師 沙玖耶さくや


彼女はまだ若いが実力は折り紙付きだ。

過去に幾度も怪異事件を解決に導き、噂が噂を呼び怪異事件に巻き込まれた人が訪ねてくる。


今日の相談者は消えた息子を探してくれという人探しの依頼だ。

俺も一緒に話を聞いていたが、どうやら警察と探偵に捜索を依頼したが見つからず、ここへやってきたようだ。


沙玖耶さんは話を続ける。

「息子さんは違う世界へ迷い込んだ可能性がありますね。もちろん現場を見ない事には分かりませんが。」


「違う世界?先程仰った異次元やパラレルワールドの事ですか?」

老夫婦でやって来た旦那が問い返す。


「そうです。ですが先程も言った通りあくまで可能性です。もしかしたらただの家でかもしれませんし、失礼ながら何処かで自殺をされているかもしれません。」

女は普通の人なら言い難い事を淡々と話す。


「自殺!?

いえ、私達もその可能性も考えなくは無いのですが、自殺する動機が見当たらないのです。」


「息子さんは23歳ですよね?親に全てをさらけ出すような歳では無いと思いますし、ましてや一人暮らしをされていたようですので恋愛のもつれや、仕事関係の悩みの1つや2つあったとしてもおかしくないと思いますが。

・・・という意見は警察や探偵さんから説明されていると思いますが、それでも納得出来ないからこちらまで来られているのでしょう。」


「そうです。私達の息子は自殺をするような弱い人間では無いです。」


「自殺を選ぶのを弱いとは思いませんが、まぁいいでしょう。

机上の空論をしても仕方が無いので後日に調べさせて頂きます。息子さんのマンションはまだそのままの状態ですか?」


「はい。息子が消えてから3ヶ月経ちますが元々家賃は私達が払っていますのでいつでも入れる状態です。」


「親御さんが家賃を払っているとは随分と過保護なのですね。」


「恥ずかしながら歳をとってから産まれた一人息子なもので金の不自由だけはさせたくないと思っております。

幸い私の会社も業績も良くいずれ息子に継がせる予定なのです。ですからどうか息子の行方を見つけて頂きたいのです。」



「では1週間ほどお待ち頂けますか?私共も準備がありますので。」


「わかりました。どうかよろしくお願いします。」


老夫婦はそういうと連絡先の書いた紙と分厚い封筒を出してきた。


「これは依頼料です。もちろん見つけて頂けたら更に出させて頂きますのでどうかよろしくお願いします。」


息子を見つけ出す為とはいえ、この老夫婦の金銭感覚は世間とはづれているようだ。

沙玖耶さんは決まった料金は設定していない。払える額を払ってくれたらいいという考えだ。


「わかりました。では一旦預からせて頂きます。」


沙玖耶さんは金の入った封筒を中身も確認せず俺に渡した。


「それでは失礼します。」


そう言うと老夫婦は帰って行った。


「凄いですね。」

俺は久しぶりに声を出した。


「あぁ。金銭感覚というのは人それぞれ違うものだよ。まぁくれるというなら貰っておこう。この寺の雨漏れも直してもらわなければいけないからね。」


そう言いながら沙玖耶さんは天井に目を向ける。


このボロ寺もかなりガタがきている。雨漏れは勿論だが隙間風がこの季節には非常に厳しい。


俺と沙玖耶さんはこの神社の管理と怪異事件を生業としているが、怪異事件は決して数が多い訳では無い、相談に来る人のほとんどが思い過ごしか、生きている人間の事件なのだ。だからほとんど金にならない。今日の人の様に前金でこれだけ多くの金を用意してくれる人など稀だ。


「これでしばらく食べていけますね。」

俺はニヤニヤしながら沙玖耶さんに話しかける。

当然だ。こんな大金見たことがない、俺の人生では初と言ってもいいだろう。

金の管理を任されている俺からしてみれば、本当にこの依頼を受けてくれて感謝している。

もうすぐ年末年始で多少の参拝客がお賽銭を入れてくれるが、地元でも忘れられかけているこの神社ではとても食っていけるだけのお賽銭は期待できないのだ。


「そうだね。私も半分は人間だから食べないと餓死しちゃうからね。人間の体は本当に不便。

私はしばらく寝るから晩御飯になったら起こしてね。」

そういうと沙玖耶さんは立ち上がり寝床へと歩いて行った。

歩くその後ろ姿は妖艶で美しい。半妖で無ければ心奪われていたかもしれない。

そう彼女は妖怪と人間から産まれた禁忌の子なのだ。



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