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狐火鉢  作者: 柊 椿
2/8

神々の集いし場所

カランカラン


喫茶店のドアを開いたのは30代らしき青年だった。


「いらっしゃいませ。」


俺は愛想良く声を出す。


客は無言でカウンターの席に座りメニューに目を向けた。


「タ、タピオカミルクティーは無いのか?」


「そんな洒落た物は無いわよ。

久しぶりね。藤原さん。」


店主の楓さんが返答する。どうやら知り合いのようだ。


「そうなのか。」


男は非常に残念といった顔をしている。


「久しぶりだね。やっと仕事が一段落したからね。久しぶりにこの姿になったよ。

そっちの子は見ない顔だけどここで働いているのかい?」


「えぇ。純君と言います。」


楓さんが自分を紹介してくれたので軽く会釈を返す。


そして楓さんはお客さんを俺に紹介してくれた。


「こちらは藤原道真さん。元々人間で今は神様よ。」


ここの店主が狐の化物である事は理解していたが、まさかお客さんに神様まで現れるとは・・・。

店主の話は冗談などではなく本当の話なのだろう。最近この手の話は受け入れる事にしている。


この店に来る人は化物、死が近い人、死んで彷徨っている人、そして神様だ。

決して普通の人間は来ない。というよりも来れないと言う方が正しいのだろう。


ただこの店に来る人は一様に人の姿形をしている。


「半年ぶりの下界だからな。今年は2ヶ月の長期休暇が取れたんだよ。

子供が年々少なくなってきておるから、学問の神である私も休みが取りやすくなったわ。しかも最近は勉学よりも個性を伸ばす傾向になっておるからのぉ。」


「学問の神様が身も蓋もない事言わないでくださいよ。」


と2人は仲良さそうに笑っている。


俺は当然キョトン顔だ。


「ところで楓よ。また今年も頼みたいのだが。」


「はい。場所は決まっているのですか?」


「まだだ。家賃は5万くらいで探したい」


「では後でお供します。」


「何の話ですか?」

神様に興味がある俺は2人の話に割って入った。


「私の住む部屋の話だよ。」


俺はまたキョトン顔だ。


「神様は免許証どころか住民票もないから私が用意してあげてるのよ。」


「用意って何をですか?」


「私は狐よ。人を化かすのはお手の物よ。」


この店主の事だ、人間では出来ない技の1つや2つあっても驚かない。


「ところで純君とやら、見たところによると君は普通の人間のようだがなぜここに?」


そう俺は普通の人間である。死が近いわけでも、もちろん死んでもいない。


「いろいろありまして今は神主見習い中です。」


「楓の神社のか?そういえば前の神主は夜市に行ったまま帰ってこれなくなったんだったなぁ。

あそこは人間には、ちと刺激的すぎるからのぉ。」


初耳だった。前の神主?夜市?楓さんと出会って日も浅いが知らない事はまだまだあるようだ。


「まぁまぁ、そんな話はいいじゃないですか。」


楓さんが話を遮る。あまりの不自然さに聞かれたく無い話である事は察しがついた。


また折を見て聞いてみよう。


それよりも1つ気になる事があったので聞いてみた。


「神様や化物は人の姿形でこの人間の世界に混ざっているんですか?」


「あぁ。決して多くは無いがね。

例えば同じ電車に乗っている他人の事なんて何も知らないだろう。

最近じゃマンションの隣の部屋の隣人でさえ顔を見た事ないなんて珍しくない。

その中に混ざっているさ。決して多くは無いがね。」


なるほど。確かに同じ電車に乗っている他人が何をしている人かなど気にした事も無かった。もしかしたらその中に藤原さんのような神様や楓さんのような化物がいても人と区別などつかない。


「さて日が暮れるまでに行こうか。楓。」


「はい。タピオカミルクティーも買いに行きましょうね。」


「お!さすがわかっとるねぇ。」


「それじゃあ留守番よろしくね。純君。」


仲良く出ていく2人に少し嫉妬した。



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