幼馴染の恋
『こっち向いて!』の番外編です。他の作品の編集が終わってから……と散々予告したのに……久々にPC開いたら突発的に書きたくなっちゃいました……( *´艸`)
設定がややこしいので、興味のある方はぜひ本編をお読みくださいませ!
「そのマグカップ……使ってくれてるんだ……」
隣で陽菜が懐かしそうに微笑んでいる。
「マグカップだけじゃないよ。ほら、これ」
机の引き出しから俺は大切に手編みのマフラーを陽菜の前に差し出した。
「やだ!! まだ持ってたのそれ……!」
頬を真っ赤に染めて彼女は言う。
彼女は佐伯陽菜、俺の幼馴染で、大切な恋人だ。
俺は一ノ瀬悠真、陽菜とは赤ちゃんの時から訳あって同じ屋根の下で暮らしている。
ずっと、俺たちは兄妹のように仲良く中学三年生まで暮らしてきた。
彼女はいつも俺の傍で微笑んで、寄り添っていてくれた。
一緒にいることが当たり前すぎて、当時の俺には『恋人』なんて大人の世界、今思えば想像すらできなかったのに……
高校一年生の今、陽菜は最高に可愛い、俺の彼女になっている。
本当は、あの中三のクリスマスの日から、俺の恋は始まっていたのかもしれない……
「陽菜、今年は俺、同じクラスの山下とライブに行くから、パーティーは参加できそうにないんだ」
憧れの星宮朱莉先輩がまたゲストでライブに出るって話を聞いて、俺はどうしても観に行きたかった。
「……そっか……、残念……」
寂しそうな陽菜の顔を見ていると心が痛む。
毎年、俺の父である柊と、彼女の母である桜さん、そして、俺と陽菜の四人でイベント事はたいてい一緒に過ごすのが恒例だった。
そう、俺も陽菜も片親なんだ。
でも、本当の家族以上に仲良く俺たちは今まで暮らしてきた。
すごく幸せで、それ以上のものなど何も求めるものはないと思っていたんだ。
でも、朱莉先輩のライブでの歌声を聞いてからは、俺はどっぷりバンドミュージックにハマりだし、彼女のいる楠高校の軽音部に入るために、ここ数ヶ月、与えられている全ての時間を可能な限り費やし、必死で勉強している。
いつも一緒に過ごしてきた陽菜には、寂しい思いをさせているのは分かっているけど、せっかくのチャンスを無駄にしたくない、その時はそれ一心だったんだ。
「ごめんな……」
後ろ髪をひかれるような思いで、俺は夕方から朱莉先輩が出演予定のライブハウスに向かうため急いで家を出た。
急いでいる理由は他にもあった。
先着順で好きなバンドのメンバーのサインが入ったマグカップがもらえるのだ。
それを聞いて、俺は山下と予定よりも早く待ち合わせをしていた。
「あら、悠真くん今年はいないのね? みんないるかと思って安心してたんだけど……私も今日どうしても夜勤の欠員が出ちゃって、出勤になっちゃったのよ……。柊ちゃんも仕事で遅くなるって連絡あって……」
申し訳なさそうにお母さんが私を見た。
「大丈夫だよ。私もう来年は高校生だよ? クリスマスに誰もいないからって……そんなに心配しないでよ」
確かに一年の内のクリスマスというビックイベントに独りきりってのは流石に心が折れそうな心境になりそうだけど……
なんてったって、私は受験生!!
そんなことでヘコんでいる暇があったら、勉強勉強!!
とりあえず寂しい気持ちをねじ伏せながら、そう言い聞かせてみた。
ちっとも埋まらない問題集に嫌気がさし、時計を見ればもう夜の十時を回っている。
「はぁ……もう、寝よっかな……」
無意味に開いていた参考書を閉じて、誰もいない一階に下りる。
「寒いなぁ……」
流石に12月なだけあって、人の気配がないダイニングは冷え切っていた。
「ココアでも飲むか……」
マグカップに熱いお湯を注ぎ、ゆらゆらと立ち上る湯気越しにクリスマスツリーをぼーっと眺めていた。
今年は中学校最後のクリスマスだし、悠真に思い出に残るプレゼントを……と思って、夏ぐらいからやっとの思いでマフラーを編み上げた。
でも、頑張ったはずなのに……出来上がりはデコボコになってしまって、とてもプレゼントとは言い難い代物になってしまった。
マグカップの横に投げ出された行き場のないマフラーに『捨てないで!』と訴えかけられているようで、処分もできずに虚しさだけが宙を舞う。
その時だった。
私の家と悠真の家を繋ぐダイニングの扉からノックする音が聞こえる。
私は急いでマフラーをテーブルの下に隠し、ドアを開けた。
「陽菜、ただいま! なんだ、陽菜一人?」
帰ってきた悠真の顔を見たら、ホッとしたのか……なんだか急に涙腺が弱くなる。
「お母さんは夜勤で、柊さんも仕事で遅くなるんだって」
最近お互い受験勉強などで悠真と二人でいる時間がほとんどなくなった私は、今こうして一緒に過ごせている時間が本当に貴重で……幸せだった。
「そっか……、陽菜一人だったんだな……ごめんな?」
優しい笑顔で私を覗き込む悠真と少しでも長く居たかった。
「ねぇ、ココア入れるから飲んでいきなよ!」
悠真を引き留めたくて……半ば強引に私の家のダイニングに引き込む。
「じゃ、ちょっとだけお邪魔しようかな?」
こんな私の我儘にもいつも快く応えてくれる悠真。
「悠真のカップ取ってくる?」
扉を開けばすぐに悠真の家のダイニングに繋がるので、造作もないことだとは思ったが、悠真はカバンの中をゴソゴソしながら、手書きのサインの入ったマグカップをテーブルの上にコトンと置いた。
「今日は、クリスマスで特別だし……、これ使おうかな! 今日使って、後はずっと飾っとこう!」
嬉しそうにカップを眺める。
「それ……?」
不思議そうに見ている私に気づいたのか、悠真が満面の笑みで話し始めた。
「これ、朱莉先輩のサイン入っててさ! 今日行ったライブでもらったんだよ。最高のクリスマスプレゼントもらった気分!!」
こんなに嬉しそうな悠真の笑顔久しぶりに見た……
星宮先輩の名前を聞いて……予想以上に落ち込んでいる自分がいる。
悠真の喜びを、私も一緒に共有したい……
いつもそう思うが、星宮先輩の話だけはどうしても共感できなかった。
「よかったね」
最近本当に作り笑いが上手になったなぁ……
「まあな!」
ニコニコしている悠真を横目に、私はそのコップを丁寧に受け取り、静かにお湯を注いだ。
「……ん?」
カップにヒビが入っているのが見えた。
悠真に伝えようか迷ったが、あんなに喜んでいる彼を見たらとても言えなかった。
『漏れてなさそうだし……大丈夫かな……?』
私は恐る恐る熱いココアの入ったカップを両手で支えながら悠真の座っているテーブルへと運んでいく。
底を支えていた左手に突然ココアが流れ出した。
「熱いっ!!」
あまりの熱さに耐えきれず、マグカップごと、地面に落下していくのがスローモーションのように視線の先に映し出されていく。
ガシャン!!
衝撃音とともに、カップが割れた。
私の足にも熱いココアがかかり、激しい痛みに襲われたが、悠真の大切なカップを割ってしまった罪悪感の方が遥かに辛かった。
急いで二つに割れてしまったカップを拾い上げ、テーブルの下に転がっていた、マフラーでココアを必死にふき取った。
「悠真……ごめんなさい……!! 本当にごめんなさい……!!」
もう、泣きながら、自分でも何を叫んでいたか分からない。
でも、あんなに嬉しそうにしていた、悠真の顔も壊れてしまっているんじゃないかと、怖くてとても顔を上げられなかった。
「……陽菜!! 陽菜!!」
必死に呼ぶ悠真の声がようやく耳に届いてくる。
「陽菜、そんなのどうだっていいから、足!!」
泣きじゃくる私を抱えて悠真が風呂場に駆け込んだ。
「陽菜?! 大丈夫か??」
何度も何度も悠真が私の名前を呼んでいる。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……!!」
シャワーで冷水を掛けながら、悠真が私をぎゅっと抱きしめる。
「陽菜!! カップなんてどうでもいい!! 陽菜……」
一緒にビショビショになった悠真を見て涙が止まらなかった……
ようやく落ち着きを取り戻してきた私の頭を、悠真が大きな手で優しくなでてくれる。
「ほら、着替えて身体ちゃんと拭いとけよ」
タオルをそっと手渡してくれて悠真はバスルームを静かに出て行った。
激しく飛び散ったココアの現場を目の当たりにして、俺は陽菜の足が大やけどにならなくて心底安心した。
正直、カップが割れてしまったのは残念だったけど、陽菜を想ったら痛くも痒くもなかった。
ココアまみれになったカップと一緒に、マフラーらしき物が目に入る。
そっと拾い上げようとした時だった。
「それだめ!! 捨てるやつだから!! ちょうどよかったの、失敗だったし!!」
風呂場から出てきた陽菜が必死に俺からマフラーを取り上げようとした。
俺は陽菜の様子がおかしい事に気が付いて、取られまいと抵抗する。
ふとテーブルに目を遣ると、彼女から俺宛の封筒が目に入った。
急いでそれを手にして、封を開けると、サンタのカードが一枚入っていた。
『悠真へ 受験頑張ってね。
いつもありがとう。
一生懸命編んでみたんだけど……
こんなマフラーじゃ……嫌かな?』
そんな控えめな短文が綴られていた。
「陽菜……、なんで……?」
俺はココアまみれになったマフラーを、大切に首に巻いた。
「悠真、カップの破片もついてるし、危ないよ! 失敗しちゃったから捨てようと思ってたの!!」
そんな陽菜の言葉が物凄く可愛らしくて……
俺はどんなプレゼントより、陽菜が見えないところで俺のために作ってくれた気持ちがとてつもなく嬉しくて……
気が付いたら陽菜を思いっきり抱きしめていた。
その時は妹として……って自分では解釈していたのかもしれない。
でも、俺の心の中には確実に陽菜でいっぱいだった。
陽菜は、俺の腕の中で泣いていた。
小さく小さく、肩を震わせながら……
あのクリスマス以来、また二人の共有できる時間は受験を前に激減していった。
合格発表の日、朝から家を出た俺は合格の結果に浮かれて、自分の事ばかり考えて、山下と遊び歩き、帰り着いたのは、陽も落ちて真っ暗になった頃だった。
俺が家を出るときに見送ってくれた陽菜は、ずっと家で、俺の帰りを待っていてくれた。
「おめでとう!」
俺の顔を見るなりそう言って、嫌な顔一つせず、俺にキーボードの絵柄のマグカップをプレゼントしてくれたんだ。
きっと、あのクリスマスの事をずっと気にしてくれていたんだろうな……そう思ったら、情けなくも泣けてきた。
あれからいろんなことがあったけど……
俺たちはきっと運命の赤い糸で生まれる前から繋がっていたんだ。
今隣で頬を赤らめ、優しく微笑み返してくれる陽菜がたまらなく大好きだ。
いつまでも、彼女が俺を想ってくれる何倍もの愛で包み込めるよう……
ただそれだけのために、俺は生きていきたい……
練りもしないで書き始めちゃったので……内容薄めでごめんなさい(ノД`)・゜・。
しかも短編初なもんで読みづらかったらすみません……(謝ってばっかり)
また、ぽつっと書くと思うのでその時は遊びに来てください!!
7/29 23:57現在……かなり付け足しました(;・∀・)




