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箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル2【極小世界の観察、及び人的交流の開始】
8/58

4月22日(日) 曇り 午前

 結論から言うと、何もできませんでした。


 早起きは結構得意なので、いつも目覚まし時計なしに朝6時半には起きられる。休日の今日はそのさらに1時間早く、5時半くらいに起きることができた。

 ようやく太陽が昇ってきたところで、窓の外がわずかに明るくなりはじめている。そんな時間に目覚め、布団を跳ね飛ばして覚醒し、メガネをかけてすぐにガラスケースに飛びついた。


 そして二重蓋を開けて……何もせずにぼーっとケースの中を覗いてました。


 いや、ほんとはさ。ガラスケースの中の様子を見て、ミニ人間たちにちょっかい出してやろうかなぁって考えてたんだよ。最初はね?

 その際、さすがに早朝じゃあリュウも気づかないかなぁとか、もしリュウが自分と同じように早起きしてたら早速お話できるかなぁとか、起きてなかったら家の扉を叩いて起こしてみようかなぁとか、ノックの衝撃で家を壊さないように注意しないとなぁとか色々期待してたんだけどね。なんかこう……ダメだった。


 最初は中の様子の観察から入ったんだけど、その段階で違和感があったんだよね。何かこう、おかしいっていうか。こう、上手く表現できないけど、おかしいっていうか……。

 その時は違和感に全く理解が追い付かなかったけど、後になったら判明したことは、おそらくビデオの早送りと同じようになってたんじゃないかな、という結論でした。それも16倍速のめちゃくちゃ早いモードで。


 なんか村の中にチラチラと影が走ってるように見えたんだよね。たぶんミニ人間たちの影なんだけど、観察していた当初はあまりに早すぎて何の影だか判別がつかなかった。

 これは後程わかったことで、朝早くに観察していたときの僕はそんなことなど露知らず、昨日できた道が整備されてるから違和感があるのかな? 程度にしか感じていなかったんだよね。我ながら鈍いと思う。

 でもさ、まさか時間が加速されてるなんて思うわけじゃん、常識的に考えて。


 まあとにかく、違和感が何か突き止めようと二重蓋を開けて中に手を突っ込もうとしたのだけど、いつものようにケースの中に手を突っ込むことができなかった。最初はびっくりしたよ、そりゃもう。


 蓋を開け忘れたのか、と思ったけどそんなことはなく、二重蓋はきっちり開いていた。

 ではなんだ、と思い指で触ってみると、なんというかちょっと柔らかめプラスチックの板を張り付けたような、そんな強い抵抗感が指を押し返してきたのだ。今までのジェル状の粘液に手を突っ込んだような弱めの抵抗ではなく、固まった地面に手を押し付けるかのような強い反発があった。

 しかし全く手が入らないわけではないみたいで、力いっぱい押し込むと少しづつだけど指がケースの中に入っていく。

 頑張ればいつもみたいに腕が突っ込めるかなと思って10分くらいかけて手首まで突っ込んでみた。だんだん楽しくなってきたのだけど、ある瞬間、ふと我に返って手を押し込むのをやめた。背筋にブルリと寒気が走る。


 ……いや、これ手抜けなくなったらどうしよう。


 焦っていたからか力が入りすぎていたからか、手を抜くのは5分ほどで済んだ。でもその5分間はものすごく時間が長く感じた。

 海で遊んでいるときにイタズラで砂に埋められたら、本気で動けなくなって慌てたときの気持ちに似ている。抵抗感の強いガラスケースに手が入って動かなくなり、手が抜けなくなったらどうしようかと本気で焦った。手が抜けたときものすごく安心して、自分の手を何度もさすってしまった。


 他にもシャーペンを突っ込んでみようとしたら折れたり、パン屑をばら撒いてみたら取れなくなって困ったり、水を数滴垂らしてすぐに拭いたら普通に拭えたりといろいろ確認したものの、最終的にガラスケースの中に干渉できないということが確認とれた。

 うん、せっかく休日に早起きしたのに何もできないっていうね。悲しい。


 仕方ないので観察業にあけくれた。朝食はコンビニのサンドイッチ、昼食はカップラーメンで手早く済ませながら、ガラスケースの中を外側から観察していた。


 手を突っ込んでリュウとコミュニケーションをとることはできなかったけれど、ケースの中の変化は実に多様で中々面白かった。


 まず、僕が昨日作った道がすごい勢いで整備されていた。面倒くさくて倒しっぱなしにしていた木が全て加工されていき、木の枝が取り除かれた丸太が大通りの左右の壁に使われていた。

 最初はでこぼこの酷い荒れた道だったけれど、まるで絵の具で色を塗るかのように平らに均されて歩きやすい道へと変わっていった。

 何よりその道の間を高速で移動する何かが何度も確認できた。早すぎて何なのかわからなかったけれど、スマートフォンで動画を撮り、スローモーションで再生すると、馬車のような乗り物が何度も移動しているのが見えた。昨日商人がどうたらって話を聞いていたし、おそらく交易に使われているのだろう。


 ……っていうかこれ馬車でいいんだよな? 大雑把な恰好はたしかに馬車なんだけど、馬に角って生えてないよね、普通。あと胴体がなんかデカい。


 中央の家の方の変化もすごかった。正確な時間は記録していないけれど、おそらく9時から11時までのわずか2時間の間に家が29個も増えた。びっくりした。

 何か土台のようなものが置かれたなぁと思って見ていると、10秒もしないうちにそこに家が建つのだ。擬音で表現すると「にょき」という感じで。その様子はまるでモグラたたきのゲームを彷彿とさせる。

 とにかく森がだいぶ開発され、それはもう村と言っていい規模になっていた。建築のスピードが速すぎる。


 あと、最初にあった家も改築されていた。しかもすごいグレードアップしていた。

 リュウがメインで使っていた湖の真ん前にある家がパワーアップし、最初にあった他の3つの家を吸収して一つの大きな家になっていた。できる工程をずっと見ていた。録画を忘れたのが実に惜しい。

 恐らく石造りだろうか、白のような灰色のような建物がそこにできていた。比較対象が他の家としかできないが、他の家が住宅街の普通の一軒家だと仮定した場合、リュウの家は市営の図書館くらいあるのではないだろうか。


 そこまでの変化がおおむね午前中までで、午後はあまり大きな変化がなかった。

 家の数が30から41にまで増えたこと、湖と村の外周に囲いのようなものができたこと、地面に大量の黒いモヤが一瞬現れてビックリしたこと、外にある囲いがなんなのかよーく見てみたら畑らしいことがわかったくらいだろうか。

 定期的に手が入らないか二重蓋をあけてみたけれど、全く手が突っ込めない。どうにもこうにも、少しイライラする。


 あと、ここら辺で僕は時間について理解してきた。おそらくだけれど、このガラスケースの中と外の時間の流れる速さが違う。

 どの程度差があるのかまではわからないけれど、たぶんものすごく差があるんだと思う。動画を撮影してスローモーションで再生すると、町の中を歩く人たちや湖の近くでずっと座っている人影や大通りを移動する馬車がよく見える。

 と言っても早すぎて、かなり霞んでしまっているが。顔の判別はおろか性別の判別もできない。

 そして時間の流れが違うからこそ異常な速度で村の建築が進んでおり、ガラスケースの中に手を突っ込めない理由もわかってきた。


 たぶん時間の流れに差がありすぎて、僕の力だとガラスケースの中の世界のスピードに対応できないんだと思う。

 上手く説明できないけれど、大気圏に突入するとき落下スピードが速すぎて空気の層が壁のように固くなって、隕石を摩擦熱で燃やすような。うん、あまり上手な例えじゃなかったかな?

 時間が遅いせいで空気が壁のように固くなってしまい、僕の力では中に入ることができないのだろう。


 とにかく理由はわかったけれど、同時に疑問と不安が沸きあがった。

 なぜ昨日までは手が入れられたのに、今日は手が入らないほど時間の流れに差ができたのか。もしかして、もう二度とガラスケースの中の人間たちとコミュニケーションをとることができないのだろうか。

 せっかくリュウと話ができるようになって、また会話したいなぁと期待していたのに……不安が募っていく。


 とはいえ、不安がっていても仕方がない。それに外側から観察するだけでも結構見るべきところが多い。

 もし二度と手を入れることができなくなったとしても、そのときは諦めて観察するだけの日々に明け暮れようと思う。この小さな世界はそれほど魅力的だ。


 僕は気を取り直して、とりあえず夕方までの記録をつける。

 もう夕暮れ時も過ぎたし、これ書き終わったら気晴らしに外へ出て牛丼でも食べてこようかな。せっかくの休日なんだし、丸一日部屋に籠りっきりっていうのも味気ないしね。

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