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箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル1【アリの観察日記、改め極小世界観察日記】
3/58

4月17日(火) 小雨

 いろいろ書くことが増えた。もうどうしたものか。


 結局、なんだかんだ言って学校に行っている間ずっと気になっていた。正直異常な状況が怖いけれど、平静を取り戻せば戻すほど好奇心が疼いてくる。

 帰宅したら迷わず巨大虫籠に飛びつき、それを覆っていた段ボール箱やシーツを引っぺがして中を見た。


 幸か不幸か、昨日と全く同じ光景が広がっていた。このときの自分はどんな表情を浮かべていただろうか。恐らく凄い変な顔をしていたと思う。


 この巨大虫籠に起こった謎の現象を見ると、胸が嫌な感じにドキドキする。

 マンガ的なミラクルが始まる予感がするというか、この現象を知っているのは自分だけだろうという勝手な確信がそうさせるのだろう。

 もうテンションがおかしくて何を書いているかわからない。支離滅裂な言動はこの際置いておこう。書いている本人としては至って真面目に書いているつもりなのだから。


 閑話休題。


 昨日と同じように外側から一度中をくまなく観察し、そのあとビニール手袋をつけて手を突っ込んだ。学校にいる間中ずっと、ずっと、ずううううっっと中を確認したくてたまらなかったからだ。

 相変わらず不思議な抵抗感があったし、冷たかった。冷たいゲル状のプールに手を突っ込んだ感じだろうか。もしくは水洗いしているパーライトに手を突っ込んだ感じに近いかな? ハンバーグの種をこねているときの感覚と言った方が一番わかりやすいかもしれない。

 特に何か触れているようには見えないのに、確実に何らかの抵抗を感じる。謎である。


 やることは決まっていた。学校へ行っている間ずっと何をやるべきか考えていた。

 見てわからないものは触って確かめるべし。巨大虫籠の中で怒った謎の変化を直に手で触って確認するつもりだった。


 おっかなびっくり手をケースの中に突っ込んでいく。抵抗はあるがそこまで重い抵抗ではない。ちょっと力を込めればズブズブと手が入っていく。

 地面にまで腕を伸ばす。さすがに深い、肘と肩の間くらいまで腕をケースに刺し込んでようやっと底に手が届いた。

 結構前屈みになるため、中腰の姿勢が辛い。


 確認1。水の出どころ。長方形のケースの長い辺にほぼ水平に一直線の水路が流れていた。太さは人差し指の先っぽくらい。深さは爪が半分隠れるくらい。

 少し強めに人差し指を押すと、濡れた地面に指を立てたのとまったく同じようにずぶりと沈んだ。ただ、少しだけ違和感を覚える。


 入れたパーライトは水分を多く含むものだったけれど、ここまで硬くはなかったはずだった。しかも、水を含んだパーライトは指で簡単に崩れるほど脆いものである。

 なのにこちらもまた妙な抵抗感があった。硬い、というわけではないのだけれど、妙に掘り返しづらい。ぐにぐにと指を動かしてみる。パーライトなら簡単に大穴が開いただろうけど、今の土ではあまり大きな穴はできなかった。


 色々触っているうちに巨大虫籠の中央、細い水路のど真ん中に5㎝くらいの小さな凹みができた。少しずつ水が溜まっていく。やはり水道にはつながっていないはずなのに、どこからともなく水が流れてきているようだ。

 周囲の緑と相まって、まるでジオラマの中央に池を作ったようにも見えなくもない。まあいいや、と次の確認作業へと移ろうとした。川の上流を確認しようとする。


 が、ここで小さな問題が発生。手が届かない。

 この謎の水流の源泉がどこから流れてくるのかを知りたかったけれど、ガラスケースの内側の壁までが遠すぎて、全く手が届かなかった。

 そりゃそうだ。本来このケースはアリの生態観察用で、中に人が入って手を伸ばしたりする仕様になっていない。頭を突っ込めば手が届きそうだったけれど、腕一本だけならともかく頭までケースの中に入れるのはさすがに躊躇われた。だって怖いし。

 一応別に道具はあるのでこの謎の水路の究明は後回しにする。


 確認2。この緑色はなんなのか。実はすでに目視確認はできているのだけれど、まだ半信半疑なので現物を回収することにした。

 先程池を作った際、倒れてしまった何本かの緑の一つを指で摘まんで持ち上げる。腕をケースから引っ張り出す。引き抜くにもやはり抵抗感があって、ずぶずぶと腕を引き抜いた。ちなみにケースから引っ張り出した腕には何の問題もなく、傷一つついていない。

 巨大虫籠の蓋を一応閉めてから目の前に持ってきてよく見た。もう言い訳ができない。完全に情報が確定してしまった。


 これは()だ。どう見ても、まぎれもなく、木である。


 ただし大きさが尋常ではなく小さい。親指の大きさにも満たない。

 虫眼鏡で見ると、無理やり引っこ抜かれた大木に見える、そんな小さな木だった。それこそ本当にジオラマで使われているミニチュアの木にしか見えなかった。

 ケースの横から眺めたときに木の存在は認識していたのだけれど、これでもう言い訳ができなくなった。

 作り物かと思ったらそんなこともなかった。手袋を外して直に触ったのでわかる。これは本物の樹だ。ただ、異様に小さいだけの。


 そしてついに決定的な証拠を見つけてしまった。摘まみ上げたミニチュア樹の葉っぱの中から物凄く小さい何かが飛び出してきた。そのまま落下して、ズボンに付着した。

 急いでアリ観察用のルーペを取り出して、その赤い染みを見た。

 ペンライトみたいな形をした拡大鏡で約100倍に拡大されたその赤い染みは、正直かなりグロい絵面だったが、明らかに何かの動物が落下した形跡であった。謎の毛皮と狼の尻尾みたいなフサフサした毛玉が確認できた。

 どう控えめに言っても、これはアリや他の昆虫によってできる痕跡ではない。


 アリと同じサイズの小型の動物までいる。


 昨日は混乱していたのでこの結論には辿りつけなかったが、冷静に丸一日も考えれば否応にもわかる。ドキドキしてたのもこれが原因だった。間違いない。


 アリの巣ケースの中身が謎の小型世界になってしまったようだ。




〈追記〉

 この後テンションが変な感じになってしまい、ろくな確認作業ができませんでした。

 木を何本か採取してそれを顕微鏡で見ながら気持ち悪い笑みを浮かべたり、ズボンに染みついた血が気持ち悪くて洗濯すべきか決定的な証拠として残すべきか30分悩み続けたり、こんなすごいことが起きたのは自分だけなんじゃないかと思うと居ても立ってもいられず部屋の中を無意味にグルグル回ったり、これを世間に発表すべきか、それとも内密に自分の研究をすべきか、なんていろいろ考えてヤキモキしていたら時刻が深夜を回っていた。


 一応明日があるのでこの日の観察日記はここまでになっています。他にわかったことは28日分に追記。

 寝ようとしたけど妙に目が冴えてなかなか眠れませんでした。もういっそ学校休んでずっと観察を続けていたかったのは内緒。

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