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箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル2【極小世界の観察、及び人的交流の開始】
22/58

5月4日(金) 雨

 ……せっかくの連休だというのに、最悪な気分だった。

 しかも雨。部屋の中にいると見たくないモノを見てしまうので外出したかったが、気分が陰鬱だし雨も降ってるしでそれもできなかった。


 仕方ないので昨日起きたことを思い出しながら書き留めておく。

 最初は嫌々だったけど、たぶんこれは、バカな僕が責任を持ってやらなきゃいけない事だと思う。


 昨日の午前中は特に何も考えていなかった。


 サクラ街の様子は、相変わらず加速状態で何が起こってるのか全くわからなかった。今思えば人の流れがおかしかった気がする。

 普段は全体的に人影が多くまばらに動いている。しかし昨日は妙に黒い人影がたくさんやってきたかと思ったら、今度は人がごっそり減ったりした。

 それに街が全体的に静かだったような気がする。気のせいだったかもしれないが。


 ただ動きが早すぎてもはや何かを観察しようという気が起きてなかった。

 たまにガラスケースをチラチラ見るだけで、基本的にたまっていた家事の消化と、買い出しでマシュマロと塩を多めに買っておき、それ以外はスレイプニルの面倒を見ていた。

 スレイプニルは完全に落ち着いたらしい。歯ブラシを近づけると喜んで体を預けてくる。歯垢を落とすより優しくスレイプニルの胴体を撫でてやった。楽しかった。


 ただ、夕方あたりから大きな動きがあった。

 早めに夕飯を済ませてしまおうとコンビニで晩御飯を用意しておき、それを温めている最中だった。

 正確な時刻も覚えている。夕日が眩しいコンビニからの帰り道、家のカギをポケットから出す直前にスマホで見た時刻が17:12。それから3分後くらい。


 ガラスケースの中で大爆発が起きた、気がした。

 正確に何が起こったかまではわからない。ただ、サクラ街の端っこの方が完全に崩壊していた。この時の僕は凄く驚いた。


 その後、しばらく変化があった。竜巻が舞い上がったり、中央の池の水が溢れたり、地面が急に盛り上がって壁ができたり、異様な光景だった。

 粘土を動かして動画を作るクレイアニメを早送りで見ているようだった。とにかく天変地異のような光景がしばらく繰り広げられ、唐突に終わった。


 サクラ街の一部分が完全に崩壊していた。時間が加速されている状態でもわかるくらい、見事な廃墟だった。

 いや、地形も少し変わっているから、廃墟というより被災地と言った方がいいかもしれない。


 あまりにあまりな光景なので、僕は早くガラスケースの中から情報を得たかった。何か軍隊でも来たのか、それとも魔物とやらの群れに襲われたのかと心配で心配でたまらなかった。

 手を突っ込もうとしたけれど、この前と同じで手を突っ込めなかった。少し手が埋まって抜けなくなる。

 無理に抜いても良かったけど、1秒でも早くリュウに話を聞きたかったのでそのまま放置する。片手でご飯を食べながら待っていた。


 外が暗くなってきて、部屋の電灯を点けたいなぁと考えてきたところで、急に手にかかる圧力が減った。

 コンクリートが逆に柔らかくなっていくのと同じ感じで、手がだんだんと動くようになっていく。いつも通り、多少ぬるぬるするけれど動く、というくらいまで圧力が弱まったところで、手を下に伸ばした。リュウを出迎える。


 リュウが僕の手に触れるか触れないか、というところで、また竜巻が一陣舞い上がった。

 近づいていた黒い服が離れる。なんだろう、と僕は不安に思いながらも、リュウが手の平に乗ったのを確認してそのまま持ち上げた。


 リュウの様子がいつもと全く違う。いつもとはちょっと違う服装。左手で手を繋いでいるのは、もう二本足で立てるようになった赤ん坊。いつもとは違う硬い表情。

 そして一番の違和感は、やたら武骨な杖のようなものを持っていた。杖というより鈍器というか、派手な釘バットといった感じ?


「人神様、申し訳ありません……。サクラ街を守れませんでした」


 いや、謝罪とかいいから。何があったの?


 僕は慌てて質問をする。もう色々違和感が多すぎてこちらも困惑と焦燥が半端ない。

 よく見ると、いつものローブのような服装に鎧のような部品がくっついていた。明らかに何かと戦った様子。先程のド派手な光景といい、心配になる。


 リュウは淡々とした口調で僕に状況を教えてくれた。


「キッカケは、キルケルム子爵様がいらっしゃったことでした。私の子を正堂教会に入れるべきだとおっしゃられて……」


 なんとなく重苦しい雰囲気だったのでこの時は聞けなかったが、キルケルムという名称は日記を読み返すことでようやく思い出した。22日の日記だ。

 リュウを拉致していこうとしたロリコン変態貴族だ。大空に巨大な手が出てきて腰を抜かして逃げていった奴だった。道理で微かに聞き覚えのある単語だと思ったんだ。


 リュウの話は続く。


「教会からも申請があったそうです。正式に神の巫女として修業すべきだ、と。ですが……私は拒否したのです」


 なんで拒否したの? 僕が純粋に疑問に思ったので聞いてみると、リュウは「それは……」と言葉を濁した。

 リュウの意思疎通の魔法は完璧だ。伝えたいと思ったことは記憶の映像すら伝えられるし、逆に伝えたくないと思ったことは一切わからない。だからこそ、リュウが言い淀んだことの内容は何となく想像できた。


 権力は腐敗する、というやつだろう。


「……とにかく、私が正式に拒否した結果、正堂教会側からも圧力をかけてきて……。エルバードさんが最近はキルケルム子爵様とも仲が良いと言ってたのに、なんであんな目に……」


 リュウがすごく悔しそうな顔をした。赤ん坊が母親の不満につられて不安そうな顔になっている。

 ただ、これはリュウの思考が読めなくても答えが読めた。権力者にとって「仲が良い」というのは、友達としての仲良しではない。「相手を利用できるか否か」と言ったところなんだろう。

 そして「発言力が強くなりすぎて利用しづらいリュウ」と「教育次第で傀儡化できるだろう正当な継承者」だと、権力者にとってどちらがほしいか。答えはすぐわかる。


 僕は午前中のことを思い出しながら返事をした。あのやたら多い人の移動は、リュウの拒否による圧力の結果ってことなのかな?


「……はい。正当に教会としてサクラ街を治めるべきだと主張してきまして、たくさんの僧侶様や、一部僧兵も来ていました。それで街がどんどん物々しくなっていって……」


 で、あの爆発ってわけか。


 僕が先程見たばかりの爆発を思い浮かべながら答えた。教会側がテロでも起こしたのか、それとも逆に攻撃されてリュウか誰かが反撃したのかと思ったのだ。

 しかし今度は違ったようで、リュウは一瞬キョトンとした後に、違うと否定した。


「いえ、たぶんそれはさらにもう少し後の話です。その……時期的にそろそろ人神様の御手が御光臨される日が近づいてきたところで、正堂教会が強引な手を取ってきたんです。……この子を誘拐しようとしたんです」


 この時僕は、自分でもわかるくらいに眉根を顰めた。誘拐って何やってんだよ神の信徒さん、それじゃ完全に悪徳宗教だよ、と脳内で罵倒する。

 そしてリュウは、むずがり始めた赤ん坊を撫でながら、軽く首を振った。


「ただ、誘拐は失敗したんです。失敗というか……この子の遊び友達を勘違いして攫ってしまったみたいなんです。この子が無事とはいえ誘拐された子が可哀想なので、返してもらうようエルバードさんが交渉しているそうなんですけど……運悪く小競り合いが起きてしまって……」


 教会側も情報が錯綜していたのだろう。急に人を集めた弊害だ。

 勝手に誘拐なんて強引な手段をとる強硬派に彼らのやり方が正しいと擁護する過激派。さすがに犯罪はマズイという穏健派に証拠を隠滅してしまえば問題ないという汚職派。

 そして一番情報に正確で、誘拐された子が間違いであることにすぐ気づき、本当に神からのお怒りがあるのではと恐れている最も発言力のあるサクラ街在住派が激しく抵抗した結果、内部でかなり派手に揉めたらしい。エルバードさんの集めた状況証拠とそこからの推察だそうだ。


 魔物から襲われることのない平和なサクラ街に、初めて内紛の危機が訪れたそうだ。


「よそ者の人たちが勝手に街の中に陣取り始めたり、神の名のもとに勝手に住人の家を徴発したりしだしたそうです。私はこの子を守るために隠れてたのでよくわからなかったのですが……3日ほど街は混乱していたんです」


 思考が一瞬漏れてきた。リュウも一緒に前に出て説得に参戦しようとしたのだけど、エルバードさんに止められたそうだ。あの人責任感強そうだからなぁと納得する。


「ただ、教会の方はすぐに鎮静化したそうなんですけど、問題はその後起きまして……魔物の襲撃を受けたんです」


 運が悪いなぁとその話を聞いて思った。街の内部が混乱してるところに外からも攻撃受けるとか、間が悪いにも程がある。

 リュウの雰囲気がまた重くなった。思わずどうしたの、と質問してしまう。


「その魔物は凄く強くて、その……。たった二匹だったのですけど、力が強くて、とても素早くて、体が硬くて……。しかも魔法まで使って、何人も、何人も犠牲に……」


 街の人間も内部で揉めていたことに注目してしまい、外からやってくる1匹の魔物が気づいたら街の中にまで入ってきたそうだ。その黒い魔物は誰も見たことない魔物で、しかもたった1匹だったというのに、物凄い勢いでたくさんの人を殺していったらしい。

 教会の僧兵が総出で対抗するも、なんとか1匹を撃退するのに精いっぱいで、新たに現れた2匹目には為すすべなく逃げ出したそうだ。


 そこに今まで教会から隠れていたリュウが街の異変を察知して駆けつけた。

 まさしくヒーローのごとく、一番火力のある爆炎の魔法で逃げかけていた1匹目と、元気な2匹目を倒そうとしたそうだ。つまりあの最初の大爆発は、リュウの仕業らしい。

 ただ2匹目は1撃では倒せず、そのあと様々な属性の魔法で撃退しようとしたそうだ。魔法の実力はあったけれど実戦経験がなかったため、街に被害を与えずに倒すのに苦慮したそうだ。


 ……というかあのド派手なエフェクトは全部リュウが原因だったのか。リュウってカチくんより強いの、もしかして?


「ええと、魔法なら小さい頃から何度も練習しましたから」


 リュウが少し照れながらそう言った。僕と会話したいがためにずっと意思疎通の魔法を使って練習していたら、他の魔法も同等に習熟したそうな。

 リュウに対抗心を燃やして練習を始めたカチくん然り、このミニ世界では幼い頃から魔法を使いこなすのが、強くなる秘訣なのかもしれない。


 一人で数十人分の強さを誇るリュウが前に出たことで、黒い2匹の魔物はあっさり撃退し、サクラ街は平和になったそうだ。めでたしめでたし。


「……そうですね。犠牲者はたくさん出てしまいましたが……」


 リュウは人死にが出てしまったことを殊更悔いているようだった。教会から隠れていたせいで救援が遅れたのだから責任を感じる気持ちもわからないでもない。

 でもリュウが隠れることになったのも、サクラ街の内部が混乱していて魔物の侵入を許したのも正堂教会のせいだ。ということを僕が拙い口調で慰めると、リュウは力なく笑った。


「そうですね。ですけど、今回のことの責任の一端は私にもあるんです。私が、この子の引き渡しに応じなかったから……。私は教会所属ではないですけれど、サクラ街はその庇護も受けています。責任は、取らされると思います」


 そんな……。


 子を思う親心のせいで責任を取らされるなんて理不尽だと思ったが、それをリュウ自身が否定した。結果、サクラ街にも教会からの僧兵にも被害が出たのだから、何かしらのケジメは必要だとのこと。


 僕が不快な気持ちを一切隠さずリュウに伝えると、リュウは今度は笑って否定した。


「そんな怖い顔しないでください。教会の本部に召喚されるでしょうけれど、少なくともこの子は無事です。私は自分の身柄を教会に引き渡す代わりに、娘の立場を保証してもらうつもりです。安心してください、この子も私と同じで、もう意思疎通の魔法が使えるんですよ。ちょっと未熟ですけど」


 来年からはこの子があなたの下に向かいますね、と付け加えて、リュウはまた笑った。この時の僕はその笑顔に騙されたんだ。

 冷静に台詞を思い返せば、「自分の身は安全だ」とは一言も言ってないことに、なぜこの時は気づかなかったのか。リュウが思考を読ませないようにしていたことになぜ気づかなかったのか。後悔してもしきれない。


 リュウに騙された間抜けな僕は、「それなら大丈夫か」とあっさり安心していた。

 「リュウの子とも会話してみたいね」とか「来年からは親子でくればいいじゃない」とか軽口を言った。リュウも僕の雑談に合わせて、いつも通り会話してくれていた。


「今日はあまり長時間こちらにいられないのです。教会とも話をつけなければいけませんし、申し訳ありませんが、もう帰りますね」


 リュウが急に話を切って、帰り支度を始めた。この時の僕は「ああ、引き留めてごめん」と軽く謝って、二人を返した。


「人神様、さようなら。いつも……ありがとうございました」


 これがリュウの最後の言葉となった。この時の、リュウの笑顔の下に隠れた覚悟を全く気付かなかった間抜けな僕は、気楽に反対側の手を振っていたはずだ。


 リュウと赤子が下に降り、僕がいつも通りにマシュマロと塩を復興のためにちょっと多めに用意してあげようと思って再度ガラスケースの下の方を見ると、やたら物々しい光景が広がっていた。思わず息を飲んで様子を伺う。

 リュウの家の前にものすごい数の黒い服の人たちがいて、全員が一定間隔でリュウを取り囲んでいた。その威圧感がすごくて、遠目で見ているだけの僕も怖く感じた。その中央に取り囲まれている、リュウとその赤子は大丈夫なんだろうか、とこの時は考えていた。


 ……今思い返せば、魔物を簡単に薙ぎ払うことのできるリュウ自体もかなり警戒されていたんだろうな、と理由が想像できた。強者を捕えようとするわけだから。


 リュウが責任を取らされる、とは聞いていたものの、その動きがまるで犯罪者の護送のような有様だったので、この時から僕は妙に不安になった。

 リュウは数人に囲まれて移動させられた後、ロープで縛られた後に頑丈そうな馬車に乗せられていった。赤ん坊はエルバードさんに抱かれて、母親を見送っているようだった。


 仰々しい護送集団が移動をはじめ、リュウを乗せた馬車を武器を持った17人の黒服が馬(角あり)に乗って取り囲んでいた。

 あまりにあまりな光景だったため、彼らが大通りにまで行き、その姿が消えるまで見入ってしまった。


 今思えば、この時僕が無理やりにでも馬車を止めていれば、話が変わったのかもしれない。

 いや、それ以前にリュウが捕まったときに、いや、そのもっと前、リュウが帰ろうとしたときに帰さなければよかったのかもしれない。もう何を言っても、手遅れだったが。


 リュウの乗った馬車が見えなくなって、僕は慌てて手を伸ばす。本日二度目である。誘う相手は、もちろんこの人。


 エルバードさんが赤子を抱きかかえながら、僕の下にやってきてくれた。僕は慌てて事情を聞く。


 えっと、なんかリュウが連れてかれた訳だけど、だ、大丈夫なの? あれ?


 この時の僕はまだ何も気づいてなかった。雰囲気で、なんとなくヤバそうというのは察することができたけど、それが具体的にどういうことなのかまではわかっていなかった。

 エルバードさんも、疲れた声色をしていた。


「……人神サーティスよ。あなたの巫女であるリュウは、人界の理に従って、正堂教会の下に向かいました」


 リュウの翻訳がないと言葉が難しくて理解に一瞬間が開いてしまう。

 とりあえず、法律か命令かわからないけれど、リュウは教会に行ったということでいいのだろう。それで?


「……教会は先程、彼女の3つの罪状を公表しました。一つ、教会からの正式な巫女候補の召喚の拒否。一つ、教会から独立自治を任されているサクラ街の代表としての防衛の不備。一つ、教会に対して非協力的な態度の数々。この罪により、正堂教会本部にて神前裁判を行われるそうです」


 ……リュウから聞いていたことと比較すると、つまり子供を提供するのを嫌がって、魔物の襲撃に即応できず、教会の頭ごなしの命令を無視していたことかな?

 そもそも教会に正式に加入してないリュウに無茶な命令しまくってただけじゃないか、とか、僧兵でもできなかった魔物を撃退した功績は考慮しないのか、とか、人神扱いの僕がサクラ街にいるのにどこの神前で裁判する気なのか、とか色々ツッコミどころはあったけれど、話を聞く方を優先した。


 それで、リュウは大丈夫なの?


「……神前裁判では、教会独自の論理によって被告が裁かれます。神の名の下に、(金と権力次第で)公正に、(必ず不利に)行われることになって……います」


 リュウほど思考がきちんとブロックできていない。エルバードさんの本音が漏れ出ている。

 だからこそリュウがこれからどうなるかが理解できた。エルバードさんの知識で、これからリュウがどんな目に遭うのかの予想が見えてしまう。文明レベルの低い世界だからこそ、起こる必然を。

 できたからこそ……僕は怖くなっていった。


 で、でも、リュウはちゃんと戻ってくるんですよね?


………………(無理だろうな)


 だ、だってリュウは大丈夫だって……。


………………(そんなわけない)


 ら、来年は子供と一緒に来るって……!


「彼女が、そのようなこと申しましたか?」


 メモを見返す。言ってなかった。


 この時の僕は、エルバードさんの言っていることも、漏れ出た思考の内容も信じられなかった。

 だけどエルバードさんの重々しい雰囲気と、物々しい動きを始めたサクラ街の様子を見て、信じざるを得なかった。


 だから、呆然として最後に聞いた。


 なんで、エルバードさんはリュウを止めなかったんですか?


「……止めなかったわけが(止めたに決まってるだ)、ないでしょう(ろ、……クソっ)


 ついでにリュウを制止した時の記憶もチラリを見えた。何回も説得して、彼女を思いとどめようとするエルバードさんの必死な姿が。

 そして我が子を教会に取られまいと、自分の身を差し出す決意を変えなかったリュウの姿も。


 リュウを止めなかったことを後悔したのはこの時が最初だった。そして絶望と後悔と、ものすごい苛立ちを覚えたのも。


 この後何をやったのかは覚えているけど、具体的にどうしたのか詳しく覚えてない。エルバードさんと赤子はちゃんと無事に地上に帰した。

 その後、我慢できないほど腹が立って、リュウの家とそっくりの見た目の、正堂教会の建物を壊したことも覚えている。手の平で叩き潰した。

 最後にミニ世界のことを見るのが嫌になり、ガラスケースが視界の外に映るだけでも不愉快な気分がしたので、タオルケットで上から覆って見えなくした。その後、ガラスケースから背中を向けて、何も見たくないとばかりに頭から毛布を被って眠った。


 そして今日、いつもは帰宅すると同時にガラスケースに飛びついていたのだけど、今日は何もしなかった。

 雨なので外出できず、何もやる気が起きず、タオルケットを取ることもなく、スレイプニルの餌を一度だけ与えて、それ以外は何もせずに一日中パソコンでネットサーフィンしていた。


 ……もういいや。昨日の分はこれでちゃんとまとめた。

 ミニ世界のことは……明日でいいや。なんか眠い。寝る。

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