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箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル2【極小世界の観察、及び人的交流の開始】
17/58

4月29日(日) 晴れ 午後

 リュウが結婚した。


 今日はいろいろあったけど、なんか書く気がしなくなったので、明日書きます。

 今日はここまで。以上。終わり。終了。はい、おつかれー。









【追記】


 さすがに全く書かないというわけにもいかないので、仕方なく深夜に書き始める。書く気力わかないけど。だっていろいろあったし。


 まずサクラ街の様子が変わっていた。街の規模自体はそれほど変化していない。ただ、僕が引いた大通りの様子が大変化していた。

 なんというか立派になっている。人通りも多いし、常時馬車や荷物を持った旅人が移動している。大通り沿いに露店のようなものを開いているのも見えた。

 それだけじゃなく、途中から新しい道が1本できていた。その先に何があるのかはわからなかった。しかし新しい道の方にも人通りが激しい。隣町でもできたのだろうか。

 街の建物も、何戸か新築されているように見えた。昨日の写真と比べて、小さい建物が減って大きい建物が増えている。

 わかりやすく言えば繁栄している。シムシティでメガロポリス状態になったときの感じと言えばわかるだろうか。とにかくそこら中に人混みができていた。


 あとリュウの家の周りが一辺していた。

 今までゴミゴミした場所に一回り大きいリュウの家がドドンと建っていたけれど、今は周辺が開けている。

 池の周りの一等地が大きくリュウの家として使われているようだった。立場がよりよくなったということだろうか。


 あと気になったのが、サクラ街の周辺で工事をしている人影が見えることだろうか。何をやっているのかは全く分からない。地面を掘っているようだが、堀でも作ってるのだろうか。


 まあ細かいことはリュウに聞いた方が早い、といつものようにリュウを迎えようとした。すると、リュウの様子も何か違った。


 今日のゲストはエルバードさんだった。のだが、二人の着ている服がなんかゴージャスだった。

 いつもは清潔感溢れる白い貫頭衣のような服装だったのだが、今日は飾り布が多い赤い服装だった。アクセサリーもつけているようだった。頭にも布を被っているのが印象的だった。

 今から思えば訳なんて明白だったけど、この時は何があったのだろうと不思議に思っていた。


 エルバードさんも似たような服装だったので、最初は何か仮想大会でもやってるのかと思ったくらいだ。ハロウィン的な。

 ただ、着飾っている女の子を見かけたら褒めるべきだと思って、眼福と思いながら褒めた。綺麗な服だね、似合ってるよ。


「ありがとうございます、人神様」


 服装はいつもと違ったけど、中身はいつものリュウだった。笑顔が眩しい。

 ただルーペで拡大して見ると、妙に表情が暗い気がした。僕は質問してみる。どうしたの?


「……カチくんのことなんですけど」


 カチくんの名前を聞いてちょっと嫌な顔になった、たしか。昨日の激闘の記憶はいまだ新しい。

 彼の槍に刺されたせいで右手が一日中痛かった。もう治ったけど、また同じことをやられたら堪ったものじゃない。


 ただ、この時は特に何か言うことなく、むしろリュウの顔色が暗いことの方が気になっていたので、そっちを優先させた。

 いつも可愛い笑顔を見せてくれるリュウがすごくションボリしているのだから仕方あるまいて。


 カチくんがどうしたの?


「その、見てもらった方が早いと思うんです」


 そう言うとリュウは僕に昨日の……リュウにとっては1年前の記憶を見せてくれた。さすがに2回目だったので、この時の僕の心の準備も万全だった。

 以下、記憶をもとに再現。





…………





 カチくんだけで人神様の下へ向かい、帰ってきた。私以外の人が神様の手に乗って天上から降りてくるのを見るのは初めてだったので、ちょっと不思議な気分だった。


 武具を身に着けた状態で見せてから奉納する、と言って出かけていったため、戻ってきたカチくんは普通の普段着だった。ちょっと汗で服がよれていたことと、なぜか焦げ跡がついているのが気になった。


 私はすぐに走り寄り、カチくんに話を聞く。


「ねぇ、人神様はどうだった? 何かおっしゃられてた? カチくん本物の騎士様みたいに格好良かったから喜んでくれたかしら?」


「……さあな」


 カチくんは普段から不愛想な表情をさらに不機嫌に染めて私の質問を軽くいなす。私はそれに少しムッとして、語気を強めた。


「もう、カチくんが人神様とどうしても一対一で話がしたいっていうから今日は私行かなかったんだよ? 何があったのかくらい教えてよ。私にも言えないこと?」


「……ああ」


「ああ、じゃないよ、もう。やっぱり私も行くべきだったかな? 今なら人神様の手に乗せてもらえるかしら?」


 湖を見ると、カチくんを降ろして一回天上に戻られた御手が、また再度降臨される様子が見られた。

 いつ見てもすさまじい光景だ。巨大な屋敷ですら簡単に摘まみ上げてしまいそうなほど巨大な御手が、人より巨大な甘味マシューと高級調味料である塩を届けてくださる。その御手にまた乗っかったら、今年も連れてってくれるだろうか?


 私が御手からマシューや塩を受け取っているエルバードさんの商会の人たちの働きを見ていると、カチくんが私の袖を引っ張った。


「今年は行くな」


「え?」


「……とにかく行くな」


 カチくんはそれだけ言うと、プイとそっぽを向いた。誰かを探すかのようにきょろきょろ周囲を見回す。

 私はその態度にどんどんイライラしてくる。カチくんは私の言うことを全然聞いてくれない。今度は私の方からカチくんの袖を引っ張る。

 頭一つ分高いところにあるカチくんの顔は私の方を振り向きもしない。


「もう、何があったのか教えてくれたっていいのに! それに、何かあったの? 服が汚れてるしカチくんなんか疲れてるみたいだし、何かやったの? 人神様に失礼なことしてな……」


「エルバードの旦那はどこだ?」


 自分でも頬が膨れているのがわかった。見上げるカチくんは私の方を全然見ようとしない。

 質問に質問を返されてかなり腹立ったけど、エルバードさんのいるところを指さす。


「あっち。商隊の方。正堂教会にも塩をわけるって……」


「わかった」


 それだけ言うと、カチくんはさっさと歩いて行った。身長が違えば歩幅も違う、私は速足で歩きだしたカチくんにあっさり置いてかれてしまった。

 最近特に避けられている気がする。何か気に障ることしちゃったのかな、と少しだけ気に病んだが、思い当たる節が何もない。ムウッと唸りながら、カチくんが向かった方へと向かった。


 マシューは1個につき9等分にして馬車9台で運ぶ。人神様は「お供え物なんて貰っちゃったらたくさん返さないとね」とマシュー2個に大量の塩をくださる。

 正直貰いすぎだと思っているが、サクラ街の運営にはお金がたくさん必要なのだ。ありがたく頂いてひとつ残らずきちんと売りさばく、とはエルバードさんの言。


 みんなカチくんのように力が強ければ運ぶのが楽なのだけど、そうはいかない。そのため、人神様からの贈り物を頂く日は馬車の大行列が出来上がるのだ。

 エルバードさんはその大商隊の責任者として指示を出していた。そこにカチくんが向かっていった。エルバードさんと二人で何か話している。


「……神は……ないと……」


「……本当に……カチくんはそれで良いので……」


「……幸せを願っていると……」


 私が近づいていくと二人は一瞬だけ顔を見合わせた。お互いの拳を合わせた。


「エルバードさん、聞いてください。カチくん何も教えてくれないんですよ? そのくせ人には命令してくるし……」


「ははは、カチくんは熟練の傭兵みたいで言葉少ないですからね」


 エルバードさんが笑顔で冗談を言う。私も笑って頷いた。


「それで、カチくんは何を話してたんですか?」


「それなんだけどね……」


 いつも大人な口調でなんでもすぐに答えてくれるエルバードさんが、珍しく言葉を濁した。私はきょとんと首を傾げると、急にカチくんが動いた。

 なんと、私の前に跪いたのである。


「え、カ、カチくん? どうしたの?」


「人神サーティスに遣えしリュウよ。私の罪をお聞きください」


 いつも見上げていた頭が下にあることに驚く。私がリュウであることに対して膝をつく人は多かったし、毎回やめてほしいと伝えつつも最近ちょっとだけ慣れてきたところだ。

 でも、カチくんが私に跪いたことなんてない。そういうことをする人ではない。私は慌ててカチくんを立たせようとする。


「あの、カチくん? 立ってよ。なんでそんなことを……」


「私は、人神様に害を為しました」


 え、と私は声を詰まらせる。害を為す、とはどういう意味だろう。カチくんは何を言っている?

 カチくんは跪いたまま私に目線を合わせることなく、言葉を続ける。


「神に供えるための武具で神を傷つけ、神馬となるべき馬で神に仇なしました。神に血を流させ、神に火を向け、そして神風に落とされました。私は神に仇為す者です」


「い、いきなり何を言って……嘘だよね、カチくん?」


「しかし神は寛大でした。私の蛮行を許し、サクラ街の繁栄を欲し、信仰する民の幸せを望んでおりました。人神サーティスの御慈悲に感謝します」


 カチくんがまるで神官のような口調で説明するという状況に戸惑う。言っている内容も理解できないし、なぜこんなことをしているのかもよくわからない。

 困った私は、いつも頼りになるエルバードさんに説明を求めた。エルバードさんは顔は笑っていたけれど、明らかに困っているようだった。


「エルバードさん、カチくんは何を言って……」


「いいかい、カチくんはね。君がリュウとして神の元に行かなきゃいけなくなるんじゃないか、とずっと不安に思ってたんだよ。だからその真意を確かめに行くって言っていたんだ」


「え、でも人神様は生贄のようなものは望まないって……」


「でもね、最近お供え物を渡したらお返しが増えたじゃないか。マシューだけじゃなく塩まで。リュウも神の御許に行けばもっと加護が頂けるかもしれないと期待する人も、いないわけじゃないから……」


「そんな……」


「だからカチくんは、リュウとして取られたくなかったから神殺しをしようとしたらしい。そして失敗したら、自分がリュウの代わりに命を捧げるつもりだったんだ。でも生きて帰ってきた」


 カチくんが私の代わりに、というところで驚いてしまった。

 カチくんはいつも私のことを心配してくれて、危ないときは守ってくれる。でもまさか神に弓引くことまでするとは思っていなかった。

 だから私は怒った。


「バカ! カチくんなんてことしちゃったの! 私、人神様のところへ行ってお詫びを言わなきゃ……」


「もう御手は戻っちゃったよ。それに、その前にすることがあるよ」


「することですか? 一体何を……」


「カチくんを街から追放するんだ」


「……え?」


 エルバードさんが何を言っているのかわからない。カチくんがなぜ私の前に跪いたまま全く動かないのかもわからない。

 エルバードさんはそんな私に、幼子に言い聞かせるように丁寧に説明した。


「人神様は私たち人間が幸せな生活を送ることを望んでらっしゃるらしい。だから罰は下さないそうだ。でも、神に弓引いた者を、神の治める街にいさせるわけにはいかない。これは私たち人間の問題だ」


「でも、カチくんは……」


「君を心配して、勝手に暴走した結果、ということだろうね。でも、やったことはやったことだ。カチくんを街から追放しないと、他の住人が何を言うかわからない」


 エルバードさんは後ろの方の馬車をちらりと見た。そこには見慣れた黒い服の人たちが塩を運んでいた。

 私はグッと歯を食いしばった。


「……神の使いであるリュウが彼を追放するのが一番妥当だ。他の人からも文句が出づらいだろう。でも、辛いなら私が……」


「……いえ」


 そうして私は、見慣れたカチくんの後頭部を見下ろしながら、言いたくない言葉を伝えた。





…………





「すみません、ここまでで……」


 リュウが脳内映像を止めた。急に見ていた映像が止まって驚いたが、リュウの顔を見たら何も言えなくなった。

 リュウは涙を拭きながら、今度は言葉でさらに説明を続けた。


「あの後、カチくんは全ての責任を負う形でサクラ街から出ていきました。世界を巡ってくるって……」


 そう……。


 僕は何も言えなかった。

 もっとちゃんとカチくんを許してあげればよかったのかとか、もっときちんと話し合えばカチくんは出ていかずに済んだんじゃないかとか、後悔したからだ。

 でも僕にとっては一日前、カチくんにとっては一年も前の話だ。もうどうしようもない。僕はリュウに謝罪をする。


「人神様が謝ることじゃありません。その、お怪我をされたと聞いたのですが、大丈夫なのですか?」


 ああ、大丈夫。痛かったけどすぐ傷口は塞がったから。


 僕は右手を見せながらリュウに言う。リュウは「よかった」と少し安心したようだった。

 だが、どうにも雰囲気が暗い。僕は場を明るくしようと軽口をたたいた。


 カチくんめっちゃ強かったし、一人で冒険しても余裕だろうね。むしろ余裕で無双してたりして。


「無双、ですか? でも確かにカチくんの身の安全は心配してないんですけどね。すごく強いですから」


 ハハハ、と笑いながら、リュウには伝わらないようにこっそり涙した。

 カチくん、振られちゃったのね、ずっと片思いだったろうに……。


 少し雑談した後、今日はお開きとなった。今日のお供え物はものすごく小さかったが、今までで一番豪華だった。

 山積みされた金塊だった。なんと小指の先端の3分の1もある。金なんて初めて貰った。丁寧に保存することを心に決める。


 そして最後の最後に、リュウが爆弾を落としていった。

 リュウとエルバードさんが跪いて、先程の映像で見せてもらったのと同じような姿勢をとった。そしてエルバードさんが畏まった口調で僕にこう言ってきた(副音声、リュウ)。


「私、エルバードはこの度、人神サーティスの加護により、その御使いたるリュウと縁を結ぶことと相成りました。私たちは神の御意思を尊重し、サクラ街をさらなる発展と、さらなる信仰を深めることをここに約定し、末代まで人神様に仕えることを誓います。なので夫婦となることをお許しください」


(えっと、私とエルバードさんは結婚します。あの、その、その……)


 この後の記憶は曖昧だった。

 何か説明を聞いた気がする。歳がちょっと離れているけれどお互い独身で、しかもサクラ街の重要人物同士だからちょうど良かっただとか、結婚によって街の態勢が盤石になるだとか、金を持つ男性と信仰による権力を持つ女性という組み合わせは誰もがうらやむ組み合わせだとか、いろいろ聞いた気がする。詳しくは覚えてない。


 気づいたら二人を祝っていて、気付いたら二人を返すついでにマシュマロと塩を渡していて、気付いたら布団にくるまっていた。

 シャワーを浴びるのも課題を終わらすのも忘れていたし、観察日記をつけるのもサボったけれど、そうして今日が終わった。もうなんか疲れた。眠いから寝る。

ちょっと最近忙しさMAXです。すみません、しばらくは更新が遅いです……。

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