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For ME  作者:   
6/10

選択する話

 またおかしくなったらしい。精神安定剤でようやく震えを押さえても眠くなる。体がだるい。書いている小説は30万字を越えても終わらない。また通信機器を全てブロックした。体のどこかが悲鳴を上げている。よくわからないけど文字を打つのもおっくうだ。ゆっくりしか文字を打てない。寒くて仕方がないのに顔は熱くて仕方がない。火照るのを覚ます方法が思いつかない。手が冷たい。パソコンが打てない。

 私は選ばない人生を送ってきた。小学校は近所に行き、中学校で受験して落ちて近所に行き、高校も親に言われたところにまるでそこがいいと喜んでいる顔で言って受験して合格して母が号泣した時は親孝行したと思って、大学受験のために塾に通うことになって結局数か月もしないでやめて適当な大学に行って旅をして帰って来て終わった。

 もしやり直せるなら、という後悔はいったいいつまで続くのだろう。小学生に戻れたら勉強して先生に褒められていい中学校に行けただろうか、中学生に戻れたらもっとたくさん友達を作ってもっと楽しく過ごしていただろうか、高校は別の所を選んだだろうか、大学はここじゃなかったかもしれない、そんなことを考えたけど想像ができない。私は私の人生がこれ以外の道を辿ったとは到底思えないのだ。だからこれは後悔じゃなくて、もっと別の何かなのかもしれない。

 そもそも後悔することができるようになったのはここ最近からだ。精神病にかかったことがある。その精神病のせいでかは知らないが、体力が落ちた。全てがどうでもよくなり始めた。何があったわけでもなかったのに、私はここまでの10年足らずをそうやって生きてきた。後悔の仕方を忘れた。悲しいという感情が薄れた。自分に対する悲しいという感情より、一歩下がったところから自分に感情移入して悲しいだろうなと思って悲しくなるようになった。怒らなくなった。怒り方がわからなくなった。私は言い訳じみた言い方をした。「怒るとは自分の正義を押し付け強要することだから好きじゃない」と言った気がする。

 最近になって物事に苛立つようになった。楽しい時に笑うことを堪えなくなった。旅先では特にそうだった。苦しい時は独り言でも苦しいと声に出した。悲しい時は泣いた。笑いたいときは人目を気にせず笑った。でも、帰って来て、笑う機会が減った。怒られることが増えた。怒られてけなされて父は口すら利かなくなった。母は私の旅を校庭は絶対にしないと言い張った。けれども1度だけ私の話を聞いてくれたことがあった。嬉しかった。まだ生きていていいかな、と思えた。それだけ。ずっと今は怒られ続けている。

 ご飯を食べるのは嫌いじゃない。旅先でどれほどひもじい思いをしたことがあったかと思えば、いつお金が尽きて旅先で満足な食事にありつけなくなるかと思えば、ご飯は食べずにいられなかった。でも食事をするとき父と母と顔を合わせることになる。それが嫌だった。心苦しかった。大学に行っていないことを毎日のように言われる。卒業しろ、単位を取れ、やるべきことをやれ。やりたくてもできない。気付いたら文字を書くだけの生活を1週間続けている。部屋からほとんど出ないで、ただパソコンに向き合って言葉を連ねている。それに何の意味があるかはわからないけれどもこの物語を終わらせるのが今の目標で、1つの区切りだと思っている。好きなシーンがたくさんある。物語は戦時中をするどこかの国のどこかの地域だ。私のハンドルネームの由来だが決して大阪の古い地名からとったわけではない。

 最近食事の味がしない。眠りが浅い。1週間前なら9時間近く眠っていたにもかかわらず、今は0時に寝ようと10時に寝ようと明け方の4時に目を覚ます。寒い。

 あと、よく泣くようになった。いい子とか悪いことかはわからないけれども、物語の彼らはいつも一生懸命生きている。私も彼らが死ぬ未来が見えない。きっと死なないだろが、今まで何度も死にかけてきたし、これからも死にかけることは数多くあるはずだ。そんな彼らは人を守るために一生懸命になっている。生き延びるために一生懸命になっている。その姿になぜか泣いてしまう。その言葉が自分に言ってくれているようで涙が出る。

 ユウリという登場人物がいる。先ほど彼女が一般人の男に向けて親近感を覚え、彼にこういった。「助けてほしいなら助けてって言わなきゃダメです。」そんな言葉だったと思う。一般人の男はカリスガというのだが、彼が今後、彼としてどんな行動を起こしていくかわからないけれども、きっと彼は人を裏切るような真似はしないと思いたい。彼らの行動はとっくに私の手を離れている。こうなったからこう動く、こういう事態が発生するだろうからこうなるだろう、わからないことは想像で補い、彼らの動きと彼らの考え方を私はただひたすらに書いている。

 それは楽しいのだろう。朝目が覚めて、眠りたいときに眠り、起き上がってはまたパソコンに向かって文字を打つ毎日を繰り返している。この物語の主要人物は確か16人だったはずだ。数が多いのは彼らが組織として動いているからだろう。この物語を終えるまでは、彼らが幸せになるまでは私も生きていたい。でも、筆の速度がどんどん遅くなっていく。眠りの時間が長くなっている。薬でようやく右も左も回らない体を動かしている。両親からの怒声は疑問の言葉に変わり、私は発狂しそうになっている。私は今どうしたいのか何をするべきなのかわからない。とにかくこの物語という世界を終わらせないといけないという焦燥に駆られている。これが終われば何かが変わると思えるのだ。何が変わるのかはわからない。けれども漠然と何かが終わると思えるのだ。終わった時に何が起こるかわからないし、どうしても筆が止まってしまう日も来るかもしれない。想像できないことが多すぎる。知らないことが多すぎる。でもそれを知る由も想像で補う余地も私は知らない。

 今日は気づいたら文章を書いている途中で眠ってしまっていた。姉に起こされて布団に眠り、もう一度起こされて遊びに誘われたが眠くて断った。本当は行きたかった。今から行けば間に合うだろうか?物語を格よりそっちの方が有用性が高いかもしれないが、姉にまで迷惑をかけるのはどうかと思ってしまう私がいる。

 親と話したくない。いつも同じ話ばかりさせられる。大学の話、大学の話、無理だ聞きたくない、大学の話は聞きたくない。今は静かにしていてほしい。何のかかわりも持たず生きていたい。誰も気づいてくれそうにない。

 精神病院の先生に休学という手があると言われた時どこかで安堵した私がいたのを覚えている。私は今時間が欲しい。自分と向き合う時間が欲しのだと思う。そうすれば何かの落とし前をつけることができるのではないかと思ってしまう。でもそれを誰が許してくれるのだろう。助けてと言わなければ助けてもらえないというのに私の口から言葉は出なくて母にかけられた言葉に涙しか落ちてこない。今誰に助けを求めればいいんだろう、誰か助けてくれるのだろうか、どうすれば助かるのか、そもそも何に自身が脅かされているのかがわからない。

 研究が進まない、就職先に興味がない、昔々あるところに私がいた。いつか偉い人になると決めていた。いつかたくさんお金を稼いで両親を養って美味しい物を食べさせてあげようと決めていた。そのために勉強しようと決めていた。どうだろう、理想の大人になっているだろうか。偉い人になれるわけもないとあきらめている私がいる。たくさんのお金がもしかしたらただの紙切れに変わる日が来るかもしれないと思う私がいる。親孝行をしようと思っていたことを懐かしく思う私がいる。私は怖い。両親は私が彼らの世話をしないと思っている。でも私は彼らが介護を必要とするなら悔悟するように思うのだ。しかしその介護の時に暴言を吐かれたらどうしようか。私にとっての精一杯を無下にされたらどうするだろうか。私はたちまち崩れ去ってしまうように思うのだ。そうじゃなくても、「ありがとう」の感謝の気持ちを伝えてもらえなくなった日から私は壊れてしまう気すらするのだ。私は臆病だ。どうすればいいかわからない。

 本来1日に3錠までとされている精神安定剤を2錠飲み干した。酷い眠気に襲われて、多分4時間近く眠っていたと思う。今でこそ眠気はないが何もする気が起きない。あえて言うなら存在証明を示すためにこうやって文章を書き続けているだけである。

 あの物語はきっとみんな幸せにはならない。きっと最後は巷で言う「バッドエンド」で終わりになる。あの物語は「異常な人々が変わった世界で普通に暮らす」様子を書いている。普通がだんだんとずれて行く、でもその普通に適応していかなければ人間は生きていけない。異常な彼ら人ではないほどの強い「力」を持っている。だから普通に適応するだけで一苦労なのに普通は無慈悲にも変化していく。

 類は友を呼ぶ。彼らは異常が集まってできたグループだ。異常同士であれば自分たちが普通だと思えるのに、一歩外に出れば普通が跋扈し彼らを普通じゃないと糾弾する。そしてその普通も次々と姿を変え、彼らを翻弄していく。それでも彼らは普通に生きようとしている。彼らがそこから逃れられないのは家族や友達といった大切な絆があるからだ。そうでなければ彼らは壊れてしまう。でも一心にそれに縋ってでも生きようとする姿に私は希望を覚える。彼らはもしかしたら私の希望の象徴なのかもしれない。どんなに苦しい状況でも彼らは戦い続ける。彼らは生き続ける。私は私の物語であるはずの彼らに励まされてきている。でも、彼らが幸せな生活に戻れるとは到底思えない。彼らは異常過ぎた。それが普通の人に根強く浸透してしまえば、人間は本能的に彼らを嫌って殺してしまうだろう。それが世界だ。世界は残酷だ。でも私はそれを傍観することしかできない。あえて言うなら、突拍子もない因子が何か行動原理を持って彼らを助けてくれるかもしれない。そうなることを私は願いつつ、ないだろうなと絶望しつつ文字を書き続けている。

 私は選択をせず今まで生きてきた。自分の向かう先を自分で決めたことなどなかった。誰かが選んだから、誰かがそう言ったから、誰かがそれをやったから、だから私は何も考えずに生きて来れた。物語に出てくる彼らは違う。彼らは選択をする人間だ。人を殺すか助けるか、どうしようもない普通に流されながらそれでもどうやって生きて行くかを選び続ける。

「ある男がいた。手首、足枷をつけられていた。そこに首輪をつけられそうになって、男は抵抗した。結局首輪は繋がれず、男は叫んだ。『自分は自由だ!』」、こんな話をどこかで聞いたことがある。どこだったか、絵本のような、薄い小さな本だったような気がする。今、手首足枷をつけられた私がいる。首輪をつけられてもきっと抵抗しないだろう。でも、代わりにその首輪に繋がれた鎖を首に巻きつけて言うのだろうか。「私は自由になる」と。

 あの物語が終わるまで、あの世界が終わるまで、私はまだ生きていられる気がする。例え首輪をつけられても。

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