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52.終戦交渉

 ムツアシ衝車で門を破った後の戦闘は、連合の圧倒的優位で進んだ。

 連合側の戦士3百人に対し、敵はまともに戦えるのがその半分以下で、残りは不慣れな素人だ。

 門が壊れて内部に入られてしまえば、敵の劣勢は避けようがない。


 屈強な獣人種の戦士が、圧倒的な戦闘力で敵を無力化していく。

 人族側も必死で応戦したが、その損害比は10倍以上にもなっていた。

 一応、非武装や無抵抗な民間人を手に掛けないよう、通達はされていたものの、必ずしも守られてはいない。

 せめて家に閉じこもっていればいいが、逃げようとして害される者もいた。


 そんな悲劇を交えながら、1時間ほどもすると、植民地内の制圧は完了していた。


「ふえ~、ちなまぐしゃいでしゅ」

「ああ、嫌なもんだな。だけど、戦争だからな」

「まったく。しかし敵とはいえ、心が痛みますな」


 武明はハムニとニケを連れ、植民地内を歩いていた。

 見れば兵士だけでなく、明らかに一般人らしき者も、道端にむくろをさらしている。

 それらの光景に心を痛めながらも、武明は戦士たちをねぎらい、歩を進めた。

 やがて一際大きな建物の前で、狼人のクワイガに出迎えられる。


「おお、タケアキ。早かったな」

「ご苦労様。交渉相手はここに?」

「うむ、”そうとく”とかいう奴を、捕らえてある」

「さすがはクワイガ殿。お手柄でしたな」

「ああ、殺さぬよう手加減するのに、苦労したわ」


 褒められたクワイガは嬉しそうに尻尾を振ると、武明たちを建物に招き入れる。

 彼は先に立って階段を上り、とある1室の扉を開けた。

 その部屋の中では、豪華な机の向こうに、1人の男が捕らえられていた。

 椅子に縄でくくりつけられたその男は、高級そうな服をまとい、気障なカイゼル髭を生やしている。

 クワイガが猿ぐつわを取り払うと、男は大きな声で怒鳴りはじめた。


「貴様っ、無礼であろうが。このセントオーガス総督の儂に対してっ!」

「やかましい」

「ぶべらっ」


 クワイガに頬を張られた男が、おかしな声を上げる。

 しかし彼はすぐに意識を取り戻し、クワイガをにらみつけた。

 するとそれを取り成すように、ハムニが話しかける。


「これはこれは、フェルナンド総督ではありませんか。私、しばしばこちらと取引きをさせてもらっておりました、ハムニと申します。以後、お見知りおきを」

「む、貴様、ハーフリングの交易人か。ちょうどよい、こいつらに儂を解放するよう、話をつけよ」

「あいにくと私にその権限はありませんが、交渉は望むところでございます。ただし我らの代表は、こちらにおられるタケアキ殿になりますが」


 すると武明を見た総督が、喜色を露わにした。


「おおっ、おぬし、我らと同じ人族ではないか? ならばこいつらに命令してくれ。すぐに儂を解放しろと」


 状況を全くわきまえていない総督の態度に、武明は失笑する。


「プッ、この状況でそれが言えるあんたに、ある意味感心するよ。とりあえずクワイガさん、彼の縄をほどいてやってもらえますか?」

「本当によいのか?」

「あなたが見張ってれば、脅威でもなんでもないでしょ。一応、武器を持ってないか、確認だけはしといてください」

「うむ、お前がそう言うなら」


 武明は指示を出すと、横にあった椅子を持ってきて、総督の前に置いて座る。

 そして膝をポンと叩くと、ニケがそこに飛び乗ってきた。

 彼がニケの頭をなでていると、やがて総督が縄をほどかれ、交渉が始まる。


「さて、まずは自己紹介を。俺の名はタケアキ。この地の先住民を指導する、責任者だ」

「……なんだと? 貴様、人族ではないのか?」

「たぶん似たようなもんだけど、俺は異世界から来た異邦人だ。そういう意味で、あんたとは違う種族だから、変な助けは期待しない方がいい」

「異邦人だと? にわかには信じられぬな……しかしおぬし、なぜこいつらの味方をする?」

「この大陸は彼らの生まれ故郷なんだから、俺はその手伝いをしてるだけだよ。あんたらこそ、勝手に人様の土地に乗り込んできて、好き放題やるなんて、どういうつもりさ?」

「フンッ、この土地は我らイスパノが、神から与えられた土地よ。こんな野蛮人に、ぶべらっ!」


 失礼なことを言った総督を、またクワイガがはたいた。

 総督は恨めしい目を向けながらも、今度は言葉を選んで会話を再開する。


「くっそ……我らは地主のいない土地を開拓しているだけだ。そのように侵略者のように言われる覚えはないぞ」

「ハハハ、よく言うよ。こっちは少なくともこの1年で、2つの村がお前らに焼かれてるんだ。実際に死人も出てるのに、無主の土地を手に入れただなんて、お笑いだな」

「それはそちらが先に仕掛けてきたから、受けて立っただけの、ぶべらっ!」


 またクワイガが、総督の頭をスパンと叩いた。

 頭を押さえて涙目を向ける総督を、武明はさらに責める。


「そんなの、あんたらがでっち上げたんだろ? たしかに先住民と衝突があったのかもしれないが、それを全てこっちの責任にして、大戦力で蹂躙したんだ」

「ぐぬぬぬぬ……ま、まあ、それは不幸な行き違いというやつだ。そっちだってこうして攻めてきたのだ。お互いさまということで、兵をひかんか?」

「今回の戦闘も、そっちから攻めてきたのが発端だぞ。ただ撃退するだけじゃあ、懲りないだろうから、わざわざここまで来てやったんだ。勝手に攻めてきたからには、自分たちも攻められる覚悟はあるんだろ?」

「むむむ、それはなんというか……」


 度重なるクワイガの打擲ちょうちゃくに臆したのか、総督が言いよどむ。

 するとここで、ハムニが提案を持ち出した。


「フェルナンド総督だけでは、お話もしづらいでしょう。たしか秘書官に、コルテスという方がおられたと思いますが」

「おお、そうだ。コルテスを呼べ。あやつは細かいことにも気が利くからな」


 総督も望んだので、捕虜の中からコルテスという男を呼び寄せた。

 すると金髪で眼鏡を掛けた、いかにも頭のきれそうな男が、連れてこられた。

 武明の指示で縄をほどかれると、その男が手を揉みほぐしながら言葉を発する。


「フウッ、ようやく人心地がつきました。それで、私が呼ばれたのは、なぜでしょうか?」

「コルテス! すぐにこの者らと、講和条件をまとめるのじゃ」


 するとコルテスはため息をつきながら、抗議する。


「はあ……しかしそういうことは、総督のお仕事ではありませんか? まあ、助言くらいはさせてもらいますが」

「いや、儂はこいつらと話が合わんのでな、お前に任せる」

「はあ…………了解しました。それで原住民の代表はあなたでしょうか?」


 コルテスはいかにも嫌そうな顔をすると、改めて武明と向かい合った。


「俺が代表のタケアキだ。それと俺たちのことは、タイオワ連合と呼んでもらおう」

「タイオワ連合? なるほど。妙に兵力が大きいと思ったら、複数の集落をまとめていましたか」

「まあ、そういうことだ。それで今、俺たちはこの植民地を完全に占領下に置いている。それは分かるな?」

「ええ。この状況では、敗北を認めざるを得ませんね」

「そのうえで俺たちは、損害賠償と講和条件について話をしたい」


 するとコルテスはしばし黙って、武明の方をうかがっていた。


「……講和ということは、この拠点の存続は許していただけるのですか?」

「ああ、下手に追い出すよりは、交易でもした方がいいと思ってね」

「ふむ、興味深いですね。私はてっきり追い出されるか、下手をすれば皆殺しになるかと思っていました」

「それをやったら、今後の発展性がないだろう。俺はなるべく仲良くして、互いに利益を得るべきだと思うんだ」


 武明が両手を広げて友好関係をアピールすると、コルテスも興味を示した。


「それはすばらしいお考えですな。しかし利益を得るとは、具体的に何を考えておられますか?」

「そうだな……まずはこの植民地の土地を、改めて租借地として貸し与えよう。もちろん有料で」

「な、何をおっしゃいます。ここは無主の土地だったものを、我らが開発したのです。今さら租借地など――」

「マヤ!」


 武明の呼び声と共に姿を見せた、黒曜石のような少女に、コルテスが顔をひきつらせた。

次回、第1部エピローグとなるので、連日投稿します。

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