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48.戦乱の予兆

 2回目の連合議会が終わっても、武明たちは地道な開発を続けていた。

 おかげで連合内の道はしっかり整備され、連絡がとても良くなった。

 これによって行き来がしやすくなり、集落間の交流が進むと共に、狩りや採取活動の効率が上がった。

 さらに鉄の農具による開発も進み、農業生産も上向いている。


 おかげで集落間の交易が盛んになったのはいいのだが、それまでの物々交換だけでは不都合な部分も出てきた。

 そこで武明は、貨幣の導入を議会に提案した。

 彼の提案した貨幣は、銅貨と紙幣を組み合わせたものだ。

 あいにくと銀や金などの貴金属が近くで採れないため、やむを得ず高額貨幣を紙幣にしたという事情がある。


 貨幣の導入については、ハーフリング族の強い後押しがあった。

 交易を営む彼らは、かねてよりその必要性を感じており、武明の提案に諸手を挙げて賛成したのだ。

 他の種族も最初は、”そんな物いるのか?”という目で見ていたが、商品の流通量が増えるに従って、受け入れられていった。


 ちなみに金や銀などの貴金属を使わずに、信用だけで貨幣を運用できたのは、武明の存在が大きい。

 何しろ紙幣の製作には、武明の精霊術が応用されているのだ。

 特殊なインクで紙幣を印刷した後に、マヤの闇魔法で魔法的な印を付けたのだ。

 これによって紙幣に少し魔力を通すと、反応が返ってくるようになっている。

 そのおかげで偽造が防止できるうえに、貨幣としての信頼性も高まったという仕組みだ。


 そもそもタイオワの民は、貴金属や宝石にあまり興味を示さない。

 もちろん美しい物は嫌いではないが、自然をありのままに受け入れるという姿勢が強い民なのだ。

 そのため貴金属にこだわることもなく、物の価値を示す代価という概念を、案外すんなりと受け入れていた。

 もっとも、まだまだ貨幣経済に慣れていないので、本格的な普及はこれからだ。



 チクリとトゥククに分かれていた伝霊所も、ザンデに統合されていた。

 今回は各村から風使いの応援を出してもらい、受信と発信の両方をこなせるようになっている。

 各村からの情報は紙に書いて、掲示板に張りだされているので、情報の独占も起きていない。

 そのためチクリとトゥククは、大喜びで統合に賛成してくれた。



 鉄の増産についても、順調に推移していた。

 最初は小規模なレン炉を増やして対応していたが、3ヶ月ほどでとうとう高炉が動きだしたのだ。

 まだ原始的で生産能力は低いが、アッサムたちは大喜びで改良に取り組んでいる。


 おかげですでにザンデの戦士団のみならず、他の村にも鉄の武器が普及しつつあった。

 これによって特に恩恵を受けたのが、狼人族のキトリ村だ。

 鉄器を使うことで狩りの効率が上がり、食料が自給できるようになったのだ。

 おかげで当初、タイオワ連合を弱小種族の集まりと蔑む風潮もあったのだが、それが変わった。

 今は対等の同胞として、狼人族も連合の発展に寄与している。



 そして最前線の拠点となるザンデの強化も、完了していた。

 まず兵舎などの建物を建てるため、村自体を拡張したうえで家屋を増やし、さらに防壁も強化した。

 壁の厚みや高さは倍近くなり、火攻め対策も施されている。


 しかしそれだけでは村を攻められてしまうので、さらに外側に2重の防御線を構築した。

 村を囲むように柵を張り巡らし、特に侵攻路になりそうな所には罠や砦を設け、守りを強化したのだ。

 これによって早期に敵を迎撃し、戦力を削る構えが整った。


 そしてザンデには、常時2百人の戦士が駐屯し、訓練を受けている。

 武明は彼らに防御設備を利用した迎撃戦術と、多人数で戦う集団戦術を教育した。

 彼自身に戦争の経験はないのだが、その概念を伝えることはできる。

 もっとも、ほとんど突撃しか知らない脳筋戦士たちの意識を変えるには、相当な苦労を要したのは言うまでもない。

 しかし、武明たちの粘り強い教育の成果が、最近ようやく見えはじめていた。



 守りを固めるのと並行して、敵の情報収集にも力を入れていた。

 まず戦士の中から、身が軽くて隠密性に長ける者を選抜し、諜報班を組織した。

 特に猫人族に優れた者が多く、森の中で人族を監視したり、時には植民地への潜入までこなしている。

 さらにはハーフリング族の交易も継続しており、それなりに内部情報も得ていた。


 そしてシュドウ陥落から半年後、とうとう植民地に大きな動きがあった。


「人族から最後通牒があったんですか?」

「うむ、先日の小規模な衝突に対し、謝罪と関係者の引き渡しを通告してきおった」

「また馬鹿のひとつ覚えみたいに……」

「よっぽど前の侵攻で味を占めたのか、我らをなめとるとしか言えんのう」


 武明が伝霊所へ呼びだしを受けていくと、人族から一方的な通告があったことを知らされる。

 しかしそれを聞いて慌てる者は、誰もいなかった。

 なぜならタイオワの民と人族の間には、精霊を巡って度々揉め事が起きており、そろそろ抗議が来るだろうと予測していたからだ。


「何度も精霊狩りの邪魔されて、ようやくブチ切れたか」

「いえいえ、それだけではありませんよ。植民地の方でも新たな動きがあったのです」

「へ~、何があったの?」

「はい、大型の船が何隻か入港しまして、兵力が増えました。少なくとも百人単位で戦力が、増強されたものと思われます」

「そいつは凄い。敵も馬鹿じゃないから、俺たちが守りを固めてるのに、気がついたんだろうな」

「ええ、そのようです」


 すると一緒に話を聞いていたカレタカが、楽しそうに笑う。


「クククッ、それだけ戦力を増やせば、我らを圧倒できると思ったか。しかし、諜報班も良い仕事をしているな」

「はい、武明殿から情報の大切さについては、よく言い聞かされましたから」


 諜報班をまとめている猫人族の男が、誇らしそうに言う。

 彼らを組織するに当たって、武明は情報の大切さを懇切丁寧に説いた。

 ともすると直接的な戦闘を好む戦士たちにも、諜報班の重要性を説明したのだ。

 さすがに最初は全く理解されず、ブチ切れそうになったこともあったが、最近はすっかり彼らも情報戦の信徒だ。


「さて、それではこれを利用して、本格的な攻勢に出るのだな」

「うむ、基本的には砦に敵を引きつけ、出血をしいる戦法だ。そして敗走する敵を追撃して、植民地を逆に攻め落とす」

「ええ、問題は落としどころなんですが、ハムニさんはどう見ます?」


 するとハムニは慎重に答えた。


「それなのですが、まだ共存できそうな条件は、見いだせておりません。比較的、友好的なお方と話をしてはいるのですが、負けることなど想像もしていない現状では、そのようなお話もできず」


 交易者として植民地に入れるハムニは、人族がどの辺で折り合えるかを探っていた。

 しかし今まで無敗の人族は、完全にタイオワの民を侮っており、妥協など想像もしていなかった。


「まあ、今は仕方ないでしょう。俺たちが植民地まで攻め寄せた時に、交渉できそうな窓口を紹介してください」

「了解しました」


 するとカレタカが、不満そうな顔で武明に問う。


「しかしタケアキ。本当に植民地を残すのか?」

「ええ、そのつもりです。なぜならそれが、現実的だからです。奴らを完全に殲滅するのはおろか、植民地を潰すのも、あまり賢くありません。もしそれをやれば、連中は大船団を組んで、反撃してくるでしょう。それだとこちらの被害も甚大になるだろうし、上陸地点も読めなくなる。それをするくらいなら、適当なところで妥協して、交流を保つべきでしょう」

「しかしそれでは、精霊が奪われるのだぞ!」


 カレタカの怒声に、武明も苦々し気に応える。


「それについては、ある程度の犠牲は我慢する必要がありますね。ただし連中が動ける範囲は限定して、好きには狩らせません。いずれ奴らも反撃してくるだろうけど、俺たちも時間が稼げる。その間に、仲間を増やすんですよ」

「う~む……それしかない、のか?」

「まあまあ、そうなると決まったわけでもありますまい。状況に応じて、臨機応変にいきましょう」


 ハムニの取り成しに、武明も答える。


「そういうことです。まずはこの村を守り、敵に手痛い打撃を与える。そこに集中しましょう」

「うむ、そうだな。人族に目にものを見せてくれようぞ」


 こうしてひそかにタイオワ連合は、人族と戦う決意を固めた。

 そして決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。

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