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47.連合議会

「それでは、第2回連合議会を開催します」


 前回の議会から2ヶ月後、武明はタイオワ連合議会を招集した。

 場所は連合の中央付近に位置する羊人族の村、トゥクク。

 出席者はまたもや20人を超えているので、今日も青空会議だ。


「まずは新たに加入を希望しているキトリ村から、あいさつがあります」


 武明が促すと、村長のタイカンが立ち上がった。


「キトリ村のタイカンじゃ。見てのとおりの狼人族じゃが、中央平原を追い出されたような弱小集落じゃ。縁あってタケアキ殿から、連合加入の仮承認をもらっておる。今後、共に繁栄していきたいと思うので、加入承認の方をよろしく頼む」


 タイカンが軽く頭を下げて座ると、すぐにキトリ加入の決を取る。


「すでにご存知でしょうが、キトリからはバッファローの毛皮が供給されています。現状は支援のため、少し多めに食料を渡していますが、今後はそれも必要なくなるでしょう。戦士も屈強な者が多いので、連合に加入する意味は大きいと思っています。加入に反対な方がいれば、挙手してください」


 幸いにも反対の声は出ず、キトリの加入が正式に決定した。

 続いて進捗状況の報告に移る。


「それでは次に、道の整備と魔獣の増強について、チクリ村から」

「ではまず私から。現在、道路工事の進捗は――」


 ハムニの説明では、ザンデを起点に工事が進み、周辺のフメイ、トゥクク、チクリにつながる道が、ほぼ完了していた。

 これにより移動に擁する時間が3分の2ほどになり、ザンデ周辺の物流や移動が活発化していた。

 今後はトゥククを中心に工事を進め、連合全体へ広げる予定だった。


「ありがとうございます。次は鉄の増産について、お願いできますか」

「おう、鉄の増産は順調だぜ」


 次に説明を始めたのは、ダイカツの村長の弟、ドランガだ。

 すでにダイカツでは従来の5倍の製鉄炉が作られ、順次稼働を始めている。

 最近は食料の供給も順調なため、木炭作り、鉄鉱石掘り、製鉄、鍛冶に従事する人数が増え、鉄器の生産量はうなぎ上りだった。


 そしてダイカツで作られた鉄の農具や武器は、食料と引き換えに出荷され、連合内に普及しつつある。

 さらには高炉の開発も裏で進められているが、これにはまだまだ時間が掛かりそうな状況だ。

 しかし鉄器の普及で農業や狩りの効率が上がり、食料生産にも良い影響が出ていると、各村からの報告もあった。


「ありがとうございました。次はザンデの状況をお願いします」

「うむ、我が村では兵舎や倉庫の建設がほぼ終わり、戦士の集結も完了している。今後は村を守る防御線の構築を進めながら、戦士団の訓練を進める予定だ」

「戦士団の人数は?」

「ザンデに常駐する者が2百人、それからいざという時にはフメイ、トゥクク、チクリから百人の応援をもらう予定だ」

「おお、それだけおれば、人族に不覚を取ることもなかろう」

「まったくじゃ。今度はこちらから攻めてもよいのではないか?」


 カレタカの説明を聞いた人々が興奮し、勇ましい願望を語る。

 しかし武明は、あえてそんな空気に水を差した。


「ちょっと待ってください。基本的にこちらから先に攻めることはしませんよ」

「なぜじゃ? みすみす敵に攻められるよりも、先手を取った方がよいじゃろう」

「そうだそうだ。奴らはアクダとシュドウを、攻め滅ぼしたんだぞ!」


 何人かが先制攻撃を訴えるものの、武明は静かに反論する。


「たしかにそれも一理あるでしょう。だけど俺が先攻策を取らないのは、味方の犠牲を減らすためなんです」

「しかし守るだけでは、なんの解決にもならんだろうに」

「別に守るだけとは言ってません。先に敵に攻めさせて戦力をすり減らしてから、敵の植民地に進撃しようと考えています」

「しかし、そう都合よくいくかな?」


 カレタカからも疑問の声が上がる。


「もちろん相手があるんで、絶対ではないですけどね。しかし、敵を一旦引き込んで罠にはめたほうが、味方の犠牲は少ないですよね? 今まではまず守るのが最優先でしたけど、今後は相手を罠に掛けて、逆襲することも視野に入れます。それが味方の犠牲を減らしつつ、人族に対抗する最高の策ですから」


 それを聞いた武闘派の出席者は顔を輝かせたが、一部には難しい顔をしている者もいる。

 そんな中でポワカが口を開いた。


「さすがはタケアキ。ちゃんと先のことを考えているようだね。しかしその先の落とし所は、どうするね?」

「それこそ相手しだいなんで、はっきりとは言えませんよ。だけど人族を完全に追い出すのではなく、植民地は残した方がいいんじゃないかと思ってます」

「なぜじゃ? 下手に温情を見せても、奴らは感謝するまい? 何しろ人族は、精霊が欲しくて仕方ないのじゃからな」


 ザンデの長の指摘に、武明は答える。


「ええ、そのとおりでしょうね。だけど、完全に交渉を断つのも考え物です。交渉の余地がないと知れば、奴らは全力で攻めてくるかもしれない。それこそ1国だけでなく、複数の国が群がってくる可能性もあります。もしもそんなことになれば、何万、何十万人っていう軍隊が押し寄せるんですよ」

「しかし奴らは森を傷つけるだけでなく、精霊を狩るのだぞ! そんな奴らが許せるのか?!」

「そうだ! そのような輩との共存なぞ、絶対に無理じゃ!」


 何人かが立ち上がって、強い抗議の声を上げる。

 それを見た武明はため息を漏らす。


「はあ……そうなんですよね。タイオワの民と人族とは、その点が絶対に折り合わない。だけど今、短絡的に人族を追い落とせば、ひどいしっぺ返しを受けるかもしれない。ならばしばらくは共存するふりをして、その間に力を蓄えるってのは、ありだと思いませんか?」

「むう、共存するふりか……」

「それならば、まだ……」


 多少は納得する声もあったが、ポワカがさらに追及する。


「ふむ、あんたの言うことも分かるよ。だけど何年待てば、奴らに対抗できるんだい? 何を実現したら、あたしらは強くなったと言えるんだろうね?」

「それは……」


 そんなことを聞かれても、自分には分からない。

 武明はそう言ってやりたかった。

 しかし議長として立った責任感が、そう言うのをためらわせた。

 武明が唇をかんで黙っていると、思わぬ人物から助け舟が出される。


「なんでタケアキさんだけが、責められないといけないんですか?」

「オルジー……」


 ここですっくと、兎人の少女が立ち上がった。


「みんな何か、勘違いしてませんか? タケアキさんはなんでも答えてくれる、神様じゃないんですよ。もちろん現状で一番、人族の脅威を知っているのはタケアキさんですけど、彼だって万能じゃない。タケアキさんにだって分からないことは、いくらでもあるんです。だから足りない部分は、私たちが補わなきゃいけません。彼だけに苦しみを、背負わせないでください!」


 突然はじまったオルジーの演説に、皆が言葉を失っていた。

 しかしその援護射撃のおかげで、武明は元気を取り戻す。


「ありがとう、オルジー。どうやら俺も、最近うまくいき過ぎてて、ちょっと勘違いしてたみたいだ。そうなんだ。俺はそもそも異邦人で、全知全能でもない。もちろんみんなの後押しはするけど、主役は俺じゃない。俺があえて議長を名乗っている意味って、分かりますか?」

「そりゃあ、この会議を主催するからだろう?」

「それもあるけど、俺はこのタイオワ連合が、複数の集団の集合体であることを、明確にしときたかったんです。基本的に全ての村の代表は対等で、俺もその1人に過ぎない。それはこの地を守るのは、あなたたち自身だからだ。だから俺は、あえて王を名乗らず、議長になったんですよ」


 するとポワカが納得の声を上げる。


「ふ~む。言いたいことは、なんとなく分かったよ。つまりタケアキに判断を迫るだけじゃなく、あたしたちにも頭を使えってことだね。特に戦うことばかり主張する、脳筋野郎どもにさ」

「ぐ、それは……」

「きついのう、ポワカ……」


 するとザンデの長が豪快に笑う。


「ホッホッホ、これは一本取られたのう。やはり女は強い。特に恋する乙女はな」


 そう言ってオルジーの方を見ると、彼女は顔を赤らめた。


「え……そ、そんなんじゃないです。私はタケアキさんのおかげで、精霊と契約できたんです。だから……」

「うむ、我らもタケアキ殿からは、計り知れないほどの恩を受けておる。努々ゆめゆめ、それを忘れんようにせんとな」

「ああ、そうだね。みんなで協力して、支えようじゃないか」


 こうしてまた少し、タイオワ連合の絆は深まっていった。

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