39.輸送力の増強
チクリ村でハーフリング族の歓待を受けた武明は、翌日ひっそりと村を後にした。
彼にはニケとハムニが同行し、さらに闇精霊と契約を望む候補者10人も伴っている。
一団は北上しながら闇精霊を見つけ、さらに北の平原でムツアシを補充する予定であった。
「しぇいれい、いるでしゅ」
「お、また見つけたか。全体、止まれ! ニケがまた精霊を見つけた。次の候補は誰だ?」
「お、俺です!」
「じゃあ、付いてきて」
今回の探索行では、ニケが大活躍していた。
元々鋭い感覚を持っていた彼女だが、闇精霊のニヤと契約することでさらに化けた。
契約の恩恵で魔素の反応に敏感になり、精霊を探知できるようになったのだ。
おかげで効率よく精霊を探せるようになり、候補者への紹介は順調だった。
武明とニケは精霊を刺激しないよう、候補者のみを連れて接近する。
すると岩山の一角に開いた穴の中に、精霊らしき反応を発見した。
「マヤ!」
「!!」
すかさず中位の闇精霊マヤを召喚し、仲介を頼む。
黒曜石のような少女は心得たとばかりにうなずくと、スッと穴の中へ入っていった。
やがて彼女が、バレーボール大の黒い霞を伴って現れる。
「その黒いのに手を触れて、契約するんだ」
「は、はい」
武明に促され、ハーフリングの青年が恐る恐る手を伸ばす。
黒い霞に触れてしばしやり取りしていると、霞が形を変えはじめた。
やがてそれはカラスの姿になり、青年の肩に停まった。
「せ、成功しました!」
「おめでとさん」
「おめでとでしゅ」
「は、はい! ありがとうございます~!」
青年が感動の涙にむせびながら、武明とニケに頭を下げる。
その様はちょっと大げさなほどだったが、ハーフリング族にとって闇使いになるとは、大きなステータスだ。
それをいとも簡単に実現させた武明とニケには、どれだけ感謝してもし過ぎることはない。
そんな感動の余韻にひたる彼を促し、仲間と合流すると、ハムニの声に出迎えられる。
「また成功したようですな」
「ええ、無事に終わりました」
「ハムニさん、俺、闇使いになりました!」
元気に報告する青年を見て、ハムニが顔をほころばせる。
「うむ、よかったのう。それにしても、タケアキ殿の仲介による成功率は、驚異的ですな」
「ええ、思った以上に順調ですね。わりと簡単にニケが見つけてくれるんで、助かってますよ」
「むふ~、ニケ、やくに、たってるでしゅ?」
「もちろんだ。最高の助っ人だぞ」
「えへへ、でしゅ」
彼女の金色の髪をなでてやると、ニケはとても満足そうに笑った。
その後も順調に闇精霊を探し歩き、4日間で候補者全ての契約が完了する。
おかげでその晩は、参加者がはしゃいでいた。
「タケアキさんとニケちゃんに、乾杯!」
「「「「かんぱ~い!」」」」
焚き火を囲んだ若者たちが、木のコップを掲げて乾杯する。
さすがに宴会をするほどの酒は持ち歩いていないので、中身はお茶だが、みんなの顔は喜びに輝いていた。
「ウウッ、タケアキさん、本当にありがとうございました」
「俺もっす。まさかこの歳で闇使いになれるなんて、夢みたいっす」
「それもたったの4日で全員契約だなんて、信じられないわ」
「ああ、タケアキさんも凄いけど、ニケちゃんも凄いよな」
ハーフリングの若者たちが口々に喜びを語ると、ハムニも嬉しそうに笑う。
「ホッホッホ、まったくもって、タケアキ殿には驚かされますな。これほどの恩、どのようにしてお返しすればよいのやら」
「いえ、これぐらい、どうってことないですよ。皆さんにはよくしてもらってますから」
「とんでもない。こちらこそ、お世話になりっぱなしです。まことタケアキ殿は、救世主にあらせられる」
「そう言われると、ちょっと照れますね。でもこの後は、皆さんにもバリバリ働いてもらいますから」
「もちろんっすよ。この恩は忘れないっす」
「俺もがんばる~」
こうしてその晩は、和やかにふけていった。
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翌日はムツアシを補充するため、さらに北西へ向かう。
目的地はダイカツよりも北西にある平原で、ムツアシが多くいることで知られていた。
「おお、あそこに群れがおりますな」
「いましたね。まずは近寄って、様子を見ますか」
3日ほど進んだところで、5頭のムツアシを発見した。
ムツアシは5~10頭ほどの群れを、メス中心に組む習性があり、その生態はゾウに似ていた。
今も3頭のメスが2頭の子供を連れ、モクモクと草を食んでいる。
そんな群れを刺激しないよう静かに近寄ると、百メートルほど手前でニケがピョンと飛び降りた。
「ニケ、どうした?」
「はなし、してくる」
「1人で大丈夫なのか?」
「だいじょぶでしゅ」
何やら自信ありげに言うので、武明たちは彼女を見守ることにした。
ニケはトテトテと群れに歩み寄ると、ムツアシが顔を上げて警戒しはじめる。
しかしニケがあまりに小さいためか、まだ逃げなかった。
やがて足元にたどり着いたニケが、その足に触れながら話しかける。
「いっしょに、くるでしゅ」
「ヴモ?」
「おまえ、しごと、しゅる。かわりに、おしぇわ、しゅる」
「ヴヴヴ?」
「あんじぇん、でしゅ」
「ヴフ~」
しばしやりとりをしていたニケが、振り返って手を振る。
「タケしゃま~、はなし、ついたでしゅ~!」
「ありゃ~、あっさり手懐けちゃったな。ムツアシって、こんなに簡単に懐くもんなんですか?」
「とんでもない。普通はもっと手間が掛かるのですが……さすがは精霊の落とし子、なのですかな?」
「ニケちゃん、優秀すぎ~」
「俺たちも負けてられないっす」
それはニケの、最強魔獣使い伝説の始まりであった。