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35.議長就任

「ミズキ、マヤ、フラン」


 武明の召喚に応じ、3体の中位精霊が顕現する。

 まず6歳ほどのミニドレスをまとった氷の幼女が、無邪気に笑いながら現れた。

 続いて8歳ほどの黒曜石のような少女が現れ、和服のような衣装と相まって大人びた微笑みを見せる。

 そして最後に現れた10歳ほどの白水晶の少女は、薄絹をひらめかせながら、勝気そうな笑みを浮かべていた。


 その圧倒的な存在感に、人々が驚愕の表情を浮かべ、しばし言葉を失う。

 やがてザワザワと騒ぎはじめた出席者たちに、ポワカが声を掛ける。


「まあまあ、落ち着きなよ。にわかには信じられないだろうが、彼女たちはれっきとしたタケアキの精霊だよ。物分かりの悪いあんたらを説得するために、わざわざ契約してきたのさ。そうだろう? タケアキ」

「ええ。さすがに中位精霊3体と契約すれば、皆さんに話を聞いてもらえるだろうって、助言をいただきましてね」


 武明がいたずらっぽく笑うと、狐人のバンザが噛みついてきた。


「馬鹿な! あのエルフ族でさえ、中位精霊を3体も従えたことはないはずだ。何かカラクリがあるんじゃないのか?!」

「カラクリ? まあ、無いこともないかな」

「そら見ろ! これはただのまやかしなんだ!」


 まるで鬼の首を取ったようなことを言うバンザに、武明は苦笑する。


「アハハ、違うって。彼女たちはれっきとした中位精霊だ。そんな彼女たちと契約できたのは、俺がタイオワの使者であり、精霊の落とし子の協力を得たからだ。ただそれだけのことさ」

「なんだと? 精霊の――」

「まあ、そういうことさね!」


 バンザが何かを言おうとする前に、ポワカがかぶせた。


「いいかい、みんな。タケアキは立派に、3精霊と契約してみせた。その証拠に彼は、水魔法と風魔法を使いこなしてるし、闇属性で雷イタチを使役してみせた」

「雷イタチって、あの霊獣の?」

「そんなことがあり得るのか?」


 あまりに非常識な話に、出席者から疑いの声が相次ぐ。

 そんな彼らに、ポワカがさらに畳みかける。


「まったく、疑り深いね、あんたら。タケアキ、あれを見せてやりな。ついでに魔法も披露してやるといい」

「はいはい。ライガ、ミライ」

「「キュキュキュ~」」


 武明に呼ばれたライガとミライが、物陰から現れ、近寄ってきた。

 彼らは武明とニケの体によじ登って、その頬をなめる。


「「キュ~ン」」

「くしゅぐったいでしゅ」

「あれが、雷イタチ?」

「俺、初めて見た」


 ざわめく人々を尻目に、武明は用意しておいた桶を取りだして、魔法を行使する。

 それは桶に入っていた水を氷の矢にして、撃ちだす魔法だ。

 見る間に小ぶりな氷矢が形成され、風に乗ったそれが、カツンと標的の木に突き刺さった。


「なんだ、今のは? 氷の矢、なのか?」

「えっ、氷って、魔法で作れるの?」

「聞いたこともないぞ……」


 ひどく常識離れしたものを矢継ぎ早に見せられ、人々は戸惑っていた。

 そんな彼らに、再びポワカが訴える。


「見ただろ、みんな。タケアキによれば、あれは水魔法と風魔法の合わせ技らしい。彼はあたしらとは異なる知識をもって、それを実現してみせた。まあ、そもそも複数の属性持ちじゃないとできないけどね。けど問題なのはそこじゃない。あたしはやっぱり、タケアキが使命を持って、この世界に来たと思うんだ」

「その使命ってのは、なんだい?」


 ドワーフの男が問うと、ポワカは自信満々に答える。


「そんなの決まってるだろう。彼はアクダの魔女が、命を懸けて呼んだ救世主さ。つまりあたしらと精霊を救うために、タイオワが遣わしてくれたんだろうよ」

「またその話か。しかしそもそも、そいつは人族だ。いつ敵に寝返っても、おかしくないじゃないか!」


 またもやケチをつけるバンザを、ポワカは呆れたように見やる。


「あんたの目は節穴かい? タケアキが今まで、どれだけあたしらのために苦労してきたのか、知らないとは言わせないよ。そんな彼が、とうとう3精霊まで味方に付けたのは、分からず屋のあんたらに耳を傾けさせるためさ。こうでもしないと、現実に目を向けない者が、多いからねえ」

「うぬっ、俺たちを愚弄するか!」

「そうだぞ、人族の肩ばかり持ちおって。お前こそ騙されているんじゃないか?」

「はあ……まだ分からないのかい?」


 ため息をつくポワカの後を、武明が引き取った。


「ポワカさん。そこから先は俺がやりますよ。ありがとうございます」

「悪いねえ。大して役に立てなくて」

「いえ、十分ですよ」


 武明は再び立ち上がって、会議場を見回す。


「今、ポワカさんが言ったように、俺はタイオワから遣わされたんだと思います。であるからには、あなたたちタイオワの民が滅ぶのを、ただ見ているわけにはいきません。だから俺はタイオワ連合を正式に立ち上げて、それを率いたいと思います」

「何を勝手な――」

「その話、乗った!」


 またバンザが文句をつけようとするのを、ヤククが大声で打ち消した。


「もちろんトゥククもだよ」

「ならばターキンも賛成しよう」


 するとポワカに続き、別の羊人代表もそれに同調する。


「当然、ザンデも参加です」

「ホッホッホ、ならばチクリも協力しましょう」


 ザンデの代表としてオルジーが声を上げれば、ハーフリングのハムニもそれに続く。

 これで半数の村が連合への参加を表明したものの、狐人族はいまだ反抗的であったし、残りも迷っていた。

 そんな中、ドワーフの男が手を挙げる。


「ちょっと待ってくれ。連合を正式に立ち上げるとか、あんたが率いるとか言われても、よく分からん。仮にそれが実現したら、一体どうなるんだ?」

「たしかにその説明が不十分ですね。簡単に言うと、まずタイオワ連合が成立したら、集落間の道を整備して連絡を良くします。それから最前線になるザンデの守りを固め、他の村の人々には食料生産に集中してもらいます。ただしドワーフ族には鉄を増産してもらって、武器や農具を普及させる予定です」

「ほう、ずいぶんと簡単に言ってくれるが、そんなことができるのか? それとも何か、当てでもあるのか?」


 彼は頭ごなしに否定はしないものの、懐疑的な姿勢を崩さない。


「まあ、決して楽ではないでしょうね。だけど今までバラバラにやっていたことを、分担して得意なことに集中するんです。その分、効率はよくなるでしょう。それに鉄の増産については、俺の知識が役に立つはずです。俺とザバルさんで、紙を量産した実績はご存知ですよね?」

「ああ、紙のことは聞いてる……そうか、鉄についても異界の知識が役立つってんだな。それなら俺たちも、文句はねえ。ダイカツも協力するぜ」

「お、おい、そんなんでいいのか?」


 あっさりとドワーフが同意するのを見て、バンザが慌てる。

 すると今まで様子見をしていた他の集落も、雪崩を打つように参加を表明した。

 そんな中でバンザだけは、最後まで抵抗しようとする。


「ちょっと待て、こんな人族に従うなんて、本当にいいのか?」

「人族とはいえ、異界からの使者じゃからな。それに精霊にも愛されておる」

「そのとおり。我らに害なす者であれば、ああまで好かれはせんだろう。それに、実際よくやってくれておるしな」

「そうですぞ。タケアキ殿のおかげで連絡はよくなり、シュドウの民も多くが救われたのです。それにもし、オヒアだけが協力しないとなれば、後々困ることになるのではないですかな?」

「べ、別に協力しないとは言ってない」


 他の代表に諭され、とうとうバンザが弱音を吐きはじめた。

 そんな彼に、武明が最後のひと押しをする。


「それではオヒアも、参加でよいですか? なんでしたら俺が、説得にいきますけど」

「や、やめてくれ。俺だって代表を任された身だ……分かった。とりあえずは参加でいい。ただし、変なことをしたら、いつでも抜けるぞ」

「今はそれでいいですよ。でも自分のところだけ楽をしようとか、そういうのは無しです。そんな余裕はありませんからね。ぜひ皆さんの力を、俺に貸してください」


 武明がそう言って頭を下げると、拍手が沸き起こった。

 なんとか全ての村がまとまったことに、彼は安堵の意気を洩らす。

 するとポワカが思いだしたように尋ねてきた。


「ところで連合を率いるあんたのことは、なんて呼べばいいんだい?」

「う~ん、そうですね……これから連合議会を仕切ることになるので、議長とでも呼んでください」

「よし、タケアキ議長、これから頼むよ」

「こちらこそ」


 ここにタイオワ連合の正式な発足と、武明の議長就任が決定した。

 しかしそれは、苦難の始まりであることも、彼は理解していた。

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