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33.霊獣との契約

 ニケと一緒にイタチのような魔獣を従え、武明は帰還した。

 するとそれを見たポワカとオルジーが、また呆れた声を上げる。


「おいおい、それは雷イタチじゃないのかい?」

「タケアキさん、それって、すっごく珍しい魔獣ですよ。どちらかというと精霊に近くて、霊獣とも呼ばれる存在です」

「へ~、そうなの? こんなにかわいいのに」

「キュン、キュ~ン」


 なぜか責めるような視線を受けながら、武明はイタチを抱き上げて、なでてみせる。

 するとイタチは嬉しそうに、武明の顔をなめた。


「これ、かみなりいたち、いうでしゅか?」

「……う、うん、そうなのよ、ニケちゃん。怒ると雷みたいな攻撃を放つから、そう呼ばれるんだって。私も見たことはないけど」


 その言葉に、武明が引っかかるものを感じた。


「あれ、見たことないのに、なんで分かるの?」

「それはもう、有名だからですよ。金色に輝く背中に、雷のようなギザギザが付いてる魔獣なんて、雷イタチしかありませんから」

「へ~、そうなんだ。たしかにギザギザが雷っぽいね」

「キュ~」


 その姿形は普通のイタチのようだが、黄金色に輝く背中には、4本の黒いギザギザの筋が縦に走っていた。

 一応、肉食獣らしい爪や牙も持っているのだが、その黒い目はパッチリと可愛らしく、あまり狂暴に見えない。

 使役の練習台として捕まえてはみたものの、解放してもいいかと武明は思っていた。


「そんな珍しい魔獣なら、解放した方がいいのかな?」

「馬鹿もん! なんて罰当たりなこと言うんだい!」

「え~っ? なんか、まずいですか?」

「当たりまえじゃないか。霊獣はその辺の魔獣よりも、高い知性を持ってるんだよ。それを一方的に捕まえておいてまた放りだすなんて、失礼にも程がある。下手すると暴れて、村が燃やされるかもしれないよ」


 ポワカにきつく叱られて、武明とニケは微妙な表情で見合う。


「……え~と、だったらこのまま連れてけばいいんですよね。何か気をつけることって、あります?」

「ありましゅ?」


 するとポワカはほとほと呆れ果てたというように、額に手を当てる。


「まったく、あんたらは…………別に普通にしてる分には、何も問題ないはずだよ。ただし、下手に怒らせれば、村がひとつ燃えるぐらいの危険があるってことは、覚えておきな」

「そうですね。霊獣は賢いですから、ひどい扱いをしなければ、むしろ役に立つと思いますよ」

「あ~、分かりました。気をつけます。な、ニケ」

「はいでしゅ」

「キュン、キュ~ン」


 すると武明たちの話が済んだことを理解したのか、雷イタチが何かをせがみだした。


「あれ、何かせがんでるかな?」

「たぶん、なまえでしゅ」

「あ~、そうか。後回しにしてたからな」


 とりあえず雷イタチの使役に成功した武明とニケは、その場で名前を付けることを控えていた。

 ポワカらに見せた後、解放することも考えていたからだ。


「それじゃあ、なんにしようか。たぶんこいつら、つがいだよな?」

「しょうだと、おもうでしゅ。こっちが、めしゅでしゅ」

「だよな~……それなら、こっちが”雷牙ライガで、そっちは”美雷ミライでどうだ? ライガは雷の牙って意味で、ミライは美しい雷だ」

「しょれ、いいでしゅ。おまえは、ミライでしゅ」

「お前はライガだ」


 すると2匹の雷イタチは、ふいにニケと武明の手に噛みつき、その血をなめた。


「いたい、でしゅ」

「いてっ」

「「キュキュ~ン、キュキュ~ン!」」


 噛みつかれて顔をしかめる2人をよそに、ライガとミライは天に向かって声を上げた。

 そしてひとしきり鳴き終えると、武明とニケの前で頭を垂れる。

 その時初めて、彼らはライガたちと何かが通じているのを感じた。


「あ、ライガの気持ちが分かるような気がする」

「あたしも、ミライと、つながったでしゅ」


 それは精霊と契約した時の感覚によく似ていた。

 やはり同じ言語を持たないために明瞭ではないが、なんとなく相手の気持ちが分かるという感じだ。

 その一部始終を見守っていたポワカが、興味深そうにつぶやく。


「やっぱり霊獣となると、普通の使役契約と違うのかねえ」

「ええ、精霊との契約に近い感じですね」

「そうかい……なんにしろ、タケアキのことだから大丈夫とは思うけど、ちゃんと面倒は見るんだよ」

「もちろん。邪悪な感じとかはないので、迷惑を掛けることはないと思いますよ。むしろ、俺たちを助けてくれそうです」

「しょうでしゅ。ミライ、いいこでしゅ」

「あ~、そうかい。まったく、あんたらと話してると、調子が狂うよ」

「ほんとですね~。ほとんど伝説に近い霊獣を使役するなんて、嘘みたいです」


 そうやってオルジーと一緒にぼやいていたポワカが、ふいにまじめな顔で武明を見据える。


「さてと。これで武明は、3属性の中位精霊を使いこなせることを示したわけだ。あたしはこれをもって、タイオワ連合の緊急会議を招集しようと思う」

「緊急会議、ですか?」

「村の長もしくはその全権を担った代理をこの村に集めて、今後の話をするのさ」

「いきなり呼んで、集まりますかね? まずは俺が、説得して回るつもりでしたけど」


 武明の疑問に対し、ポワカは自信ありげな笑みを返す。


「その辺はあたしの権威がモノを言うのさ。正当な理由さえあれば、人を出させるぐらいの信用は、あると思うよ」

「なるほど、それは助かりますね。いちいち回ってたら、時間が掛かって仕方ないから」

「そうだろう? そんなことするくらいなら、あたしの呼びかけで会議を開いて、そこであんたの力を認めさせればいい。3属性の中位精霊を従え、霊獣をも使役する男。まず誰にも無視はできないだろうさ。少々強引に迫ってでも、連合への協力を誓わせればいい」


 ポワカが舌なめずりするような顔で、物騒なことを言う。

 そんな彼女に苦笑しつつも、武明はその話に乗った。


「それ、いいですね。ポワカさんが協力してくれるなら、話が早そうだ。ここはひとつ、自重をやめて大胆にいきますか」

「その意気さ。よし、すぐにでも伝霊を出そう。ただちにトゥククへ集まれってね」

「はい、よろしくお願いします」


 嬉しそうに微笑む武明に、オルジーが寄ってくる。


「良かったですね、タケアキさん。話が進みそうで」

「ああ、オルジーも協力してくれよ」

「もちろんです。アレザと契約させてくれたご恩は、忘れませんよ」

「ニケも、きょうりょく、しゅるでしゅ」


 張りきってナタを振り回すニケを見て、みんなが笑いだす。


 この日、トゥククの長ポワカの名前で、近隣の村へ緊急会議の開催が通達された。

 より多くの人を巻き込むべく、武明の計画が動きだす。

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