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30.風魔法の練習

2018/12/8 サブタイを変更しました。

 ポワカの協力を取りつけた武明が、まず彼女に願ったのは精霊術の指導だった。


「精霊術の使い方って、あんたもう使えるだろうに?」

「いやあ、そうは言っても水魔法を少々使えるぐらいで、大したことはできないんですよ。なまじ我流でできちゃったから、基礎を知らなくて、ちょっと行き詰まってるんです」


 最初、呆れていたポワカも、それを聞いて思い直した。


「ふむ、たしかにそうかもしれないね。ちょうど風精霊を手に入れたんだから、あたしが手ほどきしてやろう」

「それは助かります。ところで精霊術のことを、普通に魔法って呼んでますけど、精霊術以外にも魔法ってあるんですか?」

「ああ、精霊を介さない魔法ってのも、あるにはあるよ」

「それはどんなもので?」

「精霊に頼らず、自身の魔力だけで事象を改変する術だから、”魔術”と呼ばれている。だけど、かなりの魔力量を必要とするし、世界のことわりにも精通してないといけないから、使える者はほとんどいないのが実状さ。聞くところによれば、エルフ族が契約していない属性を操るために、魔術を研究してるって話だね」

「なるほど……いつかエルフに会ったら、聞いてみたいですね」

「あいつらは気難しいから、無理かもしれないよ。いずれにしろ今は、精霊術を仕込んでやろうじゃないか」

「よろしくお願いしま~す」


 魔法の練習のため、彼らは村を出て開けた場所まで移動する。

 そして手頃な丸太を地面に突き刺して標的にすると、ポワカの指導が始まった。


「いいかい。ひと口に精霊術と言っても、いろいろさ。その技は術師の発想によって、いくらでも拡がる。結局は自分が何をやりたいかをしっかりと頭の中に描き、いかにそれを精霊に伝えられるかが大事なのさ……フンッ」


 おもむろにポワカが右手を突きだして気合いを入れると、手から風の塊が飛びだし、丸太に当たって音を立てた。

 それはほとんど目に見えないが、バレーボールほどの大きさの風塊だった。


「風による打撃ですね……呪文とか、技の名前は唱えないんですか?」

「それは人によるね。低位精霊は理解力が乏しいから、そういう約束事を決めておいて使う者は多い。その点、ハモンは優秀だから、あたしは無詠唱でいいのさ」

「ははあ、なるほど……」

「これからいくつか技を披露するから、そこで見ておいで」


 その後、ポワカがいくつかの風魔法を披露した。

 それは複数の風塊を撃ちだす技や、竜巻を操る技、そして風の壁で攻撃を防ぐ技などだ。

 さらには手に持った石を風で飛ばし、攻撃する技も披露してくれた。


「フウッ……久しぶりに立て続けにやって、息が上がったよ。あたしもなまってるね」

「いやいや、見事なもんですよ。参考になりました」

「本当かい? それならあんたも、ちょっとやってみな」

「それでは失礼して」


 武明はポワカと位置を替わり、丸太から10メートルほど離れた場所に立つ。

 そしておもむろに右手を掲げると、風塊を放った。

 それは瞬時に丸太に当たり、スパーンという小気味よい音を立てる。


「あれ、ポワカさんのよりも、鋭くないですか?」

「う~ん、イメージの違いかな」

「いめーじ?」

「あ~、心に浮かんだ姿とか現象みたいなもの。俺は少し圧縮した空気の塊を思い描いて、フランに頼んだんだ」

「なんだって? それはどういう意味だい?」


 オルジーと武明のやり取りに、ポワカが食いついた。


「え? だから空気を圧縮するんですよ。こう、空気を逃がさずに、ギュッギュッと押し潰すような感じで」

「む、もうちょっと詳しく」

「ええ~……それじゃあ空気って、なんだと思います?」

「空気は空気だろう? あたしらの周りにある、風の元だ」

「う~ん、実は空気ってのは無数の目に見えない元素で構成されてまして――」


 それから武明は、地面に絵を描きながら、空気の概念を語った。

 自分たちの周りには、無数の酸素、二酸化炭素、窒素などの原子が分散していて、それを圧縮すれば密度が上がること。

 また気圧の差によって空気が動き、風が発生することなどを説明した。


「なんとまあ、まるで見てきたかのように語るねえ、あんた」

「実際に見たわけじゃありませんけど、元の世界ではたくさんの人間が研究して、証明してきたことですから。そんな内容を、俺たちは学校で習うんですよ」

「へ~、そんな凄い学問を授けられるなんて、よほどいいとこの坊ちゃんだったのかい?」


 ポワカが信じられないといった顔で尋ねるのを見て、武明は苦笑した。


「違いますよ。俺の世界では6歳から15歳まで、誰でも教育を受けられるんです。別に有力者である必要はないですね」

「むう~……どんだけ豊かな世界なんだい」

「まあ、豊かだったのは、事実ですね。身の回りの物事を調べて体系化する科学、という学問を元にして、いろんなものを作って便利にしてきましたから。その辺はこの世界の人族も、似たようなもんでしょ。でも魔力や精霊の存在がある分、ちょっと違うかな」

「なるほどねえ」


 そんな話をひとしきりして、ポワカが再び話を戻す。


「つまり何かい? 物事の構造や原理を知っていれば、より精緻で強力な術が使えるってことだね?」

「ええ、その理解で正しいです。まあ、すでに術が使えてる時点で、それなりに理解してやってはいるんでしょう。だけど、そこに別の視点を加えることで、さらに幅は広がると思います」

「ふ~む、まあ、まずはやってみようか……そら!」


 ポワカが先ほどと同じように、風弾を放った。

 それは標的に当たると、少し鋭い音を立てる。


「う~ん、そう簡単にはいかないねえ」

「ああ、それは最初から空気を圧縮してないからですよ。こんなふうに、密度の濃い空気を思い描いてください」

「密度って、こうかい?」


 その後しばらく、武明とポワカの風魔法談義が続いた。

 ポワカは従来の風魔法を披露し、武明がそれをマネし、さらに改良を加える。

 そうするうちに、次々と2人の魔法は強力になり、技の種類も増えていった。


 しかしポワカが先に音を上げる。


「ちょっと待った。あたしはもう魔力が限界だよ」

「そうですか。それじゃあ、今日のおさらいをするので、見ていてくださいね。まずは障壁」


 すると武明の周りに風が渦巻き、2メートルほどの高さの障壁ができあがった。

 障壁といっても、武明を中心に半径1メートルほどの空間が歪んでいるだけで、見た目はほとんど防御力がないように見える。

 しかし誰かが彼に向けて石を投げても、矢を射ても、狙いをそらす効果があった。

 その後も強力な風弾や、人を巻き上げるほどの渦巻き、10人以上を吹き飛ばすほどの突風を作りだしてみせる。

 それを見ていたポワカとオルジーが、呆れと感嘆の混じった声を上げた。


「なんとまあ……あたしの20年は、なんだったんだろうね。使い方によって、こんなに威力が変わるとは」

「私も初めて見ました。精霊と対話をしつつ、自然の理を理解すれば、これほどのことができるんですね」


 しかし武明は首を横に振る。


「こんなのまだまだですよ。他にも工夫のしようは、いくらでもありますから。例えばこれならどうだ、カマイタチ!」


 そう言って右手を振るうと、風が唸りを上げて標的に迫る。

 しかしそれは、スパーンという音を立てただけで、なんらダメージにはならなかった。


「今のは何をやったんだい?」

「ちょっと真空を作りだして、風の刃で切りつけたつもりなんですが、全然だめですね」

「風の刃だなんて、妙なことをするね。風で物が切れれば、苦労はしないよ」

「おっしゃるとおり。俺の世界ではそういう技を空想してたんですが、やっぱ無理みたいです」


 ポワカのツッコミに、武明は恥ずかしそうに頭をかく。

 世にいう鎌鼬かまいたち現象も、実は人の思い込みであり、現実にはあり得ないことだ。

 しかしこの世界でならひょっとして、と思ってやったものの、真空に近い状態を作るには膨大な魔力がいるし、手元を離れたら維持もできない。

 残念ながらマンガのような風の刃は実現できない、そう確認できただけだった。


 そんな失敗にちょっとがっかりしている武明に、オルジーがためらいがちに声を掛けた。


「あ、あの~、タケアキさん。私の水魔法を、見てもらえませんか?」

「え? でも俺は大したことできないよ。他の水使いの人に見てもらった方が、いいんじゃないかな?」

「でもタケアキさんだって、水使いになって数ヶ月は経ちますよね。それにシュドウでは戦闘もしたっていうし」

「ん~、まあそれもそうだけど……」


 武明がためらっていると、ポワカがオルジーの肩を持った。


「そう言わずに見ておやりよ。オルジーはアクダの魔女を間近に見てきたから、普通の水魔法も知ってるよ」

「ああ、それもそうですね。それじゃあ、2人で水魔法も練習してみようか」

「はいっ、お願いします!」


 魔法の修行は、まだまだ終わらない。

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