表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/54

29.ポワカの説得

 なんとかザンデの村で話をつけた武明は、慌ただしく次の村へ向かった。

 行先は羊人族の村トゥクク。

 風の中位精霊を持つ女傑、ポワカが治める村だ。


「久しいねえ、タケアキ。しかし急に会いたいだなんて、どうしたのさ?」

「お久しぶりです、ポワカさん。今日は折り入ってお話があってきました。まずはこれを見てください」


 そう言いながら武明は、ミズキ、マヤ、フランを召喚した。

 さらに横にいるオルジーもアレザを、ニケもニヤを召喚してみせる。

 それを見たポワカは、口を開けたまま固まってしまう。


「……なん、だって? 中位精霊を3体も。おまけにオルジーとニケちゃんまで契約したのかい?」

「ええ。思うところがあって、精霊を探す旅に出ていました。その結果がこれです」

「この数ヶ月で3体も中位精霊を見つけたってのかい? そんなの聞いたことがないよ」

「まあ、いろいろと幸運が重なりまして」


 武明が頭をかきながらごまかすと、ポワカがきつい目でにらむ。


「ただの幸運でそんなこと、できるはずないじゃないか。何か秘密が……そうか、精霊の落とし子だね」


 さすがは中位精霊持ち。

 ポワカはすぐさま事情を察し、ニケに視線を当てた。


「さすがはポワカさん。あっさりと答えにたどり着きましたね。それでもまだ、半分ですけど」

「半分だって? 何か他にも、要因があるってのかい?」

「ええ……残りの半分は、俺らしいです。タイオワの使者として呼びだされた、俺の存在がね」

「タイオワの使者に、精霊を惹きつける力があるってのかい?」

「ザンデの魔女の話では、そのようです。タイオワの使者も、獣人の希少種も、精霊に好かれるみたいですね」

「……なるほど。そういうことかい。オルジーもそれに便乗して、契約してきたんだね」


 探るようなポワカの視線を、オルジーは正面から受け止めた。


「はい。私もようやく相棒を見つけられました。それを助けてくれたタケアキさんには、全力で恩返しをするつもりです」

「……そうかい。たしかにあんたは、才能ありそうだったからね。よかったじゃないか」


 ポワカは懐からキセルを出すと、タバコを詰めて火を着けた。

 そして気持ちを落ち着かせるようにひと口吸うと、武明に問いかける。


「それで、これだけの準備をして、何をしようってんだい?」

「タイオワ連合を、もっと強くしたいと思います。それには各集落のつながりを強めるだけでなく、戦力も調ととのえる必要があります」

「ほう、いい顔をするようになったじゃないか。察するに、シュドウの件かい?」

「ええ、シュドウでは俺の無力さを思い知りました。せっかく連合を立ち上げておきながら、いざという時に結束できなかった。そしてたかだか200人の敵に、負けたんです」

「ずいぶんと偉そうなことを言うじゃないか。あんた、英雄にでもなったつもりかい?」


 ポワカがキツイ視線で、武明をにらみつける。

 しかし武明は肩をすくめるだけで、それを受け流す。


「フッ、本当に俺が英雄なら、シュドウを救ってますよ。だけど俺たちを逃がすために命を張った人々を見て、決心したんです。もう遠慮はやめようって」

「ハッ、今までは遠慮してたのかい?」


 ポワカの皮肉に、武明は口元を歪める。


「正確には遠慮じゃなくて、敵を甘く見てたって感じですかね。俺が前面に出なくたって、連合を立ち上げて、住民の背中を押してやれば、なんとかなると思ってました。だけどそれじゃあ、全然間に合わない」

「間に合わないって、何が?」


 ポワカに問われた武明は、彼女の赤い目をひたと見つめた。


「人族の動きが、想像以上に速いってことですよ。おそらく精霊の存在が、その動きを速めています」

「それはどういうことだい?」

「人族は精霊を封じた武器で、シュドウを襲ってきました。風で鉛の玉を飛ばしたり、火を吐く武器もありましたね。奴らはそんな武器を、短期間で倍増させたんです。その秘密がこの地にあるのだとしたら、どうなります?」

「この地の秘密ってのは、なんだい?」

「これはハムニさんに聞いたんですが、しばしば人族は精霊の情報を求めてきたそうです。その話の中で、海の向こうで精霊は、ほとんど狩り尽くされたようなことを言ってたらしいんです。もしそれが事実なら、奴らにとってこの地は垂涎の的ですよ」


 するとポワカの顔がそれまでになく厳しいものに変わる。


「むう……それが本当なら、人族にとってこの地は、戦力を増やすための絶好の狩場じゃないか」

「ええ、精霊を狩れば狩るほど、連中は武器が増やせるんです。そしてその武器で、植民地をさらに広げようとしている。精霊は祖国にも還元されて、戦力をさらに底上げするでしょう。そしたら周りの国もそれに気がついて、この地に押し寄せるかもしれない。そうなったら、もう止めようがありませんよ」

「なんてこったい……」


 ようやく事態の深刻さに気づいたポワカが、真っ青になってキセルを取り落とした。

 やがて気を取り直した彼女が、キセルを取って再び火を着ける。

 そしてひと息吸ってから、また口を開く。


「あんたの言うことが事実なら、かなりヤバいことになりそうだね」

「ええ、俺もそう思います。だからここは無理矢理にでも連合をまとめ直して、人族に備えなければいけないんです」

「ああ、そうでもしないと、どうにもならないだろうね。そしてそれを主導できるのは、3属性の中位精霊を持つあんたしかいない。そういうことだね?」

「はい、そのために無理をして、彼女たちを手に入れたんです」


 ポワカはまたタバコを吸いながら考え込み、やがて決意のこもった顔を見せる。


「分かったよ。あたしも傍観してるような状況じゃないようだ。今後はあんたに、全面的に協力しようじゃないか」

「ありがとうございます」

「ごじゃましゅ」

「いや、これはもう他人事じゃないからね。それで、あたしらはどうすればいいと思う?」


 それから武明は、ザンデの魔女に話したことを、ポワカにも語った。

 連合の結束を強化してから、街道の整備、食料生産の増強、鉄製品の増産を進め、並行してザンデを強化する案だ。

 そしてゆくゆくは、3大獣人やエルフまでも巻き込むたいと聞くと、ポワカは呆れた声を出す。


「なんとまあ、そこまで考えてたのかい? 呆れたもんだねえ。だけどもう、それぐらいしないとならない事態になってるのかねえ」

「俺はそう思います。だから早急に連合の体制を固めたいんです」

「分かったよ。あたしにできることなら、なんでも協力しようじゃないか」

「あ、それじゃあまずひとつ、いいですかね?」

「なんだい?」

「俺に精霊術の使い方を、教えてください」


 武明はそう言いながら、にこやかに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ